小泉 民雄 院長の独自取材記事
小泉クリニック
(尼崎市/武庫之荘駅)
最終更新日:2025/06/13

尼崎市西昆陽の住宅街にある「小泉クリニック」は、小泉民雄院長の母である先代が1980年に開業した歴史あるクリニックだ。小泉院長は、専門である血液や免疫の疾患を深く研究・臨床を重ねてきた後、2005年に同院を継承。「それぞれ異なる希望、バックグラウンドを持つ患者さんととことん向き合い、希望に寄り添い続けることがかかりつけ医としてあるべき姿と思っています」と語る小泉院長の穏やかな語り口と優しい物腰からは、普段の診療時の人柄がうかがえる。今回は、地域のかかりつけ医として子どもから高齢者まで幅広い世代に親しまれているクリニックの歴史や、アメリカで研究を重ねたという経歴、診療や患者への思いなどについて、詳しく話を聞いた。
(取材日2025年1月9日)
血液・免疫の研究を重ねた後、母の診療所を継承
クリニックの歴史を教えてください。

私は外科医である父と内科医である母の間に、5人兄弟の長男として生まれました。1960年頃、父は隣の伊丹市で開業医をしていました。当時の母は、子どもが5人いるものですから子育てで忙しく、診療には手伝いで入るぐらいだったと思います。そして私が大学を卒業した1980年、母が自分もやりたいことをやろうと開業したのが「小泉内科小児科」です。当時は、現在当院がある場所から数分の所にありました。父や、勤務医だった私も手伝いに来たりと、親子3人で診療をしていた時期もあるので、現在の患者さんの中にも、母や父を知っているという方も多いですね。2002年、今のクリニックがある場所に移転。その後、母が体調を崩して私にやってくれないかということで、2005年4月に勤務医を辞めて、半年後の10月に院長の交代をしました。2006年「小泉クリニック」へ改称。診療所の完全リフォームを行い、新たな出発をしました。
先生はアメリカのボストンで、血液・免疫の研究をされていたそうですね。
私は勉強家でもないのですが(笑)、ただ自分の興味あることに関しては深く追求したいという思いはありました。そこで大学を卒業して初期研修が終わった後大学に戻り、臨床をしながらもともと興味があった血液・免疫の研究をしていました。さらなるレベルアップを求め、1987年から約2年半、マサチューセッツ州のタフツ大学内科血液腫瘍部門の研究員に。帰国してからは神戸大学医学部国際交流センター免疫部門や兵庫県立成人病臨床研究所、兵庫県立成人病センターに勤務。血液疾患や免疫疾患の診療をしながら研究をすることを50歳まで続けていました。
歴史ある地域の医院を継承するにあたり、どんな思いがありましたか。

正直なところ、研究を続けられないことに心残りは少しありました。また、後進を指導することのやりがいや喜びというのもあったと思います。ただ、母が体調を崩して、もう診療できないという状況に直面した時、もともと開業医の子どもとして生まれて、これまで母が診てきたたくさんの地域の患者さんを誰が診ていくのかということを考えた時に、私が診るのが一番ふさわしいのではないかという考えに至り、継承することを決意しました。
患者のニーズに応えるのがかかりつけ医の役割
現在の患者層を教えてください。

一般内科と小児科を扱っていますが、現在の患者さんの年齢層は高齢者の方が多く、70代から90代まで長く通い続けられている患者さんが多いですね。小児科へは、母が診ていた患者さんのお孫さん、ひ孫さんも来られることもあり、3代、4代にわたって診療しているご家族もいます。
先代の頃から変わらずに大切にされていることはありますか?
患者さんはいろんな病気をお持ちです。もちろん、それぞれ生活環境も異なりますし、キャラクターも違います。そういう方たちとお話をして、よく知り、では何が一番今この方にとって問題になってるか、一番大事なのかというのを見極めて、それに対応する治療していくことが、私が父と母から引き継いたやり方ではないかと思います。私が育った家は、実家兼診療所でした。父が夜中に呼ばれて出ていく姿も見てきました。「地域の中で、患者さんのニーズに応えるというのが一番大事な務め」と、両親から直接言われたわけではありませんが、子どもの頃から見てきたかかりつけ医としての姿を、そのまま引き継いで今に至っています。
高齢者の患者さんの主訴で多いものは?

高血圧・高脂血症・糖尿病といった生活習慣病です。もともと自分の専門が血液疾患・免疫疾患でしたが、それらと比べると疾患の性質が違うんですよね。血液疾患・免疫疾患は急に悪くなるので救急に近い治療が求めれます。しかし高齢者の生活習慣病というのは、徐々に重くなってくるもの。ですから、患者さんが弱らないようにすることが主な目的となってきます。生活習慣病は加齢とともに増えてくる疾患であり、老化がそうであるように治療が難しい疾患です。加えて年を重ねると、病気だけではなく筋力の衰えや認知症などが見られるようになり、全体が弱ってきますよね。そういう意味では多くの方が、いろんな疾患を抱えながら終末期を迎えるわけで、それをどうソフトランディングさせてあげるのかが、高齢者医療の内科医としての一番の役割ではないかと思うんです。
先生の医師としてのやりがいはどこにありますか?
高血圧・高脂血症・糖尿病といった生活習慣病や骨粗しょう症に関しては、珍しい疾患ではありません。しかし先ほど申しましたように、患者さん自身とご家族の希望は、生活環境や経済的な状況も含めてそれぞれ異なります。それを踏まえて、どういうふうにうまく終末期につなげていくかというのが、特に高齢者を対象とする医師の役割ではないかと私は思っています。そしてクリニックを継承して約20年、患者さんとの関わり合いがだんだん深くなってきました。それぞれの思いを持つ患者さん方が、うまく生活できて、うまく年を取っていく姿を実感できるようになっています。私もいい年齢ですので、同じように患者さんとともに年齢を重ねながら、患者さんがそれぞれの人生を全うできるように協力できることが、医師としてのやりがいであり、満足感につながっていると感じています。
骨粗しょう症の検査・治療にも注力
先生は骨粗しょう症の治療にも注力しているそうですね。

私が所属していた内科の教授は、カルシウム代謝や骨粗しょう症が専門の先生だったこともあり、必然的に骨粗しょう症についても学びを深めることとなりました。骨粗しょう症は整形外科の先生が診るイメージがある方も多いですよね。しかし、骨という臓器の代謝疾患ですから、内科の先生がきちんと治療すべき疾患という思いを引き継いで、当院でも注力しています。整形外科では導入している医院も多いですが、当院ではDEXA(デキサ)法による骨密度装置を早くから導入しています。数値化されて出てきますし、また治療効果の判定にも活用することができます。骨粗しょう症の薬に関しては、骨密度の維持ではなく上昇を目的とした新しい薬がどんどん出てきています。長生きすればするほど骨粗しょう症は発症しやすくなります。そして転倒して骨折することで、弱っていく人も本当に多いので、早めに検査をして、必要であれば治療することが大切だと思います。
訪問診療にも対応されているそうですね。
通院できなくなった患者さんを中心に訪問診療をしています。体が不自由になった方をご家族が医療機関に連れてくるというのはなかなか大変なもの。こちらが訪問することも、かかりつけ医としての役割の一つかなとは思うので、私の体力が許す限りは訪問診療も継続していきたいです。
今後の展望についてお聞かせください。

私も現在70歳。あと10年ぐらいは頑張るつもりです。ただ、それが今と同じレベルで仕事ができるかというと、その時の状況次第かなとも思ってます。しかし、地域のかかりつけ医として現在の患者さんをきちんと診ていくことは何より大切にしていたいですね。もちろん、時代の流れに乗っていくことも必要。医学は日々進歩していて、いろんな病気に対し新しい知見も出てきています。われわれが習った時とは違う考え方や治療法などもあるので、勉強しつつ取り入れていきたいですね。当院の治療法と時勢とでギャップがあることは、患者さんに不利益を与えるわけですから。これまで得た知識は維持しつつ、目の前の患者さんをきちんと診て、ソフトランディングできる方法をたくさん積み上げていくことが私の仕事だと思います。