押谷 高志 院長の独自取材記事
押谷クリニック
(神戸市北区/箕谷駅)
最終更新日:2021/10/12

約30年前にニュータウンとして開発された美しい街並みの中に、しっくりと溶け込む「押谷クリニック」。それもそのはず、まだ都市開発が始まったばかりの頃に街づくりの要として開業し、この街の成熟とともに重ねてきた歴史がある。「病気の早期発見をして健康寿命を延ばすサポートをするのがクリニックの役割」と話すのは院長の押谷高志(おしたに・たかし)先生。的確な診断のために、検査だけでなく患者の話をしっかりと聞くことを重視、そのため診療は長くなりがちだという。「患者さんをお待たせするのが申し訳ないという気持ちとのせめぎあい」と苦労も語る。待ち時間の負担を軽減するための配慮は至るところに見られ、患者に真摯に向き合う姿が伝わってきた押谷院長の医療に対する熱い思いを聞いた。
(取材日2019年2月28日)
患者の話をよく聞くことが、的確な診断につながる
美しい曲線が印象的なクリニックですね。先生のこだわりを感じます。

開業当時はクリニックビルの一室にあったので、スペースの制限もあり理想とは異なる部分もいろいろとありました。その場所で20年診療を続ける間に、もっとこうだったらいいなと思うことを常に書き留めていたのです。その20年のアイデアを反映させて新築したのがこのクリニックです。実はこの土地だけは、いつかここでやりたいと思い、移転する10年前に購入していたんですよ。この方にお願いしたいと思える良い設計士さんとの巡り合わせを急がずに待ち、2011年に満を持して移転しました。そんな思いの詰まったクリニックです。最もこだわったのは待合室で、吹き抜けや曲線的なデザインによりゆったりと感じられるような造りにしています。DVDや雑誌も楽しんでいただけるようなものを用意し、キッズルームも備えています。
患者さんの居心地の良さを追求して設計されたんですね。
本来は待ち時間がないことが患者さんにとってベストなのですが、どうしても長くなりがちなのでせめてお待ちいただく間の負担を減らしたいと思ったのです。インターネットで順番予約ができるシステムや、スマートフォンで診察中の順番がわかるようにすることで外出していただけるようにするなど工夫はしているのですが、なかなか待ち時間をなくすことは難しく患者さんには申し訳なく思っています。常に患者さんのお話を詳しくお聞きしたいと思う気持ちとのせめぎ合いなのですが、治療や病気に関わる最も大切な部分ですので、できるだけ他の部分で補うことでお許しいただけたらというのが正直な気持ちです。
患者さんのお話はどのような点を重視して聞かれるのですか。

初診の患者さんであれば、まずはこれまでに行かれた病院や処方されたお薬、今はどんな状態かなど詳しくお聞きした上で必要な検査をし、その結果をもとに診断をします。持病などで継続して来られる患者さんであれば、普段の様子や痛みの状態などを知ることで、小さな変化があった時に病気の予兆に気づくこともできます。病気の早期発見や健康寿命を延ばすことをこのクリニックの目的にしていますので、できるだけお話を詳しく伺い病気のサインを見逃さないように心がけています。
住民の健康を守る使命のため、街とともに歴史を重ねる
病気の早期発見と健康寿命を延ばすことを、クリニックの目的とされた背景について教えてください。

開業前は兵庫県立成人病センターでがん治療を専門に、生活習慣病の治療にも携わっていました。今よりも当時は、がんは難しい病気でしたから、早期発見の重要性を痛感していました。また、高血圧や糖尿病などの生活習慣病から、寝たきりになる患者さんも見ていました。病気の早期発見をして、重症にならないようにすることがクリニックの役割だと思ったのです。そのため開業することになった時、体のすべての部位をチェックできるよう設備を整えました。当時はまだ導入しているクリニックも少なかった内視鏡検査など、的確な診断と治療につなげられる環境のもと診療を始めました。
この地域に開業されたのはどのような経緯だったのですか。
この辺りは約30年前にニュータウンとして開発された場所なのです。今でこそ、ショッピングモールや戸建て住宅、整備された道路や美しい街路樹があり住みやすい住宅街ですが、開業当時は小さなスーパーマーケットとクリニックビルが1つ、家が少しあるだけだったのです。住民も少なかったのではないでしょうか。それでこちらの都市開発をしていた企業から、街をつくるにあたりここにクリニックが必要だとのことでお声がけをいただいたのです。ちょうどいろいろなタイミングが合い、半年後には耳鼻科や歯科、外科医院などが入るクリニックビルで開業しました。まだほとんど何もない街だったので不安もありましたが、一から自分が良いと信じる診療をすることができたのは幸いでした。健康への意識を高めてもらえるよう健康教室を開いたり、家庭で血圧を測ることをお勧めしたり、それまでの思いを形にし、患者さんも受け入れてくれました。
先生が医師をめざしたきっかけや医学部時代に取り組まれたことを聞かせてください。

高校3年生で進路を考える時に思ったのは、人の役に立つ仕事がしたいということでした。一番役に立てるのは何だろうと考えると、人の命を助けられる医師だと思ったのです。父が薬剤師だったので医療に親しみもありました。2018年に本庶佑先生がノーベル賞をとられたのは記憶に新しいところですが、私が医学生だった時代は、ちょうどそういったがんの免疫療法の研究が始まった頃でした。私も免疫療法の研究を志し、神戸大学医学部を卒業した後、大学院にも進みました。
地域のかかりつけ医として患者に寄り添う
診療ではどのようなことを大切にされていますか。

研修医の時に患者さんの結核がうつってしまい、1ヵ月間の入院と半年間の自宅療養を余儀なくされるという経験をしました。当時、結核は大部分が治るといわれていましたが、入院中は「治らない少数のほうに入っていたらどうしよう」と非常に不安な気持ちにもなりました。その経験があるので、患者さんの気持ちはよくわかります。また同じ症状でも患者さんによって考えることは違うということも重要です。何か痛みがあるときに、とにかく早く薬だけほしいと考える人もいれば、重い病気ではないかと心配する人もいます。不安に思っている人には、きっちりと検査をして「大丈夫ですよ」とはっきりお伝えしないとその症状も軽減につながりません。正確な症状の把握、診断、患者さんの希望。この3つが大切です。患者さんの立場になって考え、寄り添いたいと思っています。
仕事のやりがいを感じるのはどんな時ですか。
やりがいを感じるのは、やはりがんや心筋梗塞などの前兆を早期に察知し、大規模病院に患者さんを紹介して、元気になられた時です。旅行や食べ歩きが趣味なのですが、それよりもつい仕事に時間を費やしてしまいます。患者さんは開業当初からの方も多く、このニュータウンができた時に移り住んでこられた方は今は60~70代くらいです。そんな地域の患者さんたちが、これからもできるだけ長く健康で生活できるサポートをこれからもして差し上げたいと思っています。
最後に、押谷先生が実践されている健康法があれば教えてください。

この辺りは散歩をするにも良い環境なので、患者さんにも健康のために歩くことをお勧めしています。とはいえ、私自身は時間がなくてあまりできてはいないのですが……。唯一実践していることは、一日1回たっぷりの野菜を入れた野菜スープを食べることです。私は午後の診察が終わるのが夜8時頃なので、甘いものをつまみたくなるところなのですが、代わりに野菜スープにしています。うちでは野菜を1~2週間分まとめてホーロー鍋でことこと炊いて小分けにしたものをストックしています。飽きないように、お味噌やコンソメ、コーンスープの素など味を毎日変えて楽しんでいます。野菜を先に食べる習慣になりますし、体重をコントロールするためにも役立つと思いますのでお勧めですよ。