伊東 桂一 院長の独自取材記事
吉武内科
(神戸市北区/鈴蘭台駅)
最終更新日:2021/10/12
「病気だけを診るのではなく、トータルケアが大切」と話すのは、親しみやすいやわらかな雰囲気が印象的な「吉武内科」の伊東桂一院長。父の吉武桂先代院長が1977年に開業した同院を2008年に継承して11年。「患者さんの健康寿命を延ばし、幸せな人生をサポートすることで自分が生きた証を残したい」という信念のもと、先代から続く「話を聞く丁寧な診療」を実践している。そんな伊東院長のもとには、連日患者が訪れる。日本循環器学会循環器専門医と日本内科学会総合内科専門医の2つの資格を持ち、地域のかかりつけ医として患者の健康を支えてきた伊東院長に、医師として大切にしていることや健康寿命に関することなど話を聞いた。
(取材日2019年7月12日)
医療知識のアップデートを欠かさず、地域医療を支える
こちらはどのような医院ですか?
循環器内科が専門ですが、内科一般疾患に幅広く対応しています。しっかりと症状などをお聞きして、丁寧に身体所見の診察をし、必要に応じて各種検査も行います。検査内容は、エックス線撮影をはじめ、心電図、ホルター心電図、超音波検査、血管年齢や手足への血流を評価できるABI検査、肺機能検査など、循環器内科の医院で一通り対応可能な検査を行っています。結果についても、なるべくわかりやすい詳しい説明をするよう心がけています。当院での検査や治療が不可能な場合は、病状に合わせて適宜他の医院や病院への紹介もさせていただいています。1977年の父の開院から約42年続く医院ということもあり、これまでに診療した患者さんの数は1万2000人を超えます。ご高齢の方が多いですが、坂の多い土地柄もあってか足腰の強いとても元気な方が多い印象ですね。
伊東先生のご経歴など教えてください。
1967年に吉武桂の長男として生まれ、その後は母方の姓を継いで伊東となりました。幼い頃から父の姿を見ていたこともあり、「病気に困っている人や苦しんでいる人を助けたい、役に立ちたい」と思い、医師を志しました。1992年に神戸大学を卒業し、大学病院等での研修後、狭心症や心不全の研究で学位をいただきました。病院勤務をした後、2008年に当院を引き継ぎました。継承から11年がたちますが、新しい医療知識・技術を習得することは常に意識していますね。文献を読んだり、学会や講演会には積極的に参加します。講演会を企画から任せていただく時は多くの医師が学びたいと思う内容を意識し、自分自身もアップデートできるよう心がけています。
スタッフさんも患者さんとのお付き合いが長いそうですね。
父の開業当時からのスタッフが2人いて、私より患者さんや先代の頃のことに詳しく、まだ小学生だった私のことまで知っているんですよ(笑)。他のスタッフもみんな長く勤めてくれているので、患者さんにとっても自分のことをよく知るスタッフがいるのは大きな安心感につながっていると思います。そのせいか、患者さんとスタッフは、和気あいあいとしていますよ(笑)。これは先代から引き継いでいる吉武内科のDNAなのかもしれませんね。
「健康寿命」を延ばし、幸せな人生をサポートしたい
どのような思いで診療していますか?
患者さんには、ただ長生きするだけでなく、健康寿命を延ばしてほしいと思っています。日本では寿命と健康寿命の間に男性は9歳、女性は12歳もギャップがあるといわれています。こんなに長い期間、不自由な状態で過ごすのはつらいことですよね。だから、病気を診るだけではなく、健康寿命を延ばすことによって幸せな時間を長く過ごしてほしいと考えています。
実際の診療で心がけていることは?
「トータルケア」といって、病気だけでなく、趣味や家族関係、仕事、価値観などを踏まえ総合的に診療するよう心がけています。その人の生活スタイルによって方針も変わってきますし、性格によって病状の伝え方を変える工夫もします。同じ言い方でもショックを受ける人もいれば、気楽に考え過ぎる人もいますからね。そのためにしているのが「話を聞く丁寧な診療」です。実は、この方針はもともと父が実践していたものなんです。将来、AIが医師の代わりになるともいわれていますが、私はそんなことはないと思っています。一人ひとりに合ったトータルケアは人間だからこそできるのです。「さじ加減」という言葉がありますが、この語源は、江戸時代の医師が一人ひとりに合わせて薬を細かく調合するのに使う「さじ」から来ています。温故知新と言いますか、まさにこれが医療の在り方であり、それはこれからも変わらないことだと思っています。
一人ひとりとの関わりを大切にされているのですね。
トータルケアができるのは、一人ひとりの患者さんとのお付き合いが長いからこそかもしれません。院長になる前から担当させていただいている患者さんとはもう20年以上のお付き合いになりますし、ご家族3世代にわたって来てくださっている患者さんもいらっしゃいます。これは異動なく長期に関われる開業医ならではの「やりがい」ですよね。お互いに年を重ねていく中で、少しでも皆さんの安心、快適な人生のサポートができれば、医師として最高です。ただ、待ち時間が長くなることは心苦しく思っています。混み具合や進行状況を自宅や院外で確認できるシステムも導入していますので、スタッフに気軽に尋ねてください。
診療以外でも取り組みをされているとか。
先日、待合室で「歌の会」を初めて開催しました。歌で喉を鍛えれば、治療に困る誤嚥性肺炎の予防につながると考えたのです。声楽の先生にボイストレーニングもしていただくと、皆さんの様子が本当に楽しそうで。普段、診察室で見る姿よりはるかに若々しく、生き生きとされている。やはり「楽しむ」ことが大切なんですね。また、イベントの開催にあたり、スタッフが案内の作成や当日の段取り、対応など、協力して進めてくれました。そのことも本当にうれしくて、私まで幸せな気持ちになりましたね。
幸せな生き方、幸せな社会の実現に向けて
印象に残っているエピソードを教えてください。
ある一人暮らしの90代の女性に、手術をしないと命に関わる病気であること、しかし手術すれば寝たきりになる可能性もあることをお伝えしました。よく理解された上で、手術をしない選択をされました。そして、亡くなる前日まで食事も取れて、自宅で友人に見守られながら穏やかに旅立たれました。医療を尽くしてただ命が長ければ幸せということではないということを、現場の医師としてたいへん考えさせられました。このようなケースは今後増えていくでしょう。幸せな生き方、幸せな社会を実現していく上では避けては通れない難しい問題です。
院長の人生のモットーとは?
生かされていることに日々感謝しながら、自分の生きている役割を、自分が関わる人のために使いたいと思っています。当院を選んで来てくださった患者さんの人生に役に立てるとしたら、こんなにうれしいことはありません。少しでも安心して過ごせる時間を提供し、健康寿命を延ばして幸せになってもらえたら、それは私にとっての生きた証でもあります。人生の伴走者として、何でも相談してみようと思ってもらえる医師になりたいと願っていますし、それに応えることができる医師でありたいですね。
趣味など、休日はどのようにリフレッシュしていますか?
趣味はたくさんあります。幼少期に始めた写真は、最近では医師会や医局年会誌の表紙写真を担当させていただいたりして、奥深い写真の世界を楽しんでいます。鉄道は小さい頃から乗るのも撮影するのも好きですし、音楽も好きで、若い頃はエレクトーンやトランペットの演奏も。テニスやゴルフも続けています。本当にいろんなことに興味を持つほうで、休みの日はどこかに出かけています。「よく時間がありますね」と驚かれますが、趣味を通じて異業種の方と出会えると、学ぶことや共感することが多くて楽しいんです。趣味があるから仕事が楽しめるし、仕事があるから趣味も楽しめる。このバランスが大事ですね。
最後に読者へのメッセージをお願いします。
何か症状があれば、「年だから」と諦めずぜひ相談していただきたいですね。動悸や息切れは心不全や貧血だったり、だるさは甲状腺機能低下症、ふらつきやぼんやりした状態は慢性硬膜下血腫などが原因のこともあります。これらは治療で改善が期待できます。心不全の原因としてよくある心房細動や大動脈弁狭窄症も、カテーテル治療で手術することなく対応できるようになってきました。まずは気軽に受診してください。