中本 佳代子 所長の独自取材記事
大阪漢方医学振興財団附属診療所
(大阪市中央区/長堀橋駅)
最終更新日:2026/05/15
大阪メトロ堺筋線、大阪メトロ長堀鶴見緑地線の長堀橋駅の5A出口から西へ徒歩約1分。ビルの地下1階に、40年以上の歴史を持つ「一般財団法人 大阪漢方医学振興財団附属診療所」はある。東洋医学を基本に西洋医学の知見も柔軟に取り入れ、心身の不調に幅広く対応する診療所だ。中本佳代子所長は、消化器内科で病理研究に携わった後、漢方の奥深さに魅了され、この道を志した。診療では伝統技術「四診」で体の微細なサインを読み解くほか、医食同源の考え方に基づく食事指導や運動指導を柱に、不調の根本解決をめざす。「親戚のおばちゃんのように何でも相談してほしい」と語る中本所長に話を聞いた。
(取材日2026年4月13日)
「医・食・動」をテーマに、包括的な診療を実践
診療所の特徴について教えてください。

当診療所は、漢方医学の啓発を行う財団法人が運営し、誕生から40年以上の歴史があります。開院当初の理事長は「医療には、西洋医学だけでなく、生活における体の在り方を説く東洋医学との融合が不可欠だ」という強い信念を持っていました。その志は現在も受け継がれ、漢方を中心とした東洋医学を軸に、西洋医学の知見も柔軟に取り入れることで、一人ひとりの体質や生活に寄り添った診療を行っています。対応範囲は、内科、心療内科、皮膚科、整形外科的症状から、検査で異常が見つかりにくい不定愁訴まで多岐にわたります。専門性の高い治療が必要な場合は適切な医療機関と役割を分担。専門治療をより健やかな状態で継続できるよう、身体の土台を整えるお手伝いをしています。
診療ポリシーを聞かせてください。
東洋医学の診療では、医療だけではなく、食事や体の動かし方、思想や哲学、自然の摂理まで一体化して捉えることを基本としています。例えば、天体の動きや潮の満ち引き、「六淫」と呼ばれる、風・湿・暑・熱・燥・寒といった季節の環境因子が心身にどう影響するかも考えに入れます。こうした自然の変化と調和し、いかに心地良い状態を保つか。それを考えるのが養生の本質であるという信念のもと、当診療所では一人ひとりに適切な食事や運動をアドバイスすることを長年追求してきました。現在は、東洋医学的視点の医療、医食同源の考え方を基本とする食事指導、そして生体機能を高めるための運動指導を、診療の三本柱に据えています。
診療はどのように進めるのですか?

診療は、患者さんが中待合室でお待ちになっている様子を聞き観察するところから始まっています。診察室では、東洋医学の基本である「四診」を行います。顔色や舌の状態を観察する望診、声の調子や呼吸の状態などに耳を傾ける聞診、悩みを詳しく伺う問診、そして実際に脈やおなかに触れて状態を把握する切診です。四診から得た情報を統合し、五臓六腑や気血水のバランスを把握することで、症状の裏にある根本的な原因をひも解いていきます。ご本人の言葉だけでなく、身体そのものが物語るサインを丁寧に拾い上げ、一人ひとりと深く向き合えることこそが、東洋医学の真髄であり、素晴らしい点だと感じています。
四診をもとに、論理的に症状の原因を読み解く
患者さんと向き合う際に大切にされていることは?

私自身が真っ白な状態になり、五感を研ぎ澄ませて、患者さんの身体が発している微細なサインをどれだけ引き出せるかを大切にしています。問診も重要ですが、言葉として語られる症状がすべてではありません。言い忘れてしまったことや、ご本人にとっては取るに足らないと思っていた小さな違和感が、実は治療の重要な鍵になることもあります。それらを丁寧に拾い上げ、なぜその症状が現れたのか、次はどこに影響が出そうかといったことを論理的に導き出します。これを東洋医学では「弁証論治」と呼びます。症状の背景にある身体の物語を読み解き、バランスを根本から整えていくことが、私たちの役割だと考えています。
治療で重視されていることは何でしょうか?
患者さん自身の気づきですね。特に心の状態が関与して気の流れが滞る「気滞」の場合、原因がわからない不安が症状を悪化させていることも少なくありません。丁寧に原因をひも解き、患者さんが安心されることで、自律的な調整ができるようになることもあるんですよ。具体的なアプローチとしては、漢方薬の処方を行っています。当診療所では、その方の症状や体質に合わせて生薬を組み合わせる「煎じ薬」もご用意しています。弁証論治で導き出した診断に基づき、「何を何グラム入れるか」を細かく調整するオーダーメイドの煎じ薬の力を、ぜひ一度体験していただきたいですね。
食事や運動の指導にも力を入れているそうですね。

「体は食べたものでできている」という考えのもと、当診療所では薬膳栄養学の考え方を大切にしています。これは東洋医学の医食同源の知恵に、現代の栄養学をかけ合わせたものです。また、東洋医学では女性は7、男性は8の倍数の年齢で体に変化が訪れると言われます。節目ごとの変化を理解し、その時々に必要な五臓六腑・気血水の整え方を患者さんの生活に合わせて一緒に考えていきます。加齢に抗うのではなく寄り添うウェルビーイングな在り方を大切にしています。
運動についても教えてください。
東洋医学では、身体を動かすエネルギーには、親から受け継いだ生命の種火である「先天の精」と、食事から補う「後天の精」があると考えられています。当診療所では、この2つのエネルギーを充実させ、全身に「気」と「血」を巡らせるための土台づくりとして、独自の体操をお伝えしています。この体操の特徴は「揺らぎ・振動・らせん運動」にあります。まずは寝た状態で重力から体を解放し、足首から順に優しく動かしていきます。それにより種火が宿る「丹田」に活力を蓄え、胃腸の働きを活性化させることができるのです。これが結果として全身の健やかな循環へとつながっていくと考えています。現在は当院での指導に加え、生涯学習施設などでも広くお教えしています。
症状の奥にあるものを突き詰める、裏(り)を観る診療
医学部卒業後は内科を専門に選ばれたと聞きました。

当時から「心と体はつながっている」と考え、当初は心療内科を希望していました。しかし、まだ新しい分野だったこともあり、まずは身体を全般的に診る内科の道へ。将来の開業を見据え、さまざまな不調に対応できるゼネラリストをめざしたのです。内科では消化器内科を専攻し、内視鏡診療に従事しました。身体の中を診るうちに「組織の状態や病理的背景をさらに深く知りたい」という探究心が湧き、恩師の紹介で胃がん診療の前線にある医療機関へ。そこでは胃がんを中心とした高度な病理研究に没頭し、医学的知見を深める貴重な経験を積むことができました。この時の「本質を突き詰めたい」という想いが、今の診療にもつながっています。
漢方との出合いはその頃だそうですね。
きっかけは、先輩から「漢方の診療所で内科の医師を探している」と誘われたことでした。知識が及ばない領域ゆえに一度はお断りしたのですが、内科の医師としての検査や早期がんの発見が中心とのことだったので、非常勤として勤め始めました。いざ現場に入ると、内視鏡診療の時と同様に「その奥にあるもの」を知りたい探究心が抑えきれなくなりました(笑)。調べれば調べるほど「なぜ?」が増え、気づけばその奥深さに惹き込まれていたのです。ちょうど3番目の子を授かり、大学病院でのハードな勤務に限界を感じていた時期でもありました。漢方との出合いは、探究心を新たな方向へ導いてくれただけでなく、仕事の基盤をより患者さんに近い臨床の場へと移す、人生の大きな転機となりました。
今後の展望と、読者へのメッセージをお願いします。

今後の展望として、まずは東洋医学の本質を次世代へ伝承することに力を注ぎたいと考えています。当診療所は専門の医師を育てる教育にも力を入れており、私自身も指導医として、一人ひとりと深く向き合う伝統的な四診の技術を後進に伝えていく使命を感じています。もう一つは、患者さんへの伝承。治療して終わりではなく、ご自身で養生の知恵を身につけ、ご家族や友人へ健やかな輪を広げていただくお手伝いができれば幸いです。私自身は、患者さんにとって友人や母親、親戚のおばちゃんのように気軽に話せる存在でありたいと思っています。病院に行くほどではないかもと迷うような小さな悩みでも、ぜひ一度ご相談ください。

