山本 千尋 院長の独自取材記事
山城小児科医院
(尼崎市/塚口駅)
最終更新日:2024/12/27

阪急神戸本線塚口駅、北口から徒歩2分ほどの場所にある「山城小児科医院」。1934年に祖父である先々代が開院、その後先代である母の後を継ぎ、山本千尋院長が3代目として地域医療に貢献し続けてきた。小児科全般、アレルギー科診療、予防接種、育児相談、乳幼児健診まで幅広く対応する山本院長は日本アレルギー学会アレルギー専門医でもある。医師会にも参加し講演会に登壇するなど精力的な活動を続けている。子どもはもちろん保護者に対しても、「わが家のような医院」のスローガンのもと寄り添い、「どんな些細なことでも相談してほしい」と話す。地元である尼崎への愛があふれる山本院長に、診療にかける思いや今後の展望などについて詳しく聞いた。
(取材日2024年10月31日)
継承から30年以上。小児科、アレルギー科診療に尽力
医院の歴史と継承の経緯を教えてください。

父方の祖父が1934年に開業しました。その後、祖父の長男である父に嫁いだ母が2代目院長になり、その後私が3代目となりました。生まれも育ちもここなんです。母が診察している時代は、私は学校から帰ってきたらずっと診療所横の自宅の庭から、働く姿を感じていたように思います。その母が大病を患い、思いがけず早く亡くなってしまったんです。その時私は大学院で学んでいたのですが、急きょ後を継ぐことになりました。当時1児の母でしたが、当院での診療を始めてから子どもを2人授かり産み育てました。継承当初はわが子と同じ年くらいのお子さんを診させてもらっていたのですが、その子たちが親になってお子さんを連れてきてくださるケースもありますね。ママ目線だったのが、いつの間にかおばあちゃん目線で地域のお子さんを見つめています。こんなに長く小児科の医師として働けていて、冥利に尽きますね。
どのようなことに注力されていますか?
昨今は、新型コロナウイルス感染症の流行以後、いろいろな感染症が季節を問わず広まっています。そのため当院でも感染症対策に注力しています。生後2ヵ月から始まる予防接種も力を入れています。親御さんとは長いお付き合いになりますので、心配事もひっくるめてご相談いただければと思います。近頃の親御さんは、些細な不安もスマートフォンで延々と調べている方と、あまり気にせずあっけらかんとされている方と、二極化しているように感じますね。小児科は親御さんの駆け込み寺としての役割も担っていますので、なんでもお気軽に相談してほしいんです。なので予防接種のタイミングでの「いつでも聞いてくださいね」のお声がけを意識しています。「保健所には担当の保健師さんがいますし、SOSを出せる場所は地域に数多くありますよ」とアドバイスしたり。医師会活動をするようになってから一層、行政サービスの周知が必要だと感じるようになりました。
アレルギー科の診療についても教えてください。

アレルギー科の診療では、赤ちゃんの時の湿疹に対するスキンケアと免疫療法の2つを重視しています。スキンケアは、お肌の洗い方や保湿の仕方などを理由を含めて細かく説明して、その重要性を親御さんに理解していただくことも大切にしています。免疫療法については、先代の母が皮下注射での免疫療法を始めており、しばらくはそれを引き継いでいましたが、年月がたち今は舌下免疫療法に注目しています。アレルギーの原因物質を内服することで、根治をめざす治療法です。お子さんの将来が大きく変わることも期待できると考えています。アレルギー疾患に長らく携わってきましたので、専門性を持って対応できると自負しています。
地域に根差し、次世代につなぐ医療を
アレルギー診療は長いお付き合いになる場合が多いのでしょうか。

先ほども取り上げたように、赤ちゃんの頃のスキンケアがアレルギー対策に重要だと認識しています。皮膚はアレルギーの原因物質のバリアとして機能するので、その皮膚をケアしてあげることが、先々の食物アレルギーにも影響すると考えられています。アレルギー疾患は長く続くものです。一般的に小児科は中学生までが対象とされていますが、アレルギーを持つお子さんには、大人になっても頼ってもらって大丈夫ですよとお伝えしています。20代、30代になっても通っていただけると、医師としてもありがたいですね。小児科の医師として、子どもたちにできることは何でもしたいという気持ちはあるのですが、必要な時に適切な医療機関につなぐことも重要な役割だと思います。その勉強は、これからも続けたいですね。
地域との連携はどのようにされていますか?
地域密着の極みのような診療ができているなと思っています。出身小学校の校医や地域の幼稚園や保育園の園医もしているんですよ。医師一人でできることには限りがありますので、地域の先生方との連携体制を整えています。そのためには人と人とのつながりが大切で、それを構築するためにも医師会活動を重視しています。尼崎の先生方と情報共有をしながら切磋琢磨することが、尼崎の子どもたちのためになると考えます。地域の顔や人となりを知った医師に診てもらえることが地域の皆さんの安心感につながると思うので、これからも、もうしばらくは医師会活動を含めて頑張っていきたいですね。
院内には絵本が多く置かれていますね。

院内にテレビを置かない方針で30年間続けてきました。亡くなった母は、老後に絵本広場を運営することが夢だったんですよ。なので私が医師を引退したら、代わりに実現したいのです。赤ちゃんが絵本を読まないことに心配される親御さんもいらっしゃるでしょう。でも私は、寝る前に1ページだけぺらりとめくるのも、ぱたんぱたんと開いて閉じてを繰り返して遊ぶことも、絵本との関わり方だと思います。そのうちに、赤ちゃんの心に響く絵本に出合えるかもしれません。なにも物語を読んであげないととこだわる必要はないと思います。親御さんの読み聞かせるやわらかい声や触れ合う肌のにおいや感覚が、原風景となって、将来の育ちにつながるのではないかなとも感じます。絵本の紙に触れることでしか伝わらないものは、確実にあると思います。当院に来て絵本に触れることで、そんな体験を重ねてほしいですね。
心に寄り添い、わが家のような医院をめざす
今後の展望について教えてください。

アレルギー科の医療の、この10年の進歩は目覚ましいものです。全身療法に使用される生物学的製剤などをはじめとして、薬の種類も格段に増えました。そのため、医師として情報を随時アップデートしながら、患者さんに還元できるよう学び続けたいです。小児科の一般診療では発達課題のあるお子さんが多いので、心に寄り添う診療の必要性を感じています。私は児童心理について専門的に学んだ経験がないので、経験豊富な心理士さんに月に1度来ていただいています。その上で、私自身は子どもの生活基盤である睡眠、食事、お通じ、運動に着目し、これからも心に寄り添った診療を心がけたいです。
子どもだけでなく、保護者にとっても非常に心強いだろうなと感じます。
思春期になると、精神疾患を発症するお子さんもでてきます。今この瞬間に、どこかで誰かに話を聞いてほしいと感じることもあるでしょう。小さい頃から通ってくれているお子さんなら、そういった小さな変化を気づきやすく、またある程度家庭環境の背景を把握できていると適切なアドバイスにつなげやすくなると感じています。やはりそんな時は小児科の医師の出番だと思うのです。だから、普段の診療でも「なんでも話してね」とお伝えしているんです。不安からインターネットで調べるあまり、肝心なお子さんに向き合う時間が減ってしまっている親御さんも多いのでしょうか。時間は有限ですので、早めに専門家である小児科の医師に相談していただけたらと思います。
読者へのメッセージをお願いします。

小児科は子育ての応援団だと思うのです。まず、お子さんに対して「かわいいなあ」という気持ちでスタッフ一同接しています。当院に来られた時より、後にされる時のほうが笑顔になっていただけたらなと願いながら診療していますね。医療のことだけでなくて、お子さんにまつわるさまざまな困り事を、相談してもらえたらありがたいです。近所のおばちゃんにちょっと話してみようと思ってもらえるような、そんな医師でありたいです。予防接種の時でも、何かのついででも構いません。わが家のような医院をめざしていますので、少しでも気になることがあれば、何でも相談してもらえたらうれしいです。