田中 崇洋 院長の独自取材記事
みなとクリニック
(大阪市北区/天神橋筋六丁目駅)
最終更新日:2023/01/26
1993年に前院長の湊宏司先生が開院し、2020年に田中崇洋(たかひろ)先生が院長を引き継いで全面リニューアルした「みなとクリニック」。大阪市北区にあって、緑が多く静かな環境の中にある同院は、アクアブルーとイエローグリーンの院内家具が爽やかで明るい印象を与えるクリニックだ。院長を務める田中先生は、外来診療と訪問診療の2つを軸にした診療を行い、地域における一次救急病院的な役割を果たしつつ、訪問診療では直接来院することが難しい高齢者をはじめ、終末期を自宅で過ごしたいと願うがん患者のサポートに力を入れている。かつて京都の病院へ大阪から通勤していたほど、大阪が好きだと語る田中先生。院長就任までのいきさつや同院の診療ポリシーなどについて詳しく話を聞いた。
(取材日2022年12月13日)
外来診療と訪問診療の2つを軸に、幅広い主訴に対応
もともと大阪に魅力を感じられていたそうですね。
そうなんです。福井県で研修医をしていた頃から、休日に片道2時間かけて訪れるくらい好きでした。こちらへ来るまで三菱京都病院の消化器外科に7年間勤めていたのですが、京都に住んでいたのは最初の5年ほどで、残りの2年はもう大阪の中央区に引っ越してそこから通っていたんですよ。大阪の活気や人情にすっかり魅了されました。ただ、京都への通勤にはやはり時間がかかってしまうのと、キャリアの上で次のステップを考えていた頃でしたので、前院長である湊先生が後継者を探しているという情報を耳にしたときに話だけでも聞きに行ってみようと思い、結果としてそれが転機となりました。湊先生は消化器外科のご出身だったということもあり、意気投合したんです。
外来はどういった患者さんが多く受診されていますか。
1993年の開院当初から通ってくださっているご高齢の方が非常に多いですね。高血圧や糖尿病などの慢性疾患があるものの、専門の医師に継続して診てもらうほどではない症状の患者さんが多いです。ただ、私が院長を継承後は、発熱の外来やインターネットで検索して来られる若い患者さんも増え、最近では働き世代の方も多くいらっしゃるようになりました。外科は私が、内科は副院長が中心となって担当していますので、幅広い主訴に対応できますし、外傷については小児の治療も行っていますので、お子さんからお年寄りまで世代を問わず受診していただけます。
訪問診療にも注力されていると聞きました。
往診や訪問診療はもともと湊先生が外来の合間に始められたのですが、先生のご年齢とともにお断りせざるを得ない状況が続いていました。それを2020年から私のほうで積極的に受けているうちに、当院における訪問診療のウエートが高くなり、現在は外来同様に訪問診療にも力を入れて取り組んでいます。訪問診療ではがん末期の方の緩和ケアにも数多くあたっています。
子どもの頃に志した医師の道へ
なぜ医師になろうと思われたのですか。
私が生まれたばかりの頃、3つ年上の兄に小児がんが見つかったんです。闘病の末、私が4歳になる直前に兄は亡くなりましたが、病気が発覚してからの両親の戸惑いは大変なもので、「うちの家族に医療従事者がいたらな」と、後々よく口にしては、何でも相談できる医師が身近にいなかったことを残念がっていました。私自身は親から医学部へ行くように言われたことはありませんでしたが、小学3年生ぐらいのときに受けた知能検査のスコアが良かったらしく、担任の先生から勉強することを勧められたんですね。それで地元の進学校にも合格できるだろうと言われたときに、両親の言葉が脳裏をよぎり、それなら頑張って医師になろう、医師になってがんの研究をしようと思ったんです。
大学は九州大学の医学部へ進まれたのですね。
実は順調だったのは中学受験までで、その後は紆余曲折ありました。中学生のときに友人に誘われてギターを始めたのですが、そこで自分には音楽の才能があると思ってしまって(笑)、作曲もしましたし、高校ではバンドを結成して「自分はもう音楽の道で生きていくんだ」みたいな感じになったんです。それこそ高3の夏とか秋に大会で準優勝していましたから、医学部の受験なんて夢のまた夢のような状況で高校を卒業したんです。でも、卒業後にそのバンドが解散してしまったのを機に次第に考えが変わっていき、再度医学部をめざそうと勉強をし始めました。ただ、ギターで手先をよく使っていましたから、楽器の習得に比較的近い、指先の技術が必要な外科系に進もうと決めたことは以前と考えが変わった点でした。最終的に消化器外科を選んだのは、研修医時代に消化器系の手術を数多く扱ったことがきっかけです。
院内に飾られている絵は先生が描いたものですか。
はい。手術のイメージを得るために、CTを見ながら立体的に書き起こした血管の絵なんです。膵臓・膵頭十二指腸切除術という手術なのですが、膵臓の周りには血管や複数の臓器が隣接しているので消化器外科の手術の中でも難しい、いろいろな手術の集大成のようなものなんです。振り返ると、研修医にもどんどん手術を経験させてくれるような病院で研鑽を積ませていただいて、そこでの経験が土台にあったので、京都の病院に移ったときにも「これだけ手術経験があるのなら」と、どんどん症例をあててくれました。それで医学部を卒業して6年目くらいの時点で、他の病院だとおそらく10年以上たたなければ経験できないような手術を行うこともでき、早いうちに数多くの経験をさせてもらったことが次のステップへ踏み出してみようという気持ちにつながりました。
良い信頼関係を築き、医学的根拠に基づく医療の提供を
診療において重視していることはありますか。
患者さんとの信頼関係を大切にしています。訪問診療においては、終末期の患者さんとは特に短期間に信頼関係を築く必要がありますから、その方がどのようなキャラクターなのか、「こう説明したら、どう捉えられるだろう」と常に考えながら信頼を得られるように努めています。医師が善意で言ったことが患者さんを傷つける「ドクターハラスメント」にならないよう特に注意していますね。診察の最後には、患者さんが医師に聞きたいことを聞けなかったということがないように、「何か気になることはありますか」と尋ねるようにしています。十分に時間を取れないこともあって心苦しいですが、できる限りの配慮を心がけています。また当院のポリシーとして、今現在ある健康上の問題や病気の予防に対して医学的根拠に基づいた診療を行うようにしています。エビデンス(科学的根拠)のない診療はしませんので、ご安心ください。
外来診療と訪問診療を両立させるのは難しくありませんか。
もちろん私だけでこなしているわけではありません。副院長はもともと緩和医療に長く携わっていた方ですし、内科の患者さんのことで迷ったときには院内で相談できるのでたいへん心強い存在です。また、土日や夜間の対応について分院の先生とも協力して対応する体制を整えていますのでご安心いただければと思います。ほかのスタッフに関しても、訪問看護の経験を有する看護師さんや在宅医療に長けた事務員さん、頼もしいキャリアを有する事務長などみんなで一丸となって当院を支えてくれていますので、スタッフには非常に恵まれているなと感じています。
最後に、今後の展望と読者へのメッセージをお願いします。
当院の特徴は、外来診療と訪問診療の行き来が1つの医院でできるということです。訪問診療を導入後にある程度状態が回復された方については外来診療に切り替えることができますし、訪問診療の方が、エックス線検査などを受けるためだけに別の病院をわざわざ受診するといった面倒もないため、ご本人とご家族の負担軽減につながるかと思います。この地域において“訪問診療・在宅緩和ケアといえば「みなとクリニック」”といわれる存在になれるよう力を尽くし、プライマリケアのできる医院として地域に貢献していきたいと思っています。お若い方から通院が難しいご高齢の方、重病の患者さんまで責任をもって対応させていただきますので、健康に不安を感じたときには何でもご相談ください。