赤松 幸余 院長の独自取材記事
辻医院
(桜井市/巻向駅)
最終更新日:2024/11/19

万葉まほろば線巻向駅から徒歩約3分、巻野内交差点角の「辻医院」は、地域密着型の診療所として60年以上の歴史を持つ。内科、小児科、心療内科を診療科目に掲げ、地元はもとより大阪や三重から受診する患者の、体と心のさまざまな悩みに対応している。2代目院長の赤松幸余先生は、医学部卒業後、県内の大学病院や基幹病院での小児科医としての勤務を経て、大学病院の内科に入局し、内科、心療内科について学んだ経験を持つ。診療の際は、患者の話をじっくり聞き、心身両面からのアプローチを通して、患者が少しでも楽になれるよう診療方針を検討する。「何でも気軽に相談できる地域のホームドクターでありたい」という赤松先生に、同院の診療の特徴や地域医療にかける思いを聞いた。
(取材日2024年10月24日)
専門の小児科に加え内科・心療内科も学ぶ
歴史の長い医院ですね。

約60年前に産婦人科医の父と内科医の母が開業しました。産婦人科、内科、小児科を診療科目に掲げ、入院室を10床構えて、盲腸などの緊急手術にも対応し、まだ訪問診療の推進がなかった時代から24時間在宅医療にも力を入れていました。私はそうした両親の長女として生まれ、医院を継承することに重圧を感じた時期もありましたが、地域の方々の役に立つ仕事ですし、両親のもとに生まれてきたのは決して偶然ではないと考えて、医学の道を志しました。小児科を専門にしたのは、子どもが好きだったからです。子どもの頃、給食が全部食べられずに不登校になった経験があり、子どもたちの体と心を救いたいという思いがありました。
大学病院で内科についても学ばれています。
医学部卒業後は、奈良県立医科大学附属病院の小児科で感染症、心身症、腎臓病などの棟の患児を受け持ちました。その後、済生会中和病院に勤務している時に阪神淡路大震災があり、「何かお役に立てれば」という思いで、震災から1週間後に現地に入りました。しかし、被災地の現場には、子どもはほとんどおらず、成人の方の内科疾患に対応する知識が自分に不足していることを痛感して、内科について学ぶため再び奈良県立医科大学附属病院の内科に入局したのです。
もともとは小児の心療内科を希望されていたそうですね。

子どもの体と心を救いたいというのが、医師をめざした理由ですからね。内科を学ぶために奈良県立医大に戻って、当時の第3内科と呼ばれる部署に入局したのですが、その中に心療内科があったんです。当時、心療内科がある大学病院は国内でもごく限られており、かねてから学びたいと考えていた心療内科について、研鑽を詰める環境に身を置くことになりました。偶然にもそうした環境が得られたことは、今でも本当にありがたいと思っています。
こちらで診療されるようになったのは何かきっかけがあったのですか?
両親が元気なうちに3人で患者さんを診たいという思いがあったからです。私が加わったことで、産婦人科、内科、小児科に加えて心療内科を診療科目として掲げるようになりました。休日診療や訪問診療の体制が整っていない時代から、地域密着型の医院として24時間体制で患者さんに対応し、本当によく働いていた両親のことは心から尊敬しています。父に次いで母が亡くなった時には、「ご両親には本当にお世話になりました、亡き親の往診にもよく来てくださり看取ってくださいました」「休日や夜間に子どもが熱を出した時も快く診てくださいました」と、患者さんやご家族から感謝の言葉を頂戴しました。
悩む人に幸せを提供できる診療をめざす
どのような患者さんが受診されますか?

現在は、内科を受診される方が5割、心療内科が3割、小児科が2割くらいの割合です。内科と心療内科、小児科と心療内科の両方にまたがって診る必要がある場合も考えられ、内科の疾患で受診されたものの、途中から心療内科の診療も行うこともできます。私が当院で診療を開始した当時、心療内科の患者さんは1週間に本当に数えるほどでしたが、今では午前の診療と夕方の診療の間に設けている心療内科の枠が詰まっている状態です。「お薬だけ処方してもらえれば大丈夫」という患者さんは、一般の診療枠で対応することもできますが、お話をしっかり聞く必要がある方については、心療内科の診療枠で診るようにしています。
患者さんと接する際に心がけておられることは?
その方を白紙の状態で診るようにして、その方が少しでも幸せになっていただけるような言葉を考えます。私のような診療スタイルは支持的精神療法と呼ばれており、患者さんの気持ちに共感して話を聞くことを重視するのが特徴です。「この方はこういう人だ」という先入観を持たないようにしているせいか、話しやすいという方が多く、初対面の患者さんも心を開いて話をしてくださるように感じます。私の名前は幸余なので、患者さんに少しでも幸せを提供できればと考えていますし、両親もきっとそういう願いをこめて名づけてくれたのでしょうね。特に心療内科を受診される方には、ネガティブなことばかり考えておられるケースが少なくありません。それを少しでもプラスの方向に転じられるような言葉や対応をいつも心がけています。精神的に安定された後も「先生と話をしたい」と心療内科の診察に来られる方もおられます。
心療内科の内服投与についてはどうお考えですか。

お薬がなくても大丈夫という方に対しては、服用を強要することはありません。一方、お薬を使ったほうが良いと考えられるのに、お薬を飲むことに抵抗がある、心理的な診療だけで対応したいという方もやはりおられます。こうした場合は、付き添いの方にその旨を伝えて処方する場合もありますが、薬は諸刃の刃にもなるのでしっかりと管理してくださるようにお願いしています。また、漢方薬を提案することもあり、漢方なら抵抗なく服用できるという方も少なくありませんね。漢方薬は対症療法だけではなく、イライラしやすい、緊張のせいでおなかを下しやすいといった体質へのアプローチにも効果が期待できるので、現在は80種類くらいの漢方薬を使い分けています。
生涯現役の医師として地域の健康を守る
内科を受診されるのはどういった患者さんですか?

高血圧症、脂質異常症、糖尿病など生活習慣病の方が多く、動脈硬化の検査機器や糖尿病の状態をすぐに確認できるヘモグロビンA1cの検査機器などもそろえています。動脈硬化を測定して実際の年齢相当の数値が出る方や、ヘモグロビンA1cの数値が正常な方は、運動を習慣にしていたり、栄養バランスの良い食事を取っていたりするケースが多く、当院の患者さんに対しても運動や食生活について積極的にアドバイスするようにしています。また最近は、新型コロナウイルス感染症の後遺症や予防接種後の悩みで受診される方も多くいらっしゃいます。肺炎など体のトラブルのほか、不眠やうつ状態などメンタルの不調を訴える方も多く、心身両面のアプローチが必要となることもあるので、悩んでおられる方はお気軽にご相談いただければと思います。
先生のリフレッシュ法は?
ゆったりと音楽を聴いたり、本を読んだりするのが好きです。近くのスーパー銭湯に行ったり、いつもとは違う店でランチを楽しんだりもします。上高地が好きで、景色の良いところを散策したり、温泉を楽しんだりしたいのですが、なかなか時間を取れないのが現状ですね。知り合いの先生からテニスも誘われていたのですが、休日も書類の作成などに追われていますし、高等学校と養護学校の学校医の健診の面談の準備もしている関係で、なかなか実現できませんね。
今後の展望を聞かせてください。

周辺に心療内科に対応する医療機関が少なく、特に天理市は心療内科のクリニックが状態なので、天理市の開業の先生からの紹介で受診を希望される患者さんには、診療時間を調整するなどしてできるだけ対応するようにしています。中には、大阪や三重からお越しになる方もおられます。一般診療の時間外の心療内科はいつまで続けられるかは、わかりませんが、できる限り長く、生涯現役で患者さんを診ていきたいと考えています。
読者や地域の方にメッセージをお願いします。
地域の方に健康に過ごしていただけることを願っており、いわゆる未病の状態からの予防にも力を入れています。本当に病気になってしまう前に、心や体の不調、気になることがありましたら、お気軽にご相談ください。当院には、セカンドオピニオン、サードオピニオンで受診される方も少なくありません。「こんなことを相談してもいいのかな?」と思われるようなことでも、遠慮なく聞いていただければと思います。