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河野 美代子 院長の独自取材記事

河野産婦人科クリニック

(広島市中区/本通駅)

最終更新日:2022/07/27

河野美代子院長 河野産婦人科クリニック main

広島電鉄広電1号線の本通駅からすぐの「河野産婦人科クリニック」。院長を務めるのは、広島県内では女性産婦人科医師の先駆者的存在である、河野美代子先生だ。診療とともに長年、性教育の普及に尽力し、講演活動をライフワークとしている。取材の合間には電話口で「彼女の気持ちをもっと考えて」と厳しく伝えたかと思うと、別の電話では「頑張ったね、何も心配いらないからね」と優しく語りかける。そのどちらにも、悩む人への深い愛情が感じられた。院内には電話ボックスが設置されているが、これは訪れた人が周囲を気にせず大切な電話をかけられるようにするためだといい、こうしたことからも河野先生の優しさが伝わる。今回は、そんな先生に診療に関してはもちろん、性教育で大事にしていることについてもじっくりと語ってもらった。

(取材日2022年6月16日)

妊娠・出産に限らず幅広い悩みに寄り添う

日々どのような患者さんが来院されますか?

河野美代子院長 河野産婦人科クリニック1

まず、産婦人科は妊娠だけではなく、幅広いお悩みを相談いただける診療科です。でも敷居の高さを感じられることも多く、検査や受診をためらっているうちに病気が悪化してしまうことも。実際、子宮頸がんの死亡率は年齢とともに増加する傾向にありますので、早めに検診を受けていただきたいですね。また、更年期障害の疑いがある方もご相談いただいており、漢方薬やホルモン補充療法などの治療をしています。当院には10代から90代の女性まで、また性別や年齢を問わず性同一性障害に悩む方も来院されています。どのようなご相談にも寄り添いたいと思っています。

特別養子縁組の支援もひとつの寄り添いの形ですね。

そうですね。産んでも育てられない事情がある人には、安心して出産できる環境を整え、養子縁組のお手伝いをして、ご本人と生まれてくる子がその後の人生をしっかり歩んでいけるよう支えています。私が勤務医時代に初めて養子縁組をお世話した子はもう35歳に。子どもだけでなく生んだ女性のフォローも大切にしてきました。また望まない妊娠への中絶手術を希望する方には手術のために他院を紹介し、術後は当院にて経過観察、今後のための避妊指導なども行っています。

性同一性障害のご相談も繊細な領域です。

河野美代子院長 河野産婦人科クリニック2

性同一性障害の人たちの苦しみは切実です。学校では制服の問題があったり、髪を伸ばしたいのに校則違反だと厳しく指導されたり、そういったことが子どもたちにとって大きな負担になります。また、自分は男だと思っている子にとって毎月生理があるのはつらいことで、うつ病になるケースもあります。20歳未満の方でもご相談いただけますし、20歳以上になれば手術も選択肢となります。ただ多くの場合、高額な治療費がネックになっています。私は手術可能な医療機関や費用に関する情報を提供するなどなるべく支援させていただいています。

診療に加え講演・執筆活動にも精力的に取り組む

先生が産婦人科の道に進まれた理由をお聞かせください。

河野美代子院長 河野産婦人科クリニック3

私が医学部生だった頃は、女性が性被害に遭うと「本人が油断していたせいだ」などと言われ、また産婦人科医師でありながら、妊娠・出産する女性医師は必要ないと公言する男性医師がいるような時代でした。何としても女性産婦人科医師を増やさなければと思い、この道に進みました。大学病院から総合病院に移ってからは、女性医師の育成に注力し、私も後輩たちも育児をしながらの勤務で、時間が来たらすぐに帰れるようてきぱきと働いていましたね。自宅と保育園は職場の近くを選び、当直の際は夫の協力を得るなどして子育ての環境を整え、ハードな毎日を乗り切っていました。幼かった子どもたちが高校生になる頃に、今後の体力的なことも考えて開業を決意しました。それから30年以上、多くの女性産婦人科医師が活躍している現状をたいへんうれしく思います。

診療内外での精力的な「性教育」も先生を語る上では欠かせませんが、そのきっかけは何ですか?

性行動が原因でさまざまな問題を抱えてしまう10代の女性と出会うたびに、若い女性があまりにも無防備で、正確な知識を持ち合わせていないことを痛感しました。この件で、とある大学の先生方と大きな議論を発展させ、それをきっかけにPTAの方から初めて講演を依頼されたんです。以降、徐々にご依頼が増え、講演の内容をまとめた書籍も出版させていただきました。また、テレビで少女たちの産婦人科受診に関する特集番組が全国放送された際にも反響があり、多くの講演依頼のお声がけをいただくようになりました。

総合病院でご多忙だった頃かと思います。当時の活動にかける思いは?

河野美代子院長 河野産婦人科クリニック4

通常診療、夜間の呼び出し、子育てに加え、講演のためあちらこちらへ飛び回っていましたね。性教育の機運が高まってきた時期で「子どもたちに正確な知識を伝えよう」と意気込んでいました。性教育については、活動を活発化するとなぜか反感を買うケースもあり、本当にたくさんの苦労もしましたね。でも性教育は重要で、中学生のうちに正しい性の知識、避妊の知識を身につけるべきだという考えはずっと変わりません。高校に進学しない子や中退する子もいますから、中学がすべての子どもに性教育ができる最後のチャンスなんです。

性に関する正しい知識を提供する機会を重視

性教育の場面では子どもたちに伝える際、どのような工夫をされているのでしょうか。

河野美代子院長 河野産婦人科クリニック5

現在の、性交を教えないとしている学習指導要領を考慮しつつ、これまでの診療データをもとに性について正しい知識を伝えられるよう工夫しています。例えば私が勤務医時代に診てきた10代の少女のうち、性交経験があった1000名から避妊法と妊娠率を算出したデータを基に作成した資料を使ってお話ししています。診療でも話すことがあるのですが、例えば避妊具を使った性交でも妊娠率が13.5%あるということだったり、膣外射精では29%あるということだったり。こうした数字を挙げて説明すると子どもたちはとても驚きますね。具体的な数字というのは大きな説得力があるんです。

改めて正しい知識を得る、教育を受ける機会が必要だと感じます。

例えば今は緊急避妊薬の薬局販売が検討されています。それも大切ですが、まずそれ以前に性教育をしっかりやるべきだと思っています。男女ともにしっかり教育がなされて初めて、学んだ知識をもとに自己判断で購入できる選択肢が生まれると考えます。現状のまま薬局で購入できるようになれば、その1回は望まない妊娠を回避できても、その先の避妊指導の機会が失われてしまいますよね。私は教師をめざす大学生を対象とした講演も行っていますが、子どもたちを教育する立場になる人たちにまず正しい知識を身につけてほしい、そして性がどう捉えられ、教育にどう反映されているか注視してほしいと伝えています。

家庭での子どもへの接し方も大切ですね。

河野美代子院長 河野産婦人科クリニック6

昨今は、保護者の皆さんも性教育の必要性を認識されています。子どもは幼い頃から、なぜ男は立って女は座っておしっこをするのか、自分はどこから生まれてきたのかといった疑問を抱くものです。はぐらかさず、しっかり目を見て答えてあげてください。そして思春期になれば、子どもには親に知られたくない世界があると認識すべきです。その上で、何かあれば必ず相談相手になると繰り返し伝えてあげてほしいですね。また、子どもたちは学校で友達同士、性に関するさまざまな情報を交換しています。それを理解した上で真正面から向き合うことが大切ですし、私もいち母親として大切にしてきました。そうしたお子さんとの関わり方についても、経験を交えて医師としても母親としてもご相談に乗れると思います。

先生の存在に救われた方がたくさんいらっしゃるのだろうと感じます。最後にメッセージをお願いします。

悲しい事件を目にすると本当につらいです。悩みの末に自殺に追い込まれたり、望まない出産によって途方に暮れ、1人で産んだ赤ちゃんを殺めてしまうような人がいないように、当院に関わる方でそれだけは絶対に起こさないという信念で30年以上やってきました。ご自身の身体の不調が心配な方はもちろん、性被害にあった方、予期せぬ妊娠をした方、性のアイデンティティーに苦しんでいる方など、悩みを1人で抱え込まず、ぜひ当院に相談にいらしてください。来院いただければ一緒に考え、フォローしますから。また、若い皆さんは性に関する正しい知識を身につけてください。心も体も、あなたのものです。誰かに支配されるのではなく、自分自身でしっかりコントロールできる強さや対応力を養ってほしいと、心から願っています。

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