川久保 明利 院長の独自取材記事
医療法人仁泉会 池浦クリニック
(安城市/安城駅)
最終更新日:2021/10/12
安城市池浦町の「医療法人仁泉会池浦クリニック」。川久保明利院長は、内分泌代謝を専門とし、特に糖尿病や甲状腺の疾患の患者を多く診てきた。この地に開業して20年余り、「糖尿病は自己管理が必要な病気で、私たちはそのお手伝いをするのが仕事」と患者を優しくサポートしている。一方でことさらに専門性を強調せず、「かかりつけ医」として「正しい判断で、患者さんを専門の病院に紹介する『交通整理』も重要な役割です」とも。そんな院長を信頼し開院以来、家族2代、3代にわたって通う患者も多い。同院の心がけや特徴について話を聞いた。
(取材日2017年5月25日)
糖尿病が専門ながらも「かかりつけ医」としての役割も
開業の経緯や患者について教えてください。
私は名古屋出身ですが、安城更生病院に研修医時代も含め計12年間勤務しましたので、退院された患者さんの受け皿になりたいという思いもあり、安城市で開業しました。開業して20年になりますが開院初日に来てくださった方が今も続けて来てくださいますし、ご家族2世代、中には3世代で通ってくださる方もいらっしゃいます。この地域はご覧のとおり水田が広がっていて兼業農家の方も多く、農繁期にはクリニックが少し暇になります(笑)。混んでいる時でも地域性なのか、皆さん、ゆったりされているように感じます。患者さんは、私が専門とする糖尿病や甲状腺疾患の方が多く、若い女性や妊婦さんも来られています。慢性の甲状腺疾患は妊娠中もコントロールが必要で、出産後も経過観察が必要な場合がありますから。
糖尿病や甲状腺疾患などは長いお付き合いになりますね。
糖尿病の方の中には、入院して良くなったのに退院したら薬を飲まなくなり、それで合併症を起こして再入院というケースもあります。そうならないためにも私は常にお話をよく聞くように心がけており、患者さんの身になって励まし、少しでも良くなったらものすごく褒めます。オリジナルのニコニコ顔のはんこを糖尿病手帳に押すんです(笑)。小学校の「たいへんよくできました」みたいですが、結構喜ばれます。糖尿病は、患者さん自身が病気を理解し、自ら生活習慣を改善していくことが必要な病気です。その自己管理をお手伝いさせていただくのが私の仕事だと考えています。
普段、心がけておられることはどんなことでしょうか?
糖尿病専門と強調するよりも、かかりつけ医として「交通整理」をすることを一番に考えています。例えば小さいお子さんが来られることもありますが、お母さんは、「ここで薬がもらえるのか、それとも総合病院へ行ったほうがいいのか」を聞くために当院へいらしたのかもしれない。私はそれでいいと思っています。当院で診るか、総合病院や他の専門病院へ紹介するか、その「交通整理」が大切です。咳が長引くのであれば呼吸器内科へ、胃カメラや大腸ファイバー検査のできる先生が必要であれば「開業したばかりの先生のところがすぐできる」、「あそこは土曜日の午後もやっている」と紹介するなど、それがかかりつけ医の重要な役割だと思うのです。皆さんの要望にこたえ、「またここに来よう」と思ってもらえればありがたいです。
健康講座を通して患者教育と医療連携に役立てる
こちらでは公開の健康講座を毎月開かれていますね。
はい、もう20年続けています。当初は糖尿病教室でしたがネタが続かず(笑)、健康講座としてテーマを広げました。市内にクリニックが開業すると花を贈って内覧会に行き、「講師をしていただけませんか?」とお話をしています。講座を始めた理由はもちろん患者さんのためですが、もう1つは医療連携のためでもあります。当院から患者さんを紹介する時に、どんな先生なのか、どんな分野がお得意なのか実際に知っておきたいのです。ひとくちに消化器内科といっても、専門が胃なのか大腸なのか、肝臓なのか、また耳鼻咽喉科でも耳、鼻、喉と得意分野があります。専門によって設備や機器も違いますので、それがわかると的確に患者さんを紹介できます。講座では私も質問して勉強しています。
なるほど、他院との連携にも力を入れられているのですね。
総合病院に長くいましたので、開業医となっても、1人で完結するより幅広いネットワークを持ちたいと思いました。その点、安城市医師会は連携しやすく、特に眼科の先生にはしょっちゅうお世話になっています。糖尿病網膜症は自覚症状がなく、血液検査や尿検査ではチェックできません。もし失明したらダメージがとても大きいので、患者さんには「年に1回は健診に行ってね」とお話しています。当院には糖尿病療養指導士や管理栄養士もいて、それぞれ、病院のスタッフも参加する会に出て勉強したり、病院にお願いして2~3ヶ月間病院に通いっぱなしで、研修させてもらったり、新卒の時には病院で研修をしているので、スタッフ同士でも病院とのつながりができますし、患者さんに対しても病院に準じた指導をすることができます。
先生は、薬に頼らない治療をされていると伺いました。
絶対に薬を使わないのではなく、多くの2型糖尿病の場合、食事療法と運動療法が治療の基本だからです。例えば肥満で血糖値が高い方の場合、薬を飲めば血糖値は下がると思うのですが、肥満を解消しないと根本的な解決にはなりません。インスリン抵抗性はなくならないし、肥満から起こる合併症もあります。血糖値を良くすることが目的ではなくて、血糖値が良くなる体にしようというのが目的なので、まずは食事や運動など生活習慣の改善が大切になります。薬によっては肥満を助長する場合もありますし、十数年後に副作用が出ることもあるかもしれません。薬に対するこだわりはかなり強いかもしれませんね。「融通が利かない」と言われることもありますが、誉め言葉として受け取っています(笑)。
訪問診療や介護の相談対応にも注力
そもそも先生が糖尿病を専門にされたのはなぜですか?
最初はいろいろ迷ったのですが、大学病院で実習をしている時、糖尿病性昏睡の患者さんが救急搬送されてきたことがありました。会話も通じず採血しようとすると大暴れする状態でしたが、主治医の先生は徹夜で1時間ごとに血糖値を測りながら少量のインスリンを注射されました。それで患者さんは次第に落ち着いた状態になりました。翌日の教授回診で患者さんはベッドの上に座り、教授からの質問にしっかり答えられていました。昨日は昏睡状態だった人が、手術で何か悪いところを取り除いたわけでもなく、血糖値を計りながら、インスリンの薬の量を的確に加減して、インスリンを補うことで一晩で劇的な回復を遂げた。若い私には、これこそ内科の真骨頂だと感じられ、その後の道を決めました。
先生は、訪問診療などクリニック以外でもご活動されているのですね。
かかりつけ医として、訪問診療が一番地域に密着できることだと思って始めました。処方は通院の時と同じで、糖尿病の患者さん以外にも脳梗塞や骨折などで動けない方、高齢の方などのご自宅に伺っています。当院では訪問看護ステーションと居宅介護支援事業所を併設していますので、介護や介護保険についてわからないことがあればご相談いただければと思います。また2017年から、スマートフォンを用いての診療も始めました。手軽で通常の診察より費用も安く、高齢社会の時代にあってこれから広まっていくだろうと思っています。スマートフォンでテレビ電話を使って診察をすれば、来院しなくても処方箋を郵送することができます。通院時間が取れない忙しい方には便利な方法だと思っています。
今後のことなどをお聞かせください。
息子も糖尿病を専門とする医師になり、現在は大学に在籍しています。人には「父親の背中を見て育ったんですね」と言われますが、病院に勤めていた頃は家にはほとんどおらず、まさに「背中しか見せていない」のですよ。患者さんにとってもスタッフにとっても常に医師が近くにいることが安心になりますので、いつも病院にいました。いつも思うのは、ここが病院よりもやりがいがあるクリニックであれば息子は当院を継ぐだろうし、そうでなければ病院で仕事をすればいいと思います。私としては、地域の開業医としての役割をこれからも大事にしていきたいですね。長く通ってきてくださる患者さんを見ると、糖尿病の方もさることながら、風邪や腹痛で数年に1度来る方や予防接種は必ず来る方も多いです。かかりつけ医として頼っていただいている、受け入れていただいているのかなと思うとありがたいですね。