榎本 泰三 理事長の独自取材記事
榎本医院
(御所市/葛駅)
最終更新日:2024/12/13

御所市戸毛の地で、江戸時代より地域住民の健康を支えてきた「榎本医院」。7代目理事長の榎本泰三先生は、地域のかかりつけ医としての役割を初代より受け継ぎながら、自身の専門分野である大腸・肛門疾患の診療にも尽力。特に大腸内視鏡検査を希望する患者が多く、現在1~2ヵ月待ちという状態だ。それでも榎本理事長は、まだまだ検査数を増やしていきたいと語る。その背景には、過疎化が進む地域でクリニックを存続させていく理事長としての責任感と、「がんで患者を亡くしたくない」という強い想いがある。さらに、ひとたび言葉を交わせば気さくでユーモアあふれる榎本理事長に、同院の特徴や今後の展望について話を聞いた。
(取材日2024年8月6日)
かかりつけ医と大腸内視鏡検査の二刀流
まずは継承の経緯をお聞かせください。

江戸時代から続く医師の家系でしたので、医師になるのが当然と思われていましたね。自分としては反抗心もあり、一時は建築や車に関わる工学部に進むことも考えましたが、やはり恵まれた境遇を生かそうと医学部に進学しました。医師になってからは、自分のクリニックを新たに開業したいという気持ちも芽生えましたが、当院を頼っていただいている患者さんや働いているスタッフたちのことを考えた時に、ここで自分がやれることを精一杯やろうと。ただ、過疎化が進む中で、単に継承するだけでは患者さんは減る一方です。地域のかかりつけ医としての役割は変えることなく、かつ、他のエリアからもわざわざここで診てもらいたいと思われるクリニックにしていかなくてはと日々考えています。
わざわざ来てもらえるクリニックにするために、どのような診療に力を入れておられますか?
私の専門でもある大腸・肛門疾患の診療です。地域の患者さんを総合的に診つつ、新たに大腸内視鏡検査が受けられるクリニックとしても認知してもらえるよう、周辺のクリニックに「大腸の検査、お尻の診察を得意としていますので、お悩みの患者さんがいらっしゃれば紹介してください」とお願いして回りました。それから10年以上かけて紹介の輪が広がり、またホームページでの発信やクチコミで広まっていった結果、現在では近隣以外にも遠方などから大腸や肛門疾患の患者さんにお越しいただいています。中でも大腸内視鏡検査は1ヵ月から2ヵ月待ちになるほどです。ただ、あまり患者さんをお待たせするわけにもいかないので、検査枠を増やして少しでも早く受けていただけるよう努めています。
こちらの大腸内視鏡検査の特徴を教えてください。

大腸がんは内視鏡による早期発見が重要ですが、肉眼での認識が困難な病変や死角によって、発見が難しい場合もあります。当院では先進のAI機能がついた内視鏡を導入し、AIのサポートによって精度を上げ、病変部の早期発見に努めています。また、鎮静剤を用いたり、腸に吸収されやすくおなかの張りが抑えられる炭酸ガスを使用したりして、患者さんの不安や苦痛をできるだけ減らすようにしています。今はスコープ自体も改良されており、やわらかいスコープでありながら、腸管の形状に合わせて硬さを自在に変えて進むことができます。加えて、検査中のスタッフからの声かけや接し方にも配慮をしていますので、検査を終えた患者さんから「おかげで安心できた」と言ってもらえたらうれしいですね。
がんで患者を亡くしたくない、理事長の想い
外科の中でも消化器を専門とされたきっかけは?

父が外科医だったこともあり、自然と外科をめざすようになりました。この辺りは自然豊かですから、蜂に刺された、自転車でケガをした、事故に遭った、できものが膿んだなど、外科的な処置もかかりつけ医として求められてきた側面もあります。外科の中で消化器外科を選んだのは、食べるのが好きというのと、昔は消化器外科を扱ったドラマも多く、知識として入りやすかったんでしょうね。大腸は胃に比べて複雑な形状をしていますので、大腸スコープを自在に操るにはテクニックが必要です。いまだに苦労もするし、奥が深くやりがいもあります。それが苦にならずやれているので、きっと大腸内視鏡検査が好きで自分に合っているんだろうなと。大腸内視鏡検査の重要性を多くの方に知っていただき、日帰りでできる早期がん・良性ポリープの切除を今後も積極的に行っていきたいです。
大腸内視鏡検査の重要性を知ってほしい、理事長の想いとは?
勤務医時代は消化器外科の医師として、大腸がんや胃がんの患者さんを多く診てきました。大学病院では、術後退院された患者さんは外来の医師に引き継ぎますが、継承前に勤めていた土庫病院などの一般病院では、最初から最後まで同じ患者さんを診ます。終末期でつらい思いをした患者さんも間近で診てきた分、内視鏡検査による早期発見で救える命を救いたいと強く願いますし、医師として普段から診ている患者さんに伝えたい想いもあります。ただ「全然症状もないし検査しなくても大丈夫」という方に、検診の大切さを伝え、勧めるのは難しいと感じていますので、まずは患者さんとの信頼関係を築き「今度検査をやりましょう」など、伝え方の工夫にも取り組んでいます。また先生方が「自分なら……」と患者さんの身になった上で当院の大腸内視鏡検査を勧めてくださることは、本当に当院を信頼していただける医療を提供できているのだという自信につながります。
肛門疾患も専門でいらっしゃるそうで。

肛門疾患に関しては、近年若い女性の相談が増えています。裂肛(切れ痔)は圧倒的に女性が多く、痔ろう(あな痔)は男性、内・外痔核(イボ痔)はどちらも同じぐらいの割合ですね。自覚症状がないだけで、実際に診てみると痔の所見があるという場合が多いのです。症状がなければそのまま様子見で構いませんが、出血が続く、内痔核の脱出がある場合にはきちんと調べて治療していきます。すぐに手術と言われると、患者さんの気持ちの整理が追いつかない場合もあるので、症状にもよりますが当院ではまず軟膏から始めて、必要な場合は次のステップへ進めます。注射で治療するALTA療法が適切と判断した内痔核や、血栓性外痔核の血栓除去であれば当院で日帰り処置ができます。また、切除手術が必要な患者さんには、連携する病院を紹介させていただきます。
温かく心のこもった対応で、満足度の高い診療をめざす
休日はどのように過ごされていますか。

休む時は休んで、暇があればランニングをしています。最初は痩せようと思って始めましたが、痩せられたのは最初だけで、今はもっぱら食べるために走っていますね(笑)。昔はフルマラソンも走りましたが、今は体力維持とストレス発散が目的です。あとは車が好きなので、ドライブしたり、車のことを考えたり、調べたり。現在もマニュアル車に乗っていて、運転するだけでなくカスタマイズも好きな筋金入りです。きっかけはそれこそ物心つく前といいますか。父が幼い頃に与えてくれたミニカーにハマってからですね。
スタッフについても教えてください。
みんな協力的で、それぞれがプロ意識を持ってやってくれています。ベテランの看護師も多く当院の大きな戦力でもある上、患者さんとの距離感も近く親切に対応してくれています。経験の豊富さゆえ気づくことも多く、「この患者さん、この間来たばかりなのにどうしたんだろう」と自ら話を聞きに行ってくれますし、新規の方にも進んで声かけをしてくれるので、安心して任せることができます。院内情報誌として年4回発行している「えのもとだより」は、スタッフからの発案で始まりました。また、勉強会やカンファレンスを積極的に行い、レベルアップや情報共有に生かしています。勤務医時代に学んだチーム医療を当院でも実践しながら、スタッフみんなで力を合わせてクリニックを良くしていきたいです。
今後の展望をお聞かせください。

大腸・肛門疾患は、羞恥心や検査への抵抗感から受診をためらうことも多いかと思います。しかし、肛門疾患は日常生活への影響が大きく、また大腸がんは内視鏡による早期発見が非常に重要です。奈良県南部エリアではこの領域を専門とする医師が少ない中、専門的に診るクリニックとしてさらに認知してもらえるよう、大腸内視鏡検査を主軸に、今以上に充実させていきたいと考えています。また、何でも気軽に相談できる雰囲気を心がけ、広い地域からもわざわざ来てもらえる満足度の高い診療を提供していきたいです。初診の際に戸惑ってしまうことがないよう、初めての方にもご来院時からお帰りまでスタッフ一同親切な対応を心がけていますので、どうぞ安心してお越しください。