木村 真大 理事長の独自取材記事
きむら内科小児科医院
(廿日市市/阿品駅)
最終更新日:2025/04/04

廿日市市の住宅地にある「きむら内科小児科医院」は、1983年の開院以来、身近な地域のかかりつけ医として、内科、小児科、消化器内科の診療をしてきた。現在は、木村泰博院長の息子である木村真大理事長が加わり、在宅緩和ケアを含む在宅診療に注力するとともに、デイサービスや居宅支援事業所、訪問看護ステーションも開設して医療と介護の連携体制を整えている。真大理事長は総合診療や救急医療の経験が豊富で、在宅医療にも精通している。また、小児科医として小児の在宅医療に関しても研鑽を積んできた。「小児科から在宅医療まで間を空けることなく、かかりつけ医として診察したいと思います」と語る真大理事長に、在宅医療にかける思いや、患者や家族をサポートするための多職種による連携などについて聞いた。
(取材日2025年2月26日)
質の高い在宅医療を提供
先生の経歴を教えてください。

大学卒業後、飯塚病院で総合診療や内視鏡検査を担当していました。6年目からは重症チームで、高度治療室(HCU)で集中治療が必要な患者さんだけを診察していました。その際に患者さんたちが病院に運ばれて来なくて済むためには何をすべきかと考えるようになったのです。そのとき、地域医療の重要性に気づきました。そこで、頴田病院に移り、内視鏡検査と総合医療に従事し、訪問医療についても学び、2019年に在宅医療専門医の資格を取得しました。2021年5月より、父が院長を務める「きむら内科小児科医院」に勤務となりました。
こちらのクリニックでは、在宅医療に力を入れていると伺いました。
当院は1983年の開院以来、身近な地域のかかりつけ医として、内科、小児科、消化器内科の診療をしてきました。また、かかりつけの患者さんを中心に、在宅緩和ケアを含む在宅医療や施設訪問を行っていました。私が勤務を開始してから、以前よりも多くの在宅医療の患者さんに対応できるようになりました。廿日市市でここまで多くの方の在宅医療に対応しているクリニックは少ないと思います。また、当院は在宅医療を専門的に学べる施設でもあり、在宅医療を志す医師が複数人在籍しております。
小児の在宅医療について教えてください。

全国的な問題なのですが、小児の訪問診療をしているクリニックが少ないんです。大人であれば、きちんと検査をして、在宅でしっかり診療できるのですが、小児は熱があるとすぐ病院に送ってしまう傾向があります。それを何とかしたいと考え、東京にある「さいわいこどもクリニック」で約2年半、小児科医として外来診療、在宅医療、予防接種などを担当してきました。小児の在宅医療に力を入れているクリニックであり、今でも当院の小児科診療に対してアドバイスを頂くこともあります。現在は当院でも、小児の在宅医療を積極的に受け入れています。
信頼できる医師が、出生後から最期まできちんと診る
先生がクリニックで一番にやりたいことは何でしょうか?

やはり在宅医療ですね。広島ではまだ在宅医療を専門とする医師が少ないのですが、当院は在宅医療について医師が専門的に学べる施設として運営していますので、そんな医師が珍しくないようにしたいと思っています。2040年は、人口減少と少子高齢化がさらに進行し、死亡者数が現在の140万人から170万人になるといわれています。医師の数は今でさえギリギリという地域もあるのですから、確実に不足します。それに対応するには、質の高いプライマリケアを提供できる医師を増やすことが重要だと思います。経験を積んだ医師は、内科全般はもちろん、外科や皮膚科、精神科、緩和ケアまで幅広い疾患への対応が求められます。私は廿日市市を離れたことはほとんどありません。オンコールもほぼ私が持っており、24時間365日救急対応しています。夜中でも患者さんのところへ飛んでいく院長の姿を見て育ったのが大きいですね。
印象に残っている患者さんはいらっしゃいますか?
病院で救急医療を担当しているとき、敗血症性ショックの患者さんが運ばれてきました。ご家族に連絡したところ、開口一番「家に帰してあげたい」と言ったのです。「どういうことですか?」と聞いたら「おじいちゃんは畳の上で死にたいと言ってたのに、間違えて救急車を呼んでしまった」とおっしゃるのです。でも、このまま帰してしまったら、途中で亡くなるかもしれません。そこで、連携病院の在宅医療部長に電話をしました。「家に帰すなんて無茶だ」と言われるかと思ったら、すぐに引き受けてくれて、自宅にお帰しできました。ご自宅には連携病院の医師や看護師が待機していて、すぐ処置してくれました。家族は「良かった」と涙を流し、患者さんが亡くなった後はごあいさつに来てくれました。その経験があって、在宅医療の重要性を認識するようになったのです。
クリニックの理念を教えてください。

「出生後から最期までをきちんと診る」を理念にしています。小児科だと通常15歳まで、また高齢者は通院できなくなると診察できなくなりますが、当院は小児科から在宅医療まで間を空けることなく、かかりつけ医でいられます。数十年ずっと通院していたのに、通えなくなったら別の医師が診るというのは、患者さんにとって不安だと思うのです。当院の患者さんの中にも、最後は院長先生に看取ってほしいと言う方が結構いらっしゃいます。これこそが地域医療だと思います。私もこれから質の高い地域医療を当院でしっかりと引き継いでいきたいです。
多くの職種が一丸となり、患者や家族をサポートする
デイサービスや訪問看護ステーションも開設されたそうですね。

医療と介護の連携を通じて、住み慣れた場所でいつまでも暮らしていただけるよう、2005年に「デイサービスきむら みんなの家」を、2020年に「きむら訪問看護ステーションミモザ」を開設しました。例えば、認知症の治療は、内服薬のみでなく、社会的な活動が必要と考えています。そういった方には、外来からデイサービスをご紹介します。訪問診療している患者さんもデイサービスを使用されている方は多くいらっしゃいます。なお、訪問診療の対象となる方は、ご自身で通院が困難なすべての方になります。在宅医療を行う上で、身体的ケアであったり24時間の対応を行うため、訪問看護ステーションを利用される方も多くいらっしゃいます。訪問看護ステーションと訪問診療はともに緊急時は24時間365日対応しており、連携しています。
多職種連携について教えてください。
当院は訪問診療に特化していますが、医師だけではできません。というより、医師が関わるのはほんの一部で、普段の生活を見てくれるホームヘルパーや看護師、ケアマネジャーの役割が大きいんです。彼らは、家族と一丸になって、患者さんをサポートしています。なお、その際はビジネスチャットを利用して連携を強化しています。また、当院は訪問リハビリテーションも行っていますので、今後は理学療法士、作業療法士、嚥下障害のリハビリテーションを行う言語聴覚士、管理栄養士など、さらに職種を増やして連携したいと考えています。事業所が異なると連絡が取りづらかったり、上手く伝わらなかったりすることがありますが、当院は院内で連携するので、動きがスムーズで、緊急の受け入れにも即対応できるのが特徴です。
読者へのメッセージをお願いします。

訪問診療では、コールがあると現場に早く行ける医師が伺います。その場合、主治医ではないこともあります。ただし、現場で迷うことがあれば、主治医とオンラインでつなぎ、一緒に診察を行います。時代と逆行するかもしれませんが、当院は「主治医感」を大切にしているのです。特に看取りやグリーフケアでは、長い間、お付き合いしてきた主治医の存在が重要になります。患者さんが夜間に亡くなると、当院は夜中であろうと駆けつけます。その場に居合わせることで、家族の悲嘆やうつ状態を軽減するグリーフケアにつながると考えているからです。訪問診療に関するお悩みがありましたら、どのような些細なことでも当院にご相談ください。