横田 芳郎 院長の独自取材記事
よこた芳友クリニック
(尼崎市/塚口駅)
最終更新日:2025/04/01

塚口駅から南に徒歩5分の場所にある「よこた芳友クリニック」。横田芳郎院長は、患者が必要とする医療を提供するため、午前中は内科・消化器内科を中心とする外来診療を、午後からは訪問診療に足を運び、通院できない患者のために温かい手を差し伸べ続けている。勤務医時代に救急科で培った全身管理の知識を生かし、患者の健康を総合的にケアする一方で、安心して自宅療養に向き合えるように、介護士や栄養士と協力して、生活全体を見据えたサポートを実施。患者とその家族に寄り添う気持ちのこもった医療で、地域に貢献する横田先生に、在宅医療に対する思いや今後の展望について話を聞いた。
(取材日2019年3月7日)
病気ではなく人を診る、気持ちに寄り添う医療を提供
在宅医療をメインにした、こちらのクリニックの成り立ちを教えてください。

今から55年前、整形外科専門の医師だった父が継承するかたちで、一般外科の有床クリニックを開院しました。その当時この辺り一帯は田んぼでしたが、昭和50年代に入り阪急神戸本線・塚口駅前にマンションと商業施設の複合施設ができると、人口は急激に増加しました。私が医院を承継したのは2005年春です。専門である消化器内科・外科だけに特化するのではなく、一般内科と在宅医療をメインに診療する今のスタイルは、その頃から考えていました。深刻化する高齢化社会の中で、総合的な診療を行うかかりつけ内科と充実した在宅医療が、今後ますます必要になるだろうと感じていたのです。
院長に就任される前は、どのような経験を積んでこられたのでしょうか?
救命救急センターに在籍した期間が長かったこともあり、救急の外来診療では数多くの経験を積みました。搬送される患者さんの状態に応じて適切に判断し、迅速な処置を行う救急医療の知識は、現在の在宅診療においても役立つことは多いです。西宮協立脳外科病院で勤務していた時は、消化器科が専門でした。内視鏡的治療が注目され始めた時期でしたので、勤務医を続けながら内視鏡技術を極めたいと考えていましたが、「ご高齢のお父さんの後を継いだらどうか?」と上司の医師からアドバイスを受けて、悩んだ末に実家の医院を継ぐ道を選びました。
在宅医療に従事する医師に転身し、医師としての考え方にも変化があったそうですね。

救急科の医師に求められるのは即断即決です。短期集中的に急性期の患者さんに対応し、慢性期に移行すれば一般病棟に移すというのが自分の仕事でしたが、当時の自分を振り返ると、ただ目の前にあることに必死でした。真剣に医療に取り組む気持ちは今と同じですが、「病気を診るのではなく、患者さんを診る」という基本的なことができていなかったように思います。今は地域に溶け込み、そこに暮らす人たちと共存しながら、患者さんに寄り添う医療を大切にしています。開業医になって、自分の医師としての在り方は大きく変わりましたね。
専門分野に特化せず、トータルにサポート
在宅医療を行う上で、どのようなことが求められますか?

在宅医療を必要とされる患者さんは、年齢も違えば抱えてらっしゃる疾患もさまざまです。この病気は得意だけど、この病気は専門外だからわからないでは在宅医療は務まらず、専門の医師を紹介する場合でも、病気の知識を持ち合わせた上で判断する必要があります。最近は専門分野が細分化される傾向にありますが、在宅医療や地域のかかりつけ内科診療においては、患者さんの健康をトータルにサポートする総合診療が求められます。その点で、救急医療に携わっていた経験は、私の強みだと言えます。休日夜間急病診療所では、生後3ヵ月のお子さんを診療することもありましたし、内科だけでなく皮膚病変など他科の症状も、専門の医師からアドバイスをいただきながら対応してきました。実践を通じて幅広い分野の知識を学べたことは、患者さんを総合的に診る在宅医療において大いに役立っています。
患者さんとはどのように接しておられますか?
診察の際は症状を尋ねるだけでなく、患者さんの生活習慣や背景を把握するために、対話を大切にしています。ただ外来診療では、その方が実際にどのような環境で過ごされているのかまではわからず、生活の中で本当にお困りのことは何かを理解するには限界があります。その点、訪問診療はその方の生活の場が診療室そのものです。部屋の様子を見れば普段の暮らしぶりや好み、趣味などが伝わってきますし、キッチンを見ればその方の食生活もおのずと見えてきます。そうした背景まで理解した上で、生活の一部としての医療をどのように提供するのがふさわしいかを考え、広い視野で患者さんを支えることが私の役目であると感じています。
患者さん一人ひとりに寄り添っておられるのですね。

在宅医療の患者さんと接することは、私のほうが充実した気持ちで向き合える時間だと感じることもあります。患者さんとたわいのない話で花を咲かせたり、時には電化製品の修理をお願いされたりと、人と人とのつながりの大切さを実感することが多いです。
他業種連携でより充実した在宅医療を実現
患者さんだけでなく、家族へのケアも大切されていますね。

在宅医療が担う役割は、患者さんへの医療支援だけではありません。患者さんを支えておられるご家族の負担を軽減し、気持ちのケアをすることもまた私たちの役目だと考えています。訪問診療の際は患者さんご本人だけでなく、ご家族の方ともできるだけ会話する時間をつくり、「生活の中で困っていることはないか?」「介護で不安を感じていることはないか?」伺うようにしています。ご家族にとって家庭での医療と介護は、予想以上に負担が大きいものです。介護や福祉など多職種とも連携し合いながら、患者さんとご家族が安心して自宅で療養できるように、サポートをしていきたいと思っています。
在宅医療は医師だけではなく、周りとの連携も大事なのですね。
在宅診療は医師だけでは成り立ちません。ケアマネジャーさんやヘルパーさんをはじめ、さまざまな業種の人たちが協力し合って、患者さんを支えていくものです。充実した在宅医療をより効率良く提供するには、医療と介護の垣根を取り除き、シームレスな多職種連携を築く必要があります。特にヘルパーさんは、患者さんにとって最も身近な存在であり、ヘルパーさんが患者さんから聞いた話や、ケアを通じて感じたことの中には、在宅医療にとって有力な情報が隠れていることも少なくありません。そういった情報が主治医の私のところまできちんと届くように、介護を担う職種と医療職の距離をできるだけ縮めていきたいと考えています。
最後に、今後の展望を聞かせてください。

少子高齢化が進み、通院できない人がこれからどんどん増えていきます。ご家族の負担を減らすとともに、救急病院が疲弊しないよう、在宅医療を普及させて協力することは、地域医療に携わるわれわれの使命だと思っています。そんな中で、通院できないご本人だけでなく、ご家族をも診ることが重要になってくると思っています。居宅介護という選択肢だけではなく、ご家族の負担を軽減するためには施設での介護という選択肢も与えられるように多職種と連携を密にしていきたいと考えています。医療の視点だけで見るのではなく、総合的な視点を持って見ていくことで施設でも老後を安心して暮らせるようにサポートしていきたいですね。そんなふうに考えておりますので、まずはお気軽に相談いただければと思います。