奥 知久 院長の独自取材記事
おく内科・在宅クリニック
(大阪市旭区/清水駅)
最終更新日:2026/05/15
大阪メトロ今里線清水駅から徒歩約4分の場所で、開院以来、地域の人々の健康を守り続けている「おく内科・在宅クリニック」。2020年に父から院長職を引き継いだ奥知久先生は、病院の総合診療科で家庭医療、在宅医療を中心にキャリアを積んだ専門家だ。医療だけでなく地域づくりなどにも力を注ぐ奥院長に、診療や地域への想いについて話を聞いた。
(取材日2026年4月7日)
「病気や障害とどう暮らすか」に寄り添う診療所
御院のこれまでの歩みを教えてください。

父が「奥内科・循環器科」として開業して以来、30年以上にわたって地域に根差した診療を続けてきました。父は、口を開けば「正しい医療をする」と言うような昔ながらの頑固で怖い医師だったのですが、根はとても心優しく、真面目に地域医療に取り組んできました。継承のきっかけは、父が体調を崩した時に診療を担当したことです。患者さんや他の医師から父がとても大切な仕事をしてきたことを聞かされ、地元の方からやめないでほしいという声もいただき、ここを引き継ぐことに決めました。その後、2023年に現在の名称に変更し、現在に至ります。
医学部卒業後はどのようなご経験を積まれましたか?
医師の就職フェアで「2年間で使える医者になるためには救急車2000台分を診ればいい」と言われたため、初期研修の2年間は2日ごとに当直をして、ひたすら救急の患者さんを担当しました。夢にまで救急車が出てくるほどでしたが、医師として、自分の目の前で倒れた人や困っている人に何もできないことは避けたいという気持ちに後押しされましたね。卒業から3年目に「もっと人を診る医療をしなければ」と思い、患者さんが病気になった理由を重視して診療している諏訪中央病院で働くことに。諏訪中央病院は昔から地域医療に力を入れ、院内での診療に加えて在宅医療も実践するなど、住民に寄り添う医療を提供していました。僕は、診療科の枠に縛られずに患者さんを全人的に診ることを大切にする家庭医療の中でも、特に在宅医療に力を入れて研鑽を積みました。
御院の診療理念を教えてください。

僕の診療ミッションは、地域住民の「ぼちぼち」を支えること。病気やケガをしても、障害があっても、人生の残り時間が少ない状況でも、なんとか「ぼちぼち」過ごして、「この人生、面白かったな」と思えるようにサポートすることが使命だと思っています。在宅医療や医院での診療は、生活の困り事にどう適応していくかが課題です。「病気や障害がある中で、どう暮らしていくのか」が患者さんにとって一番大切なことですから。そのため、当院では家庭医療や在宅医療を専門とする僕と腎臓内科医である辻本康副院長、心療内科医であり緩和ケアの専門家でもある山根朗先生の3人の医師を中心に、外来診療と訪問診療に幅広く対応しています。また、生活面をサポートするためのコミュニケーションやサポートするためのネットワークづくりも大切にしています。
今できる一番良い時間の過ごし方を考える訪問診療
力を入れている訪問診療について教えてください。

当院の訪問診療の役割は、「最期まで家で幸せに過ごすこと」を望む人の健康を支えることです。病院との連携を重視しているため、病院での治療と並行して療養に関わり、周りのサポート体制を整えて困った時に対応したり相談に乗ったりすることも可能です。病気が進行してさまざまな処置が必要になった場合も、しっかりと対応できるよう体制を整えています。当院の訪問診療の特徴は、医師が診療に集中できるようドライバーとアシスタントの3人体制を取っていることと、看護師がコーディネーターとして全体の調整役を務めていること。病気や薬のことだけでなく、サポート体制や心理面、生活面のことまで配慮してチームを編成しています。
訪問診療を始めたきっかけは何ですか?
当院で訪問診療を始めるきっかけになったのは、大阪の新型コロナウイルス感染症の死亡率がワースト1位になった時に、「何とかしなければ」と仲間と一緒に新型コロナウイルスの往診チームをつくったことです。ちょうど父から医院を継承した時期だったのですが、当時は訪問診療に対応できる人員体制ではなかったため、外の人に助けを借りて対応しました。感染症の流行が少し落ち着いてきた頃、継続的に地域で診療していくなら終末期も含めた訪問診療に対応したいと思い、当院でも始めることにしました。
訪問診療において大切にしている考え方はありますか?

今できる一番良い時間の過ごし方を考えることを大切にしています。当院の訪問診療はターミナルケアが強みでもありますが、本当はもう少し元気なうちから伴走したいと思っているんです。その時期は、自由に人生を謳歌できる、とても貴重な時間ですから。治療ももちろん大切ですが、限られた時間なのであれば、患者さんやご家族にとって良い時間を過ごせるように応援したいです。例えば、春ならお花見に行ける機会をつくるなど、チームの全員が「患者さんの喜びのために一肌脱ごうか」という熱い想いを持っていますね。
スタッフとの連携で工夫していることはありますか?
オンラインの医療用SNSサービスを使って他事業所と連携したり、毎月全員でご飯を食べながらミーティングをしたりしています。また、亡くなった方のことを振り返って学び、その方の人生を受け取って次につなげるメモリアルカンファレンスを全例で実施しているのですが、時には他事業所と一緒に行い、ドライバーまで参加してくれることもありますね。この地域が安心して最後まで暮らせる場所になるためには、緩和ケアの専門家と僕のような家庭医療やプライマリケアの専門家が連携して常に知識や技術を高め合うことが必要です。そこで、在宅医療に真剣に取り組む地域の医療機関や事業所が集まる勉強会を開催しているのですが、こういった活動にもスタッフが自発的に参加してくれています。皆モチベーションが高いんですよ。
大阪市北東部を最期まで安心して暮らせるエリアに
外来診療について教えてください。

総合診療、緩和ケア、腎臓内科、心療内科の専門家がそろっていますから、基本的には「何でもどうぞ」というスタンスです。外来診療では、先進の知見と患者さんの自分らしい生活を応援することの融合が大切だと感じています。そのため、一人ひとりしっかり時間を取ってお話を伺うことを重視しています。重い病気になり、「これからどうなるんだろう」と不安に感じている方は、ぜひ相談してください。元気な人をもっと元気にするために手を尽くすことも僕の得意分野の一つですし、診断がよくわからないケースも総合診療を行う医師としてしっかり診たいと思っています。患者層としては地域のお年寄りが多いですが、お子さんが来ることもありますし、大通り沿いで駐車場もあるため、仕事帰りに寄る方もいらっしゃいます。
患者さんとのコミュニケーションで大切にしていることはありますか?
僕は家庭医療の専門家ということもあり、相手の物語を大切にすることが信条であり、専門技術でもあります。まだ若手の勤務医だった頃、末期がんの患者さんに「困ったことはないですか?痛いところはないですか?」と、聞いて怒られたことがあります。「本当の専門家は、自分のフィールドではなくて相手のフィールドで戦うものですよ」という患者さんの言葉が、とても心に残っていて。だから僕は、医者としてできることを探すコミュニケーションの前に、人として、その方がどう生きて、どう暮らしているのかの話からスタートしたいのです。そういう、その人の物語から出発するコミュニケーションを大切にしています。
最後に、今後の展望と読者へのメッセージをお願いします。

僕の目標は、大阪市北東部地域を日本一安心して最期まで家で暮らせるエリアにすることです。診療所に来ない人も含めて、最後まで安心してこの地域で過ごせるよう、地域全体が健康になるための活動や地域づくりをしたいと思っています。例えば、地域の公民館やお寺に集まる地元の人たちと健康づくりについて話し合ったり体操をしたり、時には「MEIDO(冥土)喫茶」と題して人生の最期の迎え方を選んでもらい、これからの生き方について語り合う取り組みもしています。こういう活動を日本各地で行いたいと思っていたところ、人生の綾で医院を継承することになりました。結果として生まれ故郷に貢献できるとしたら、それは幸せなことだと思っています。健康や自分らしさは誰かが与えてくれるものではなく、自分が決めるもの。そのお役に立てるよう、サポートさせていただきます。

