野村 敦 院長の独自取材記事
野村内科
(一宮市/妙興寺駅)
最終更新日:2025/02/06

一宮市多加木町、学校帰りの子どもたちの元気な声が響く緑道沿いに「野村内科」はある。30代で父の後を継いだ野村敦院長は腎臓内科が専門で、妻の野村知抄先生は消化器内科が専門。循環器内科の非常勤医師もおり、住民にとっては内科の疾患ほとんどすべての治療を身近で受けることができる。野村院長が心がけているのは「病気だけではなく、患者さんを一人の人間として丸ごと診る」こと。患者を生涯にわたって支えたいと考えていた父の理念を引き継ぎ、在宅医療や看取りも行う。生活習慣病の患者も多く、生活習慣改善の指導は「厳しいですよ」と言うが、静かな語り口で、笑顔も声も優しい先生である。
(取材日2023年4月24日)
歴史があり、昔から糖尿病を診る医院として定着
まず開業のことやご専門について教えてください。

ここは内科の医師だった父が1976年に開業しました。父が亡くなった後、僕が継いで2023年で26年目、開業から47年目になります。当初から自宅が併設されていたので、早朝や夜中に患者さんが玄関に来られることもよくあって、そのたびに出て行く父を、子ども心にすごいなあと思っていました。医師をめざしたのは父の影響が大きいですね。妹と弟も医師になり、市内にそれぞれ内科と眼科を開業していて、治療で必要なときには連携しています。父は糖尿病が専門で、僕は腎臓内科が専門です。さまざまな症状、年齢の患者さんが来られますが、全体の3分の1ほどが糖尿病の方でしょうか。市内はもちろん名古屋市の北部、北名古屋市、稲沢市からもいらっしゃいます。昔診ていた患者さんが親になってお子さんを連れてきてくれたり、家族で来られる方も多いですね。
糖尿病の方の診療では、どんなことを心がけていますか?
まずは生活習慣を改善することが必要ですが、例えば大規模病院に2~3ヵ月に1回出かけて、そのたびに食事や運動など複数の“課題”を指導されても、すべて継続して行うことは難しいと思います。当院のやり方は、こまめに来ていただいて、1回ごとの“課題”を1つにし、それをある程度できるまで繰り返していただくということです。何ヵ月もかかりますが、例えば運動をまったくしなかった人が15分の散歩をするようになるなど、続けていけば少しずつ“課題”をクリアできるようになるものなんです。そうしたら、「よくやったね。次は30分歩こうか」とステップアップしていきます。合併症が進んでおらず時間的に余裕がある方にはそうした指導をするようにしています。
長い目で診てくださるのですね。

糖尿病を含む生活習慣病の患者さんとは一生のお付き合いになりますからね。毎月1回は来ていただきます。その間隔ですと、患者さんも“課題”を忘れる前に来院することになりますし、僕たち医師にとっても記憶に残ります。もう25年やっていますから、本当に数多くの患者さんの情報が頭の中に入っていますよ。診察前の予診や血糖値測定は看護師がするのですが、患者さんは僕の前では言わないことでも、看護師には、何時に何を食べたなど本当のことを話しやすいようです。管理栄養士が栄養指導をするときもそのようです。僕は彼女たちから聞いて知っているけど、知らないふりをして「ちょっとこれはやめておきましょうね」などとしゃべるわけです(笑)。
患者を一人の人間として「丸ごと」診る
先生の診療は、焦らず、優しそうです。

僕は基本的に、人にも自分にも厳しいですよ。自分自身、食事や運動に気をつけていますし、患者さんにも言うべきことははっきり言います。ですから別の医師のもとへ移った患者さんもいましたが、先生が優しすぎたらしく、「自分が横着しても怒らないから心配になった」とまた僕のもとへ戻ってこられました(笑)。結局、自分の体を良くしたいと思う人は頑張れるのかなと思います。糖尿病が悪化すると、透析が必要になったり、心筋梗塞や脳梗塞につながったり、ひどい場合だと足に壊疽(えそ)が起きたりすることがあります。僕は自分の患者さんにはそうなってほしくない。習慣の改善も「まあ、いいよ」という方が、患者さんの評判はいいでしょうが、合併症が悪くなっては取り返しがつかないんです。
先生が、腎臓内科を専門に選んだ理由を教えてください。
専門を決める時に、腎臓内科の先生が、腎臓だけではなくて内科全般を広く教えてくれる方でしたので、この先生についていこうと思いました。僕は、医師とは病気だけを診るのではなくて、患者さんを1人の人間として診ることが大切だと考えています。糖尿病の治療でも、とにかく薬で血糖値を下げれば良いのではなく、将来的なことを考えれば、動脈硬化が起こり、脳卒中や心筋梗塞になるのを防ぐために血圧やコレステロールをしっかり管理し、禁煙指導や運動指導をすることも必要になります。患者さんの体全部を「丸ごと」診るということですね。それで腎臓内科の先生に共感したんです。
奥さまの知抄先生は消化器内科が専門ですね。院長就任時から並診なのですか?

当時、妻は勤務医で、その傍ら実家の医院も手伝い、当院にも来ていて、まだ子どもが小さかったので大変でした。ちょうどインフルエンザがはやっていて患者さんは普段の倍以上。妹や弟、大学の先生にも来てもらっていましたね。心療内科が市内に少ない頃でしたので、薬や検査、声のかけ方などを勉強して、うつ病の患者さんにも対応していましたし、父が在宅医療に熱心で数十軒ほどのお宅を回っていたのでそれも引き継ぎ、非常に忙しかったです。現在は、妻は週4日来て、胃の内視鏡検査もしています。僕の外来は患者さんが多いので、妻のほうには「ゆっくり話がしたい」というお年寄りの方が来られています。また病院から循環器内科の先生が3人交代で来てくれています。当院には種々の検査機器もあり多分野の内科疾患を診ることができますが、さらに高度な治療が必要な場合は専門の病院に紹介しています。
内科疾患はすべて診る、亡くなるまで診る、が目標
各専門分野の医師がそろい、待合室も広く透析室もあり、総合病院のようですね。

多分それが父の夢だったのだろうと思います。糖尿病の患者さんを、兄弟それぞれが専門の立場から、また一生涯診る、ということを実現しようと透析室も増築したのでしょう。僕の目標は、糖尿病に限らず、すべての内科疾患を自分で診る、生活習慣病の人も亡くなるまで責任持って診る、ということです。在宅医療も市内の14件の診療所でグループを作り、病院や訪問看護ステーションとも連携をとっています。父の頃より医療も高度化しており日々新しい知識を更新していくことも大変になっていますが、病院や診療所間の連携は取りやすくなっております。
診療以外の先生のご活動についても教えてください。
医師会の業務に約20年従事しており、生活習慣病や在宅医療の連携などに取り組んできました。特に糖尿病や慢性腎臓病は、成人の8人に1人がかかるといわれており、病院だけでは診られなくなっているのも現状です。一宮市内で地域連携を図り、市民の皆さまの健康を守れるよう努めていく考えです。また、休日のリフレッシュとしては、中学の時から続けているサッカーでしょうか。医師になって一時中断していたのですが、40代になって高校の先輩に誘われ、OBチームに参加しています。中高時代の「先輩・後輩」の関係が今も残っていて、良いプレーをすると後輩から「先輩ナイス!」と声がかかったりして楽しいですね。
クリニックとしての今後の展望をお聞かせください。

当院の診療は、コ・メディカル、つまりスタッフに依存している部分が大きいんです。インスリン注射の指導や予診、栄養指導、受付、事務など、みんな自分の業務にしっかり取り組んでくれています。父の代から勤めていてくれる人もいて頼もしい限りですね。その仕事のレベルをいかにもっと上げるか、働くモチベーションをいかに維持するかが課題です。スタッフは勉強する一方で、歓迎会や忘年会、1泊旅行などで親睦を深めています。私は給与明細を毎月、院長室で1人ずつ手渡ししており、そのときに1対1でいろいろと話をしています。運動教室、生活習慣病講演会、栄養士の料理教室や治療食の試食会、院内報など、スタッフの提案をもとに始めたものです。どんな意見もしっかり聞いて、風通しの良い職場でありたいですね。スタッフに生き生き働いてもらい、その学びや元気を患者さんに還元していってほしいと思っています。