宇野 研一郎 副院長の独自取材記事
宇野胃腸内科脳神経内科
(松阪市/松ヶ崎駅)
最終更新日:2025/08/25

近鉄山田線・松ヶ崎駅から北へ徒歩15分ほど、大型ショッピングモールが立つ国道166号から少し西へ入った場所に「宇野胃腸内科脳神経内科」はある。1992年に宇野伸郎理事長が開業して以来、外来診療と訪問診療を軸に地域密着の医療を続けてきた。2022年4月には、ALS(筋萎縮性側索硬化症)やパーキンソン病治療の経験が豊富な宇野研一郎副院長が就任。現在は神経難病に特化した訪問診療を提供し、歩行機能の改善をめざす医療用ロボットスーツも導入。神経難病に精通した理学療法士や看護師らとともに、チームで患者を支えている。親しみやすい笑顔で語る研一郎副院長に、三重県内でも珍しい神経難病の診療について詳しく聞いた。
(取材日2025年7月31日)
神経難病に特化したチーム医療で患者を支えたい
先生が着任されてから診療科目に脳神経内科が加わったそうですね。

脳神経内科が加わり、より多くの患者さんを診ることができるようになりました。2021年の6月から訪問診療を担当し始め、2022年の4月に副院長に就任し、脳神経内科と内科の患者さんを診させてもらっています。私はこれまでもALS(筋萎縮性側索硬化症)やパーキンソン病など神経難病を抱えた方たちの治療に携わってきましたので、そういった方たちの訪問診療も担当しています。外来で来てくれる患者さんの主訴は、頭痛、しびれ、力が入らない、物忘れなどですね。初診の場合だと、どういった疾患か見極める必要があり、診察はかなり時間がかかるため予約制としています。今まで勤務していた病院で診ていた患者さんも来てくれています。
今後、注力していきたい治療はありますか?
神経難病用のロボットスーツによるリハビリテーションです。神経難病=「諦めるしかない」というイメージを持たれがちですが、その固定観念を払拭し、少しでも希望を感じていただきたいという思いから導入しました。このロボットスーツは、両脚に装着するタイプです。脳から筋肉へ送られる微弱な信号を感知し、その動きに合わせて関節や筋肉をサポート。歩行や立ち上がりといった基本動作を支援します。繰り返しリハビリをすることで、その動作の感覚が脳に伝わり、体の使い方を学ぶきっかけにもなるのです。患者さんの「動きたい」という気持ちを大切にし、生活の質を少しでも高めるお手伝いができればと考えています。
先生が脳神経内科を専門に選んだ理由は何だったのでしょうか?

実は、最初は脳神経内科に進もうとは全然考えていませんでした。大学を卒業後に勤務した沖縄の病院では、救急も扱う総合診療部門の医師として配属され、そのダイナミックな治療や、救急搬送されてきた方が何の病気か考えていくプロセスに興味を持ちました。次に地域医療を経験するため配属されたのが、静岡県牧之原市の病院で、沖縄の病院にはなかった脳神経内科の診療を初めて経験させてもらったのです。その病院には大学病院から来ていた先生がいて、ある日搬送されてきた患者さんの目を診て、体をコンコンと触診する身体所見だけで疾患を言い当てたのです。脳神経内科の疾患は通常、MRIやCTを使って病気を突き止めるものなのですが、その先生の颯爽と来てすぐに疾患を言い当てる姿を見て、私もこういうかっこいい医師になりたいと思い、脳神経内科を専門にしようと決めました。
疾患に悩む患者とその家族のコミュニティーをめざして
新しい外来リハビリ棟をつくられたそうですね。

新設された外来リハビリ棟では、リハビリだけでなく、患者さんやそのご家族がつながるコミュニティーづくりにも力を入れています。月に1度開催される「認知症カフェ」では、日本看護協会認知症看護認定看護師や公認心理師、作業療法士、理学療法士とゆっくり話せます。地元の中学生ボランティアも参加しており、認知症の方も自然と笑顔になる温かな時間です。認知症の患者さんやご家族、地域の方々が集まり、30人ほどで交流を深めています。また、パーキンソン病など神経難病の患者さんのご家族を対象とした「家族会」も定期的に開催しています。同じ疾患を持つ家族同士が思いを共有することで、医療だけでは支えきれない心の部分にも寄り添えるのではないでしょうか。
この医院の強みはどんなところだと思われますか?
やはり、脳神経内科で扱う疾患に特化した訪問診療のノウハウを持っている医師と、理学療法士や介護福祉士、ケアマネジャーなど、多職種のスタッフが協働している点です。当法人グループは、このエリアでは数少ない看護小規模多機能型居宅介護事業所のほかに、訪問看護ステーション、居宅介護支援事業所、デイサービスなど、さまざまな施設を運営し、医院と連携しています。神経難病に関する専門知識を持つスタッフがシームレスに支援することで、初診から治療、リハビリ、在宅医療まで一貫したサポートが可能です。症状が安定しているときも、変化が生じたときも、安心して頼っていただける体制を整えています。
まさにチームで神経難病の方を支えているのですね。

神経難病の治療や介護は、医師一人だけでは成り立ちません。だからこそ、多職種のスタッフが関わり、チーム医療として患者さんを支えることが大切だと考えています。現在、当グループでは、看護師、理学療法士、作業療法士、言語聴覚士、ケアマネジャー、介護福祉士、社会福祉士、管理栄養士が協働し、それぞれの専門性を生かしたサポートを行っています。私が診療できる時間には限りがありますが、リハビリスタッフが動作訓練をしながら患者さんの声を伺い、不安や疑問に対応してくれています。また、当グループでは毎朝勉強会を開き、知識や技術の向上にも努めています。患者さんやご家族には、安心して気軽に相談していただければ幸いです。
患者と家族の気持ちに寄り添い信頼関係を築いていく
患者さんと接する時には、どんなことを心がけていますか?

患者さんとその家族を含めて、どんな想いを抱えどう感じているかを常に考えています。それと併せて、私の考えを押しつけることがないように気をつけています。「患者さんの話をしっかり聞く」というのは、医療の原点。その原点を見失うことなく治療をしていきたいです。患者さんの声に耳を傾け、たくさん話しているうちに、患者さんのこともわかるようになります。そうしているうちに自然と信頼関係ができていく。その結果として「先生で良かった」という言葉が出てくるわけで、この言葉は医師にとって一番の褒め言葉だと思っています。私は患者さんへの診療を通して、人とふれあうことの温かみや、医師という仕事のやりがいを感じます。
神経疾患の早期発見や予防のためのアドバイスをいただけますか?
患者さんご自身が症状を認めて受診するケースが少ないのが、脳神経内科疾患の特徴です。ですので、周りの人が病気の疑いに気づいたら受診を勧めてあげることが非常に大切です。例えば、手が震えていたとしても、その人が自発的に受診することは少ないので、家族や周りの人が受診を促してあげてほしいです。特に独居の方は注意が必要で、もし会いに行った時に、しびれを訴えたり、歩き方がおかしかったり、よくむせたりという症状があったら、医療機関へ連れていってあげてください。あと、認知症の場合は、患者さんが一人で受診しても解決につながらないことが多いので、必ず誰かが付き添ってあげるようにしてください。
最後に今後の目標をお聞かせください。

今後の目標は、神経難病に特化した在宅医療のモデルケースとなることです。当グループでは、多職種が協働し、神経難病の患者さんをシームレスに支援していることが大きな特徴です。また、神経難病に特化したクリニックとして、2ヵ月に1回のペースで神経難病に特化した多職種研究会を開催しています。これまで、さまざまな講師を招き、生涯福祉や訪問看護における協働の在り方について話していただきました。先日はインフルエンサーの方にもお越しいただき、神経難病に関する取り組みを共有しました。こうした活動が三重県の医療の活性化につながればと考えています。今後も地域医療への貢献を続けていきたいと考えています。