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井上 幹人 院長の独自取材記事

井上クリニック

(池田市/池田駅)

最終更新日:2023/04/13

井上幹人院長 井上クリニック main

商業施設が並ぶ阪急宝塚本線池田駅の駅前から、わずかに歩くだけで落ち着いた風情の住宅街が広がる。「井上クリニック」はその一角にあり、院長である井上幹人先生の祖父の代から90年以上の歴史を重ねてきた。井上院長は、産婦人科の医師の父が祖父の医院を継ぐタイミングである10歳のときにこの地に移り住んでから、大学時代を除いてずっとこの街で暮らしてきた“池田っ子”だ。現在は内科医師を本業に生活習慣病の治療に力を注ぐ一方で、認知症サポート医としても活動するなど、認知症に関して知識や経験の豊富な井上院長にさまざまな話を聞いた。

(取材日2018年2月15日)

街のかかりつけ医としての立場で、認知症に携わる

こちらで開院された経緯を教えてください。

井上幹人院長 井上クリニック1

私の祖父が戦前から同じ池田市内で産婦人科医院を開業していました。父も産婦人科の医師で祖父が高齢になって後を継ぐために、西宮から家族で池田に引っ越してきました。それが私が10歳のときで、1972年でした。それから大学時代を除いては、ずっと池田で暮らしています。池田は住宅街として開発された経緯があり、私が池田に戻って来た頃は大きなお屋敷がまだ数多くありましたが、最近は大きなマンションが増えてきましたね。1993年に開業して2003年に今の場所にクリニックを建てるまでの10年間は、別の場所で開業していました。

医療に携わる上で、先生の現在の関心事はどんなことですか。

一つは認知症です。大学を出て最初に入局したのが、老人内科だったんです。そこは認知症をメインに研究している医局ではなかったのですが、お年寄りを診るわけですから興味はありました。開業前に老人が多く入院されている病院に勤務したこともありました。開業後に施設への訪問診療を始めてみますと、そこでは入居者の6~7割が認知症なんです。このように施設で診ている方の多くが認知症でしたので、自然の流れでそれが関心事になりました。認知症の一番の問題は、早期に発見できないことです。その理由はいろいろとありますが、その一つに患者さん自身とその家族が認知症と診断されたくないことがあります。認知症の初期症状が出ても、それは加齢によるものだとご自身や周りが自己判断してすぐには、医療機関に行かれないんです。

認知症を早期に発見できれば、どんな利点がありますか?

井上幹人院長 井上クリニック2

残念ながら現在の医療ではまだ、認知症を完全に治癒させることはできません。しかし早期に発見できれば、薬を使って進行を遅らせることがめざせます。認知症の薬は、死んでいく細胞を再生するものではありません。わかりやすく説明しますと、例えば脳細胞の90%が生きていて、10%が死んでいる状態とします。認知症の薬はその残っている90%に110%の働きをさせるよう働きかけることで、元の状態に近づけることをめざすんです。しかしながら認知症が進行して生きている脳細胞が50%に減った段階で認知症の薬を使い始めても、結局は55%ほどの働きしか期待できず、本来の効果を発揮できません。医師として認知症の薬は、認知症初期から使いたい薬なのです。診断を早めに受けて薬を使い始めれば、本来の恩恵が受けられることが期待できますから。早期発見するためには、患者さんの意識が変わる必要性も感じていますね。

認知症に対する共通認識を、社会が持つべき

認知症に対する認識で、先生は何を改善すべきと考えているのでしょうか。

井上幹人院長 井上クリニック3

認知症を発症していても、日常的な動作において100の物事のうち、90はできている。これだけできていれば大丈夫だろうと、ご自身及び周囲の家族が認知症ではないと判断されることがあります。しかしできていない10の中に、認知症と診断できる重要なサインが含まれている場合があるんです。この症状が出たら認知症の可能性があると、皆さんが共通認識として持ち、もっと早期に受診ができるようになればいいと思います。認知症の共通症状は物忘れなんですが、それは単純な物忘れではなく、あるできごとの記憶がまるまる抜け落ちているのが典型的です。例えば映画を昨日見に行った時に、その日の晩に映画の題名や俳優の名前が出てこないのは通常の物忘れですが、映画を見に出かけたこと自体をまったく覚えていないようなのが認知症的な物忘れです。認知症の典型的な初期症状に周囲が気づき早期治療に結びつく、そんな社会的な素地が生まれるといいですね。

そのために、どのような取り組みをされていますか。

国が進めている認知症サポート医という取り組みがあり、専門的な講習を受けています。一般の方が認知症を疑っても、いきなり精神科を受診するのはハードルが高いと思います。その前にかかりつけ医のレベルで認知症に対して基礎的な知識を持っておき、患者さんから相談を受けた際に、有益な情報を提供できるようにすることが大事なことだと思います。現場がこういうことに取り組むことで、早期に発見できたり、認知症に対しての社会的認識も推し進められればと思っています。

認知症に向き合う医師としては、患者を注意深く観察することも大事なのではないですか。

井上幹人院長 井上クリニック4

そうですね。通院されている方が認知症になられることもあります。例えば、受付で同じことを3回言われたら、これはと気づくと思います。そんな場合でも認知症はデリケートな病気ですので、すぐに診断を下さず、専門の医院で鑑別診断してもらうことを勧めます。認知症といっても、例えばうつ病や硬膜下血腫が原因で、認知症の症状が現れることがあります。このような場合、慢性硬膜下血腫であれば血腫を取り除くことになりますし、うつ病も抗うつ剤で改善につながると考えられます。あるいは、このような例以外でも認知症のように見えてもほかの精神疾患であるかもしれない。そういうこともありますので、特に初期の認知症が疑われる方が来られた場合、私は専門のところへ行って、診てもらうよう専門医療機関の受診を勧めます。認知症に気づいてあげるのはかかりつけ医であっても最終診断は専門家である、精神科の医師がすべきだと思っています。

生活習慣病の治療にも力を注ぐ

ほかには、どんな治療に力を入れていらっしゃいますか?

井上幹人院長 井上クリニック5

生活習慣病ですね。最初に入局したのが老人内科だとお話ししましたが、その医局で内分泌臓器をメインに診ていた内科なんです。甲状腺などホルモンを出す臓器を、一般的に内分泌臓器といいます。その異常を扱うのが、内分泌内科です。糖尿病も、インスリンというホルモンが関わる病気です。医師になって最初に高血圧や糖尿病を診ていたこともあり、認知症に興味を持つ前からの私のホームグラウンドのようなものです。生活習慣病は原因が食生活などご自身にあっても、それを認識できていない方が多くいらっしゃいます。でも原因の多くは、そこに潜んでいるんです。長年続けてきた生活習慣を変えるのはなかなか難しいですが、当院では患者さんが毎日できると思えるやり方をご提案し、それを実行していただけるように努めています。

治療を進めていく上で、どんなことに注意されていますか。

常に患者さん目線のスタンスでいることを意識しています。例えば高血圧の方に薬を処方しようとしても、「この薬を一生飲まないといけない」と嫌がられる患者さんもいらっしゃいます。そんな方には「高血圧を放置していたら、最悪は脳出血になる可能性がありますよ。それを防ぐための方法がたった1錠の薬であれば、そんなに大きな苦労ではないのではないですか、私だったら飲みますけど」とお話しています。患者さんの立場に立って、よりベストな提案をするように心がけています。

先生にとって、医師の仕事のやりがいはなんですか?

井上幹人院長 井上クリニック6

ひと言で言うと、自分がした行為が感謝の対象になれることでしょうね。患者さんに感謝されるなど、人のために役立っている実感が得られます。どの職業も巡り巡れば人のためになっているでしょうけど、医師はそれを患者さんから直接に聞けますし、その言葉をいただいた喜びを肌身で感じることができる。それに開業医は好きな分野で好きな時間に、好きなペースでできるのも、私に合っていますね。私は今後とも患者さんと、じっくりと向き合いたいと思っています。治療期間が長くなる生活習慣病に力を注いでいるのは、そのためでもあります。

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