張田 雅之 院長、張田 葉月 先生の独自取材記事
張田耳鼻咽喉科
(天理市/天理駅)
最終更新日:2024/05/31
天理駅の駅前広場を抜けて徒歩約5分、商店街のそばに「張田耳鼻咽喉科」はある。駅前という好立地ながら広々とした駐車場があり、車での受診にも便利だ。約30年にわたり耳鼻咽喉科診療を軸に地域医療を支えてきた同院は、2021年から張田雅之院長が先代より診療を継承。一般的な耳鼻咽喉科疾患に加え、睡眠時無呼吸症候群や補聴器の相談にも対応し、嗅覚障害では専門性の高い診療が可能だ。「さまざまな年代の方が来る耳鼻咽喉科だから」と各種のワクチン接種にも力を入れ、地域の健康づくりに取り組む。さらに2023年からは、院長の妻である張田葉月先生が精神科の診療をスタート。オンライン診療も行っており、すでに多くの患者が受診しているという。なぜ精神科診療も行うようになったのかなど、その思いをじっくりと聞いた。
(取材日2024年4月13日)
代替わりを機に精神科の外来もスタート
地域で長く続く耳鼻咽喉科医院だそうですね。
【雅之院長】当院は父が1995年に開業し、耳鼻咽喉科と形成外科の診療を行ってきました。以前もこの近くで診療していましたが、2014年には今の場所へ移転。地域で数少ない耳鼻咽喉科ですし、天理市は市域がとても広いので遠くから車で来られる方も多く、多くの患者さんが駐車場を利用されています。僕は金沢医科大学を卒業した後、関連病院の耳鼻咽喉科で診療をしていたんですが、こちらへ戻ってきたきっかけは新型コロナウイルス感染症ですね。どのような病気かわからなかった感染拡大当初、高齢の父に発熱した患者さんを診てもらうのは、同じ診療科の医師である息子として「それは違うな」と。そこでこちらへ戻り、2021年からは熱のある患者さんを中心に診療を担当し、今はすべての診療を引き継いでいます。
精神科の診療を始めたのはどうしてですか?
【雅之院長】耳鼻咽喉科で診る症状にめまいがありますが、治療後も「めまいがするんじゃないか」という不安が強くてお困りの方が一定数いらっしゃるんですね。病院では院内の精神科に紹介していましたが、ここではそれが難しい。精神科は今、どこも予約が取りにくく、すぐには受診できないことも多いです。そこで精神科の医師である妻に相談していましたが、「だったら一緒にやってくれないか」ということになったんです。
【葉月先生】院長が義父の診療を継承するのに合わせて金沢から関西へ戻り、2022年の秋頃からは当院でも、オンラインを含め少しずつ診療を行ってきました。2024年の春からは週1回、半日ずつ定期的に外来を行いますし、オンライン診療も継続します。
現在、精神科にはどのような患者さんが来られていますか。
【葉月先生】精神科全般の傾向としては、若い患者さん、20代前半ぐらいで社会への適応が難しく、仕事や人間関係での不安がストレスになり自律神経が乱れて体調を崩したり、精神的な不調につながるという方が多いです。また少し前には子どもや学生さんで、新型コロナウイルス感染症等による休校で生活リズムを崩し、昼夜逆転してしまって外出できなくなったというご相談も多かったですね。ただ、この地域ではご高齢の患者さんも多く、社会生活に行き詰まってというよりは、ご自身の中で日々の生活や将来に漠然とした不安があって苦しさやつらさを感じていたり、認知症のご相談も多いとの印象があります。
精神科とつながってつらさや不安、生活の改善を
診療はどのように行われるのですか?
【葉月先生】外来もオンラインも完全予約制で、患者さんのお話をしっかりお伺いします。また、必要に応じてお薬をお出しすることもあります。精神科の薬は怖いというイメージをお持ちの方もいますが、メリットとデメリットを詳しくお伝えし、患者さんのご了解が得られた場合にのみ処方しますし、リスクが高いのは一部のお薬だけです。今お困りの症状にアプローチすることで、ご自身の生活をより良くしていただきたいので、精神科だからと不安にならず、気軽に相談に来てほしいと思います。
精神科を受診するのは、人の目が気になるなどハードルも高いのですが……。
【葉月先生】今、精神科や心療内科への垣根は都市部を中心にどんどん低くなっています。当院では耳鼻咽喉科の患者さんと待合室で一緒になるので、「どうかな」と心配はしていましたが、今のところお困りだという話はないようです。精神科の診療を始めて日が浅いので、比較的スムーズに予約が取れることも、受診しやすさにつながっているのかもしれませんね。また、オンライン診療は患者さんも私も時間の都合をつけやすいですし、外出が難しい患者さんには心強い受診方法だと思います。心のトラブルは独りで、あるいはご家族だけで悩まれていることも多いので、ご自身に合った方法で医療とつながることが改善への第一歩になると思います。
ちなみに、葉月先生はなぜ精神科のドクターになられたのですか?
【葉月先生】私は父が耳鼻咽喉科の医師で、医師になることを勧められながら育ちました。ただ専業主婦の母に憧れていたこともあり興味が持てず、大学は英文科へ進んで一般企業へ就職。でも私自身は、大学での学びだけでは専門性を得られなかったと卒業後に気がついて。そこから父や身内の医療関係者の姿を見聞きして、医師という仕事に魅力を感じるようになって、改めて医学部を受験しました。精神科を選んだのは、患者さんの生活やご家族とも深く関わって、生活の質を上げるための診療に魅力を感じたからです。精神科では、一般的に「ある期間だけ治療して終わり」ではなく長期間お付き合いする患者さんも多いので、大変なこともあると思いますが、「お力になれた」と長く実感できることがあるのも、精神科の良さだと考えています。
地域の心身の健康を支える身近な窓口に
代替わりされた院長先生が力を入れている診療はありますか?
【雅之院長】これまでどおり、地域の耳鼻咽喉科として幼児からご高齢の方まで、耳や鼻のトラブルに広く対応しています。さらに僕自身は大学院で嗅覚障害を専門にしていたので、今は新型コロナウイルス感染症で見られる嗅覚障害の診療も行っています。新型コロナウイルス感染症と嗅覚障害については大々的に報道されたこともあり、もう治らないと悲観的になって来る方が多いんです。でも多くの場合は時間とともに改善しますし、改善を促すための方法もあります。まずは焦らず落ち着いて、専門家に相談してほしいですね。それから僕は天理で生まれ育ったので、地域の医療を支えたいという気持ちは強いです。そこで、耳鼻咽喉科にとどまらず子宮頸がんに関わるHPV(ヒトパピローマウイルス)や帯状疱疹など、ワクチン接種には注力しています。幅広い年代の方が来る場所だから、ここでさまざまなワクチンが打てれば患者さんの利便性も高いのではないでしょうか。
お互いに医師として尊敬できるのはどんなところですか?
【雅之院長】精神科の診療を始めてそれほどたっていませんが、葉月先生を頼って受診される患者さんは確実に増えています。また、私自身も困ったときに相談すると、やはり気持ちがすごく楽になるんですね。精神科の医師として、人として頼れる存在であることを、公私ともども実感しています。
【葉月先生】人として、とても素直で優しいところですね。患者さんのために最善を尽くそうという姿勢をいつも感じます。ちょっと口下手で、そこが伝わりにくいときもあるかもしれませんが、最善を尽くしたいという姿勢はいつも変わらないので、そこは本当に尊敬できると思っています。
最後に、地域の方へメッセージをお願いします。
【張田院長】天理市の人口が減少する中で、ご高齢の方も若い方もきちんと医療が受けられる環境を維持することは、ますます重要です。当院では、睡眠時無呼吸症候群の治療や補聴器の相談、また各種のワクチン接種なども行って、健康な生活や病気の予防全般をめざした診療や啓発活動を大事に考えています。普段から受診しやすい地域の医療の窓口として、気軽に頼っていただけたらうれしいですね。
【葉月先生】新型コロナウイルス感染症以降、マスコミの情報やご自身のちょっとした体調不良をきっかけに、不安が大きく膨らみ生活が立ち行かなくなる方が増えていると感じています。精神科で抱えている思いを相談することが改善につながるきっかけになることも多いので、ちょっと勇気を出して、受診していただけたらと思います。