伊藤 志門 院長の独自取材記事
アガペクリニック
(日進市/日進駅)
最終更新日:2025/10/17

日進市折戸交差点近くに立つ「アガペクリニック」。1992年の開業以来、地域に根差してきたクリニックで17床の入院施設も持つ。伊藤志門院長は2015年に先代院長である父から同クリニックを引き継ぎ、元胸部外科医であるが内科疾患を中心に幅広く診療。現在は非常勤医師も増え、神経内科や泌尿器科、整形外科などにも対応する。他院へ行かずともワンストップで専門的な診療が受けられることがメリットだ。「高齢になればいろいろな症状を併せ持つ方が多くなります。自分が患者の立場であれば『ついでに診てほしい』と思うので」と穏やかな笑みを見せる伊藤院長。在宅医療にも積極的で、「住み慣れた地元で最期まで暮らせるよう寄り添いたい」と話す。「心を大事にした診療を」との言葉が自然に出てくる、人間味あふれるドクターだ。
(取材日2025年9月11日)
困った人を誰でも受け入れる場として
先生が医師をめざされたのは先代院長であるお父さまの影響でしょうか?

そうですね、影響は大きかったと思います。弁護士の仕事に興味を持ったこともありましたが、法律は人間がつくった仕組み。自然の営みには人間業じゃないと思えるところがあり、父と同じクリスチャンとして「神様のつくったもの」と向き合う医学の道へ進みました。大学病院や愛知県がんセンターでの勤務を経て2015年当院の院長に就任。父は80代になりましたが、私の代わりに往診に行ってくれることもあります。長年診てきた父が伺うことで、喜ばれる高齢の患者さんもいらっしゃいますね。
患者さんについて教えてください。
父の代からの患者さんも多く、高齢の方が増えました。私と同年代の方では生活習慣病の方が多く、今後ホームドクターとして病気の予防にも力を入れていきたいところです。また、2階の病棟には、急性期治療を終えて在宅復帰までのリハビリテーション期間の方や、在宅医療を受けていたけれど入院が必要になった方、また障害のある方や心が疲れた方などさまざまな方を対象としています。「急性期」や「地域包括ケア」などの病棟と違い、「困った、どうしよう」という方々に柔軟に対応し社会的入院ができることが有床クリニックの良さですね。今は減少傾向にありますが大切な場であり、自分では、病院や地域、人とつながる役目だと思っています。
院内は広くきれいで絵画作品も多く、ほっとしますね。

絵は父が好きで集めたもので、祖母が趣味で描いた油絵や他にも患者さんから頂いた絵や写真も飾っています。当院の院名にある「アガペ」はギリシャ語で神の愛の意味。父は、体や心が弱った患者さんたちへ向けて、院内で定期的にイベントを開いていました。そんな理念を引き継ぎ、今も年末には、亡くなった患者さんのご家族を招待してピアノコンサートを催しています。会場は、以前行っていたロビーでは手狭になったのでお隣の教会です。お母さまをアガペで看取った方がピアノコンサートで演奏してくれています。また、これも患者さんつながりなのですが、シャンソン歌手とアコーディオン奏者のお二人がロビーコンサートと病棟慰問をしてくださることも。父が築いてきた患者さんや地域とのつながりを大事にしていきたいと思います。
在宅医療にも注力し最期まで寄り添う
診療ではどのようなことを大切にされていますか?

患者さん本人の意志を尊重することです。例えば禁煙治療でも本人にその気がないのであれば無理に治療を進めることはありません。患者さんそれぞれに家庭環境や生活スタイル、こだわりが違いますので、この方にはどういう方法が良いだろうかと考えていくことは、パズルを解いていくようなやりがいがあります。これは在宅医療でも同じですね。ご自宅に訪問することでその方のことがより理解でき、おうちで長く過ごすにはどうしたらいいかといろいろ考えます。場合によっては通院ができるうちから訪問看護師と連携することもありますね。病気の診療は診察、検査、治療、リハビリテーションと流れが決まっていますが、人生の最期まで寄り添うというのは、医療だけでなく介護や社会的なこと、哲学、人間関係などまで含めた、医師の総合力が問われると思います。
注力されている地域医療について教えてください。
足腰が弱くなり自力で通院ができなくなった方や他院からの紹介の方など多くのニーズを頂き、看取りにも対応しています。一人では対応しきれなくなってきたので数年前から女性の医師が加わるようになりました。そのおかげでさまざまな方に対応できています。今の時代、健康診断を受け、何か見つかればクリニックや病院で再検査、手術、抗がん剤治療、リハビリテーションと分業のように複数の医療機関を受診する流れが当然になっています。でも患者さんにしてみれば「私の主治医は誰?」と困ってしまいますよね。多くの患者さんは同じ先生に最初から最期まで診てもらいたいと感じられている気がします。自宅での看取りは大変ですが、人生の最期をご自宅で過ごすことも選択肢に入れていただければと思います。当院は、患者さん、ご家族の思いに最期まで寄り添えるクリニックでありたいと願っています。
在宅医療の現場で心がけられていることは?

末期がんの患者さんは余命1~2ヵ月のことが多いです。ですから病気の話ではなく天気や趣味の話、「昨日、野球見ました?」などたわいのない話をするようにしています。慢性疾患や認知症の患者さんの場合はご家族と話すことも多いですね。ご家族は「介護しなきゃ」「きちんとしなきゃ」と考えがちですが、そんなに構えなくていいのです。病人がいても普通に日常生活を送ってほしい。そのため、できるだけご家族の負担が少なくなるようにと心がけています。在宅医療はケアマネジャーさん、訪問看護ステーション、地域包括支援センターなどの行政、薬局などと密接に協力し合うことが非常に大切。現場では訪問看護ステーションが主役になることが多く、当院は看護師さんが動きやすいようサポートするという立ち位置でいます。
地元に根差したホームドクターとしての使命
スタッフの皆さんについても教えてください。

スタッフは当院の自慢です。いい人ばかりで患者さんからよく褒められます。「先生の指導がいいんだね」「先生の背中を見ている」と言われますが指導していませんし、誰も私の背中など見ていません(笑)。皆、自分で考えて自分がすべきことをしっかりやっているということなのでしょう。仕事のことだけでなく、待合室で、あるいは処置室で患者さんの様子を見て声をかける、さりげなく手助けする、そういうことを自発的にしてくれているのだと思います。当院にとって患者さんや地域はもちろん大事ですが、スタッフが大事な存在。スタッフが働きやすい職場、楽しく明るい人間関係がある職場でありたいと思います。
改めて地域におけるこちらのクリニックの役割とは?
まずはホームドクターとして最初の診察をする役割があります。より高度で専門的な診療が必要となれば、専門クリニック、また近隣の大学病院や救急病院に紹介します。めまいや圧迫骨折など、救急病院での治療が終わるとすぐ帰されてしまうことがほとんどですが、そうなると家での生活に支障が出る方がいらっしゃいます。しかし当院であれば体力が回復するまで入院していただけます。また月に数回ではありますが、当院では呼吸器内科、泌尿器科、循環器内科、整形外科、神経内科などの医師が外来を担当し、ワンストップでさまざまな治療を受けることができます。高齢の方は複数の疾患を持つことが多く、もし私だったら「ついでに他の所も診てほしい」と思いますので、体制を整えました。
今後についてお聞かせください。

私もこの地で子育てをしていることもあり、年々地域の患者さん、つまり日進市や隣の東郷町から来られる患者さんに対する思いが深くなったように思います。「患者さんに最期まで寄り添える医療機関」という理念のもと、診療はもちろん、施設への入所や暮らしの問題にも、迅速に適切に、医療・介護のネットワークを生かして取り組み、お役に立つよう頑張りたいです。今の時代は医療の場でもともすれば効率重視、安全重視になりがちです。それらはもちろん大事なことですが、人の心を置き去りにしない、心あるクリニックでありたいですね。そうそう、「涙活」はお勧めです。私も年に数度は思いきり泣いて、心のセンサーを豊かにしておきたいと思っています。