宮本 孝 先生の独自取材記事
宮本クリニック
(西宮市/西宮駅)
最終更新日:2024/06/12

自身の腎臓の代わりに、体内に蓄積した余分な水分や塩分、老廃物を取り除き、血液を浄化することを目的とする人工透析治療。さくら夙川駅と阪神西宮駅の2駅からアクセス可能な「宮本クリニック」は、人工透析治療を専門とするクリニックだ。昨年、開院から40周年を迎え、患者とスタッフが思いをつづった文集を発行したと話すのは、同院の顧問であり設立者の宮本孝先生。クリニックを「人生の仲間と過ごす場所」と位置づけ、開院以来3つの目標を掲げて多くの透析患者をサポートしてきた。人工透析治療を提供しながら、イベントや交流会を通して患者が「元気で楽しく長生き」するための工夫に尽力する同院。明るく前向きな透析治療をめざす宮本先生に、クリニックの特徴や人工透析治療について話を聞いた。
(取材日2024年5月27日)
ホームドクターとして透析治療を有意義な時間に
日常生活に溶け込む透析治療をうたわれている理由を教えてください。

日常生活の場は通常、家庭と職場ですけれども、腎臓が悪くなってしまうとその生活を維持するために嫌が上でも1週間に3日間は透析治療を受けなければいけません。本来なら必要のない別の時間が必要になるわけです。週に3日、治療と通院の往復を含めると仕事と同程度の時間が取られてしまいますから、自分の有効な時間が減るような感覚になると思います。実際はそうだったとしても、その時間を患者さんたちがストレスだと感じない、新しい人間関係のコミュニティーにできればと考えています。当院での治療がその人の人生にとって有意義な時間にするための工夫をしていますね。
例えば、どのような工夫をされているのですか?
患者さん同士で親密になってもらえる場として、バス旅行やハイキング、キャンプ、スキー、温泉、カラオケ、バーベキューなどを実施してきました。30人くらいで、北海道旅行に出かけたこともありますよ。一時期は中止していましたが、新型コロナウイルス感染症の流行が落ち着いた昨年から再開しています。昨日も昼から夜にかけてにぎやかな会を開催しました。40年の付き合いになる方ばかりで、皆さん親友ですね。最近通院を始めたばかりの人たちも、そういうグループを徐々につくってもらえたらうれしいです。透析の治療中は寝転んだままですので、寝た状態で自転車を漕ぐ機械を設置して足の運動ができるようにしています。友達になれそうな患者さん同士には、隣り合ったベッドで治療を受けていただくなど、話しやすい環境をつくる工夫もしています。
人の輪やつながりをとても大切にされているのですね。

それは私が田舎の出身だからだと思います。私の祖父も父も小さな村に1人しかない医師でした。何が専門というわけではなく、地域の人の不調に幅広く対応するような診療所でした。人と人とのつながりの中で、お互いに頼り、頼られて暮らしている姿を見てきましたし、父が早逝してからは「人は一人では生きていけない」と実感しながら育ちました。その経験が透析患者さんやそのご家族が孤独になったり、不安になったりしないような場所をつくりたいと思ったきっかけです。私は常に透析患者さんたちのホームドクターでありたいと思っています。
患者の日常をともに過ごす「人生の仲間」でありたい
宮本先生が透析治療に注力するようになったきっかけを教えてください。

透析治療が始まってから半世紀が過ぎました。最初は大学病院で少しずつ行われ、今のように一般的な治療になってからは45年ほどでしょうか。私が透析治療に出会ったのは、新人医師時代のことです。私は内科の医師ですので、患者さんの容体が目に見えて好転することが見込めるような治療法を扱うことはあまりありません。ですが、透析治療は違うと気づく出来事があり、それをきっかけに透析治療に興味を持ちました。今は、そこからさらに透析治療は進歩し、患者さんの完全社会復帰も見込める時代になりました。だからこそ、患者さんの日常をともに過ごす「人生の仲間」のような存在でありたいと思います。
こちらではグループホームも運営されているそうですね。
開院から長く患者さんを診ていますから、自分を含め皆さん高齢化しています。それに伴い、一人で、あるいはご夫婦だけで家で生活することが困難になる人が増えています。そこで透析患者さんのために介護制度が必要ではないかと考え、20年前にグループホームを設立しました。家庭的な雰囲気の中で、一人ひとりの生活リズムに合った暮らしをしていただくことをめざしていて、当院の医師による訪問診療での定期的な健康管理も行っています。透析治療を受けている患者さんも、安心して利用していただけているとうれしいですね。
夙川の分院との連携についてはいかがでしょう?

当院の分院である夙川宮本クリニックは、地域の北側、山側の患者さんが通いやすいようにと思い開院しました。また、阪神淡路大震災で被災した際、当院で透析治療を受けていた患者さんを受け入れてくれる医療施設を必死になって探したのですが、結局、ほとんどの患者さんに大阪まで行っていただくことになってしまいました。それが分院を開院したもう一つの理由です。これまでの地震データを見ると、この地域の海側と山側では地震の程度が異なっていますし、もしも何か起きた時、それほど遠くない距離のところに分院があればお互いに補完できると考えました。以前、この地域で地震とは関係なく大規模な停電が発生し、当院で透析治療を行うことができなくなったことがありました。その時は、当院の患者さんに夙川分院へ移っていただき、事なきを得ました。
引き継いでもらいたいクリニックの3つの目標
こちらのクリニックの理念について伺います。

当院は3つの目標を持っています。その1つは、常に先進の医療を取り入れ、自ら考え、開発する工夫をすること。2つ目は合併症の予防と早期発見をめざし徹底していくこと、そして、先ほどもお話ししたコミュニティーを充実させていくことです。透析は血液を外へ出し、浄化し、また体内へ返す治療です。血液をきれいにするための方法は、次々と新しくなっていますから、新しい医療を取り入れることは大切です。尿が2日3日出ないと体内にたくさんの水がたまりますから、それを抜かなくてはいけません。どれくらい抜くのか、昔は手探りでしたが、今はコンピューターが自動で行います。40年で大きな進歩がありますが、その新しい方法は本当に良いのか、どの方法が良いのかなど一つ一つを細かくチェックし、専門の臨床工学技士と相談しながら導入を決めています。
透析治療を続けることは、病気の早期発見にもつながると伺いました。
例えば、40年間透析治療を受け続けているということは、長い期間きちんと医療を受けているということだと思います。高血圧症や糖尿病、脳出血や脳梗塞、あるいは胃がんや腎臓がん、肝臓がんなど、誰もが患う可能性のある病気を毎年チェックしますから、週に3日医療機関に来ることは、病気の早期発見にも有用な環境にあるわけです。それを最大限利用してほしいと思います。数年に一度の検査では手遅れになるケースもあります。早い時期に発見できれば、多くの症例で対応できますから、それは患者さんにとって大きなメリットだと思います。
最後に透析治療におけるクリニック選びのポイントと今後の展望についてお聞かせください。

透析治療は大学病院や総合病院で始めることもありますが、その後、どこで治療を継続するかというのはなかなか難しい問題です。インターネットやSNSで情報を収集して、通院のことも考え、ご家族とよく相談して決めるのが良いと思います。当院では、私やスタッフを含め、治療を通して知り合った人がともに明るく前向きな人生を謳歌できるような場所づくりに取り組んでいます。スタッフと患者さんがお互いに共通の思いを持ち、ともに努力し、「元気で楽しく長生き」できるように進んでいく。しっかりと信頼関係を結び、時には励まし合いながら健康を守っていけるような医療を提供していきたいですね。私自身は現役を退き、実際の治療は後進の医師に任せていますが、先ほどお話しした3つの目標をクリニックの伝統として受け継いで、頑張っていただきたいと思います。