川本 将浩 院長の独自取材記事
医療法人耳鼻咽喉科川本医院
(奈良市/近鉄奈良駅)
最終更新日:2026/08/25
近鉄奈良駅から徒歩3分、大宮通りから1本入った静かな通りに「耳鼻咽喉科川本医院」はある。エントランスのドアに描かれたゾウのイラストが目印の、一軒家のようなたたずまい。天窓から自然光が差し込む待合スペースは明るく穏やかな雰囲気だ。1979年に父が開業した同院を2015年に継承した川本将浩院長は、大学院で嗅覚を研究し学位を取得。勤務医時代には部長職を約7年務め、十分な経験を積んだ後、地元に戻った。同院の特徴は、嗅覚検査室を備え嗅覚障害の治療に力を入れていることと、補聴器の外来で聞こえの悩みにも対応していること。「嗅覚の検査ができる医院はまだ少ないんです」と飾らない口調で話す川本院長に、嗅覚と健康の意外なつながりや、町のかかりつけ医としての思いを聞いた。
(取材日2026年7月8日)
嗅覚の奥深さに導かれ、父が開いた医院を受け継ぐ
ゾウのイラストが印象的な医院ですね。まずは医院について教えてください。

当院は1979年に、耳鼻咽喉科の医師だった父が開業した医院です。母の実家があるこの奈良の町に移り、1階を診療所、2階を自宅にして始めました。私が院長として受け継いだのは2015年のことです。エントランスに描かれたゾウのイラストは母の知人のイラストレーターの方によるもので、私が継いでからは遊び心でモノクロだったゾウをカラーにしました。近鉄奈良駅から徒歩3分、大和路線の奈良駅からも徒歩7分と両駅から通いやすく、大宮通りから1本入った落ち着いた環境にあります。待合スペースは天窓から自然光が差し込む明るい造りです。建物は先代が建てたものですが、移動式スロープや車いすが通れるスペースをしっかり確保し、駐車場も約10台分ご用意しています。
耳鼻咽喉科の中でも嗅覚を専門にされた経緯を教えてください。
自然な流れで医師の道に進み、耳鼻咽喉科へ入局しました。大学院に進む際、嗅覚を研究されている先生との出会いがあったのが大きな転機でした。1990年代はにおい受容体のしくみが発見されたばかりで、嗅覚臨床の黎明期だったので、未知の領域に可能性を感じて嗅覚の研究に飛び込みました。4年間の研究を経て嗅覚で学位を取得した後、関連病院で経験を重ねました。市立池田病院では部長職を約7年務め、手術や後進の指導にもあたりました。ある程度しっかり勉強してからでないと開業後の患者さんにも失礼ですから、十分な経験を積んだ上で当院を継承した次第です。
専門性を生かして、どのような診療に力を入れていますか?

耳鼻咽喉科は赤ちゃんからお年寄りまであらゆる年代の方を診ますし、手術も内科的な治療も行います。聴覚・平衡覚・味覚・嗅覚と複数の感覚を扱う、守備範囲のとても広い診療科です。中でも私が注目しているのが、嗅覚と全身の健康との深いつながりです。嗅覚が平均を下回る方は、将来的に軽度認知障害へ移行する確率が高いという研究データもあります。さらに、においがわからなくなると食欲が落ち、低栄養から体力の低下、外出機会の減少や社会的孤立につながることも。こうした心身の衰えの悪循環にも嗅覚は深く関わっているんです。当院には嗅覚検査室があり、嗅覚の検査を行っています。加えて補聴器の外来も設置し、聞こえのお悩みにも対応しています。
においの検査も聞こえの相談も、丁寧な説明で安心を
においに異常を感じた場合、どのような検査が受けられますか?

当院の嗅覚検査では、5種類のにおいを10倍ずつ薄めた7段階の濃度で順に嗅いでいただき、どの段階で感じるかを判定します。所要時間は5分から10分ほどで、結果は当日わかります。嗅覚障害は大きく3つに分けられ、副鼻腔炎などで鼻が詰まる「気導性」は改善が見込みやすいとされています。一方、ウイルス感染などで神経が傷つく「神経性」や頭部外傷による「中枢性」は改善が難しいケースも少なくありません。タイプによって治療方針が変わりますので、まず検査で原因を見極めることが大切です。当院では、お薬による治療に加え、毎日においを嗅ぐことで嗅覚を刺激する嗅覚トレーニングもお勧めしています。嗅覚の低下は風味の感じ方にも影響しますので、味の変化が気になる方もご相談いただければと思います。
聞こえが気になり始めたとき、まず何をすればいいですか?
聞こえに不安を感じたら、まず耳鼻咽喉科を受診していただきたいと思います。聞こえにくさの背景には聴神経腫瘍のような疾患が隠れていることもありますし、鼓膜の穴や耳小骨の問題が原因であれば、手術で改善が期待できる場合もあります。いきなり補聴器店に足を運ぶと、補聴器を買う以外の選択肢が見えにくくなるんですね。当院では先代の頃から補聴器の外来を設けており、認定補聴器技能者が隔週木曜の午後に来院して適合を行っています。検査からフィッティング、購入、アフターケアまで院内で完結できるのが特徴です。軽度の難聴でも補聴器の使用によって、QOL向上や社会的なつながりを高めることが期待できます。使用にあたっては丁寧にご説明し、お試し期間も設けていますので、納得してお決めいただけます。
日々の診療で大切にされていることは?

耳や鼻は外からは見えない場所ですので、スコープで撮影した画像をモニターに映しながらご説明するようにしています。例えば「耳が痛い」とおっしゃる方の鼓膜を画面でお見せすると、中耳炎かどうかが一目でおわかりいただけます。口頭だけで伝えるよりも、ご自身の目で確かめていただくほうがずっと納得感があるんですね。画像は記録として残しますので、経過の比較にも役立ちますし、ほかの医療機関を受診された際に初診時の状態をお示しすることもできます。また、私は勤務医時代に手術も経験してきましたが、個人的にはできるだけ手術せずに済むよう、保存的な治療を大切にしています。一人ひとりの患者さんに丁寧に向き合いながら、まずはお薬や処置で改善をめざすことを基本としています。
経験豊かなスタッフと、気軽に頼れる町の耳鼻咽喉科
スタッフの皆さんについても教えてください。

現在6人が在籍し、近々7人になる予定です。准看護師が1人と、事務から診療補助、検査の手伝いまですべてこなせるスタッフが5人おります。全員がオールマイティーに動ける体制にしているのは、順番に有給休暇を取ってもらうためなんです。子育てがひと段落した40代から50代が中心で、皆さん長く勤めてくださっています。その経験があるからこそ、患者さんへの気配りが自然と身についているのでしょう。お母さんが診察を受けている間に赤ちゃんを抱っこしたり、ご高齢の方にそっと声をかけたりと、よく気のつくスタッフばかりです。そうした一つ一つの心遣いが、結果的に医院全体の温かな雰囲気につながっていると日々感じています。
今後、注力したい分野はありますか?
認知症の予防に力を入れていきたいです。先ほどお話ししたとおり、嗅覚の低下は認知症やフレイルのリスクと関連していることがわかってきています。聴覚についても、聞こえの衰えが認知機能に影響するというデータがあります。この地域は高齢化が進んでおり、そうした健康上の課題に向き合うことが今まさに求められていると感じています。当院では必要に応じて認知機能の簡単な検査を行うこともできますし、専門的な診察が必要な場合には適切な医療機関をご紹介します。これらを活用して早い段階で変化に気づいていただく。それが将来の健康を守る第一歩になるのではないでしょうか。嗅覚の知見から認知症予防まで思考を広げていけるのは、耳鼻咽喉科ならではの可能性です。地域の皆さんのお役に立てるよう、一歩ずつ取り組みを進めていきたいですね。
お忙しい毎日ですが、休日はどのようにリフレッシュされていますか?

趣味はベースの演奏で、学生の頃からのロック好きです。中学時代の同級生とバンドを組んでいたこともあるんですよ。あとは、お酒も楽しみの一つですね。旅行に行ったときには、必ず地酒を買って帰るほどの大の日本酒好きでもあります。音楽やお酒を楽しむことが、日々の診療に向き合う活力になっています。
最後に、読者へのメッセージをお願いいたします。
町のホームドクターとして、ちょっとした不調でも気軽にご相談いただける場でありたいです。目や耳の異変ではすぐに受診される方が多い一方で、においの変化は「そのうち治るかな」と後回しにされがちです。嗅覚も聴覚も、皆さんが思っている以上に日々の暮らしや未来の健康に深く関わっています。何か気になることがあれば、どうぞ耳鼻咽喉科を頼ってみてください。

