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中川 晶 院長の独自取材記事

医療法人逍遥会 なかがわ中之島クリニック

(大阪市中央区/北浜駅)

最終更新日:2019/08/28

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大阪・北浜のオフィス街、ビルの5階に「なかがわ中之島クリニック」はある。院内に入ると、中川晶(あきら)院長が優しい笑顔で迎えてくれた。木目調の待合室には白いソファがゆったりと並び、院長が描いた絵も飾られた穏やかな空間。「体と心を両方診る心療内科を知って、これだと思った」と語る院長は、心療内科の医師になるべく大学病院の心身症の外来や東洋医学の研究所で幅広い臨床経験を積んだのち、1995年に開業。現在では、対話を重ねる過程で患者の思いを引き出し、心の変化を見守るナラティヴアプローチの手法を取り入れ、日々診療に取り組んでいる。そんな院長に、医師を志した経緯や、治療において大事にしている点、今後力を入れていきたい仕事など、さまざまな話を聞いた。
(取材日2017年5月19日)

出会いに恵まれた心療内科との出会い

落ち着いた雰囲気の待合室で、窓からの中之島の眺めも素晴らしいですね。

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患者さんにはリラックスしてもらいたいと思っていたので、病院っぽくならないように、床や壁を木目調にしました。待合室には病気の本だけでなく、私の趣味である美術関連の本もあります。また、今では珍しくもなくなりましたが、開業当初から患者さんと私の椅子を同じデザインにして、白衣を着るのもやめました。「医師の椅子はひじ掛けがついて厳かだけれども、患者さんは丸い椅子というのはおかしい、同じ椅子に座るべきだ」と、私の父(中川米造)がよく話していたんです。患者さんと私が同じ目線になり、患者さんがなるべく普段通りにお話しできるような空間づくりを心がけています。ただ、白衣を脱いで診療するのは、開業当初はちょっと心細い気がして、勇気も必要だったんですけどね(笑)。

心療内科の医師をめざした理由をお聞かせください。

高校生の頃は本気で漫画家になるつもりでしたが、途中でスランプに陥ってしまいまして。やむなく大学受験をして農学部に入り、今でいうバイオテクノロジーを学びました。大学院にも進みましたが、自分は研究者に向いていないと悩み始め、ここで2回目のスランプです。自分が本当にしたいことは何か考え、やっと医師になろうと思い、受験勉強をして何とか奈良県立医大に入りました。医学部では、「生物学的なプロセスだけを追う診療は機械的すぎる」と感じていたのですが、心と体を両方診る心療内科という分野を知って、「これだ」と思ったんですね。在学中から東大や九大の心療内科へ出かけて勉強させてもらいましたし、卒業後は阪大病院で心身症の外来を担当させてもらったり、近畿大学の東洋医学研究所で漢方の素養を学んだり。心の広い先生方との出会いに恵まれて、のびのびと学ぶことができました。

現在、クリニックにはどのような患者さんが来られていますか?

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心身症の外来を担当していたこともあり、開業当初は心身症、うつ病、神経症圏の患者さんが約3分の1ずつでしたが、近年ではうつ病の患者さんがかなり増え、半分以上になりました。特に、緊張の度合いが高い方、人に嫌われることに抵抗のある患者さんが多いように感じています。年齢層は中学生から80代まで、幅広いですよ。京都や神戸といった遠方からも、ご家族やご友人など患者さんからの紹介で受診されることが多いです。2014年に出版した『「嫌われるのが怖い!」がなくなる本』を読まれたり、インターネットで情報を見て受診される方も少しずついらっしゃいますね。

体から心へアプローチ、患者の「病気観」を引き出す

うつ病の患者さんが多いそうですが、治療はどのように進めるのですか?

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うつ病は心の病気ですが、体にも症状がかなり出てきます。だから最初は、肩こり、頭痛、消化器症状など、身体症状がないかどうかお聞きすることが多いです。患者さんも、「悩みや心の不調をいきなり話すことは抵抗があるけれど、体のことなら話しやすい」と言われます。そして診察を重ねて僕との人間関係ができてくると、悩みやストレスについて話してくれるようになります。身体症状から入って心の症状をすくい上げるのが、日本人の患者さんには合っているのかなと思います。それから、心の病気はその人自身の弱さに原因があるとされがちです。ただ、それではご自身ではどうしようもなくなってしまう。だから真偽のほどは突き詰めても仕方ない、病気が治ればそれで良いことですので、僕は患者さんのストレス、外的なところに要因と治療法を見出すようにしています。

患者さんと接する際に、心がけていることはありますか?

初診では長めに時間をかけてしっかり診て、その後は受診のたびに患者さんの心の変化を追いかけるようにしています。僕が用いているのはナラティヴアプローチ、つまり、患者さんが生み出す物語(ナラティヴ)として病気を捉え、対話していくという手法です。ですので、医療者は「どう聞くか」が大事になります。実際には、患者さんが回復に向かうまで、僕は何回か話を聞いてきただけ、薬もほとんど出していないということがよくあります。僕は具体的には何もしていませんが、患者さんが苦しみ悩む経過をずっと見ている、同行するということが大事なんですね。つまり、患者さんの物語の聞き手、「証人(witness)」として僕らがいるんです。

そうすると、患者さんに心を開いて話してもらうことが、より大事になりますね。

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はい、ですから1つは先ほどの白衣や椅子ように、患者さんが普通に話せるような空間を大切にしています。また、患者さんの「病気観」、つまり患者さんがご自身の病気をどう捉えているか、病気になった理由をどのように考えているのか、そこがとても重要だと思うんです。現代医学では、医師は専門家としての解釈を、患者さんに一方的に押し付けがちです。しかしそれでは、患者さんは話しにくいと思うので「なんでそうなったんだと思いますか」とよく聞きます。患者さんは「それは先生が考えることや」といいますが、「まぁまぁ一緒に考えようか」、「僕はこう考えるけどあなたはどう思うの」、と、患者さんの「病気観」を引き出せるように対話を重ねます。医師としての思いを込めた言葉はあまり役に立たず、逆にこちらが「そんなこと言ったっけ」と思うような言葉が患者さんに響いていることは、よくあるんです。

ナラティヴアプローチの普及をめざして

ご自身のストレスを解消する趣味はありますか?

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漫画家志望でしたから、絵はずっと描いてきました。妻も日本画を描きますので、以前には個展を開いたこともあります。また、漫画を描くときと同じように、ストーリーがどんどん湧いてくるので、最近では物語と挿絵を書いたりもしていますね。先日、孫の名前からとった「アマニャン」という鯉が、竜に成長していく話を仕上げたところです。以前は『心療内科医のメルヘン・セラピー』という物語だけの本を出版したこともあるんです。そんなこんなで、物語や絵を描くことはストレス発散になっていますね、肩は凝りますけど(笑)。

今後は、どのようなお仕事に力を入れていきたいとお考えですか?

ナラティヴアプローチを続けていきたいです。ナラティヴ・ベイスド・メディシンは、いわば「物語と対話に基づく医療」で、イギリスを中心に普及が進んでいます。僕も2007年にロンドンへ行って学んできたので、日本で広げていきたいと考えています。2016年にはナラティヴコミュニケーション研究所を立ち上げ、定期的な研究会を始めました。講義を聞いたり、患者さんのナラティヴを聞く手法について、ロールプレイングでトレーニングをしています。誰でも参加できますので、医師だけでなく、看護師、保健師、鍼灸師、医学部の学生、学生相談を担当している大学の先生、珍しいところでは商売をしている一般の方も来ています。お客さんと話をするときに、相手がどう思っているのかきちんと聞き出すナラティヴの手法が役に立つらしいんです。私自身も、患者さんの目線、「病気観」を大事にする治療をしていきたいですね。

最後に、読者へメッセージをお願いいたします。

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これからの医療では、患者さん自身が、ご自身の病気観をきちんと伝えられることも必要になってくると思います。医師から一方的に聞いたり、すべてをお任せにするだけではなく、「自分はこう思っている」ということを医師に伝えることができれば、医師も次の展開、次の治療を考えやすいんです。患者さんご自身の「病気観」を中心とした医療が、患者さんにとっても医療者にとっても重要になると考えています。

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