千田 美穂子 院長の独自取材記事
名和内科
(瑞穂市/美江寺駅)
最終更新日:2025/03/03

先代院長が地元の人々の健康を願い、1974年に開業した「名和内科」。時代の流れとともにクリニックを拡大。さらにグループ内の介護老人保健施設や病院、地域交流施設などを設立し、連携体制を構築した。医療と介護を軸に、グループ全体で地域の健康を見守っている。父である先代院長からバトンを受け継いだ千田美穂子先生は、地域のイベントや認知症サポートなどの活動にも積極的に参加。訪問診療、診療時間外の健康相談にも対応するなど、多忙な日々を送っている。これほどまでに千田院長を突き動かすものは何なのか。クリニックの歩みから診療体制、地域と患者、スタッフへの思いまで、たっぷりと話を聞いた。
(取材日2024年12月16日)
先代からバトンを受け継ぎ、地域に根差した医療を継続
2024年に開業50周年を迎えられたそうですね。初めに、クリニックの歴史について教えてください。

父である先代院長が、1974年に開業しました。父は寺の長男として生まれ、地域と関わる中で「地元の人が健康に暮らせるようにお手伝いしたい」と考えるようになり、開業したそうです。これまでずっと瑞穂市重里で診療しています。開業当初は名和内科だけでしたが、現在は介護老人保健施設、デイケア施設、デイサービス施設、サービスつき高齢者向け住宅を法人で運営しています。岐阜清流病院、地域交流施設などのグループ施設とも連携しながら、地域の医療と介護をサポートしています。父は地元の人々が安心して暮らせる環境をつくりたいと強く願っていたのだと思います。
先生が院長に就任された経緯を教えてください。
父の病気を機に、2006年3月にクリニックを受け継ぎました。当時、父は自身の病気の治療をしながら診療を続けていて、私は出産直後で育児をしながらこのクリニックで診療していました。子どもの面倒は母や妹に見てもらい、とにかくみんなで必死に乗りきっていましたね。当時、「女性だしまだ若いから、頼りなく見られるかもしれない」「患者さんが離れていったらどうしよう」などと考えていましたが、「先代の名和院長の娘さんだから大丈夫」と思ってくださる方が多く、安心したことを覚えています。生まれ育った地元で診療できることはとてもうれしいです。生活の中でママ友や同級生から健康の相談を受けると、地元ならではのつながりが感じられて、それも仕事の励みになっています。
クリニックのいたる所に優しいピンク色が使われていますね。院内環境で工夫されていることはありますか?

外装や内装、待合室のソファーなどにピンク色を取り入れています。私の母が考えてくれました。ご高齢の方は、寒色だと色の見分けがしにくく、かなり暗い色に見えるそうです。暖色で、優しいピンク色を採用しました。クリニックのメインカラーです。当院では感染症対策として、発熱や咳などの症状がある方は、院外にある車庫内でお待ちいただき、そこで診察しています。また、感染症ではないものの、風邪が治りかけで咳の症状だけ残っている方や気になる症状がある方は、院内の別室でお待ちいただいています。待合室は広々としていますが、空間分けは必要です。一般診療や予防接種を受けられる方も感染症の疑いのある方も、安心してお過ごしいただけるように工夫しています。
医療を軸に、介護、地域コミュニティーを支える存在に
診療内容と診療体制について教えてください。

内科、小児科を中心に、各種予防接種や生活習慣病の予防や指導、循環器や腎臓の検査、治療など、幅広く内科全般を診療しています。胃内視鏡検査やCT検査、心臓、頸動脈、腹部、甲状腺の超音波検査などの各種検査も可能です。また、毎週土曜日に整形外科の医師が診察しています。内科の診療は、理事長である弟と、私を含め3人の女性医師が担当し、その内の1人は私が研修医の頃に指導担当だった先生です。私がクリニックを受け継ぐ際、育児をしながらの診療になるため、先生に協力をお願いしたんです。お姉さんのような存在で、とても心強いですね。当院の強みは、女性医師がいることと、法人に岐阜清流病院や介護老人保健施設があり、スムーズに連携できることです。介護老人保健施設は当院に併設されていますので、施設内で体調不良の方がいらっしゃれば、当院の医師が駆けつける体制です。また、岐阜市民病院や岐阜大学医学部附属病院への紹介も可能です。
女性医師を求めて、遠方から訪れる方もいるそうですね。
はい。女性特有の悩みを相談するために、遠方から訪れる中学生や高校生もみえます。特に思春期の女の子は、男性医師には話しづらいこともあるでしょうし、内科での聴診や触診に抵抗や不安を感じると思います。私が大切にしているのは、話しやすい雰囲気をつくること。診療日に必ず女性の医師がいることを強みにして、さまざまな健康相談に対応しています。相談の内容も患者さんの年齢層も幅広く、長年通ってくださる患者さんも多いですね。長いお付き合いのあるお顔を見られると、やはりうれしさや仕事へのやりがいを感じますね。
診療外の活動や地域との交流にも力を入れられているそうですね。

最近は感染症対策でお休みしていますが、以前は年に4回、患者さんやこの地域にお住まいの方に向けて、健康に関する情報を発信する教室を開いていました。テーマは、糖尿病や骨粗しょう症、脂質異常症、便秘などさまざま。患者さんの治療のモチベーションや健康維持につなげるために、私が院長に就任してから始めました。診察時に「食事は何キロカロリーにしましょう」と口頭でお伝えしても、イメージしづらいですよね。教室の最後に栄養士が考案したデザートを出し、砂糖を使わずに甘みを出す方法や、カロリーを抑えるために使用した材料などをお伝えするんです。目で見て、食べて実感することで、実践につなげてほしいと考えていました。現在は、診察時に塩分や血圧など、特に生活習慣病に関する内容のパンフレットをお渡しし、「冷蔵庫に貼っておいて」とお伝えしています。このような情報発信も医師の役割だと考えています。
患者、クリニック、スタッフを守るために歩みを進める
スタッフの皆さまの協力のもと、地域貢献にも力を入れられているのですね。

以前行っていた教室の他に、地域のイベントにブースを構え、健康教室や認知症の相談などを行っています。スタッフが「こんなことをやってみたい」と積極的にアイデアを出してくれるので、その声をもとに話し合って地域に貢献できる活動を模索しています。スタッフのモチベーションを上げるのも、院長である私の役割です。そう考えるようになったのは、弟のある言葉がきっかけです。クリニックと医療法人は、何のためにあるのか。患者さんのため、地域のため、そして職員と職員の家族を幸せにするためにある。そのためには、職員が働きやすい環境を維持し、新しいことに挑戦し続けなければならない。そんな弟の言葉を聞き、私なりに前進し続けることを決意しました。
半世紀のクリニックの歴史を受け継ぎながら、新しい活動も行っているのですね。
父が生まれ育った寺で行われる認知症カフェに協力しています。認知症カフェの目的は、同じ悩みを持つご家族やご本人が交流し、共感すること。みんなで工作をしたり、おやつを食べたりしながら、会話が生まれるといいなと思っています。私自身も地域の認知症サポート医をしています。これからも、生まれ育った瑞穂市で、医療と介護、地域交流に関わっていきたいですね。
先生の原動力になっているものは何でしょうか? 今後の展望も併せてお聞かせください。

私は、「守らなければ」という使命感に突き動かされています。患者さん、父が築いたクリニック、そしてさらにスタッフも守らなければ。これは私の使命です。父は「長年診療してきた私にかなうわけないよ。だから、代替わりして患者さんが離れたとしても、気にしなくてもいいんだよ」と言ってくれました。ですが、やはり患者さんには当院を頼りにしてもらいたいですし、父の思いを受け継いで診療を続けたいのです。医師として地域に貢献するのが、私のやりがいであり生きがいです。クリニックを受け継いで約20年。これまで全力で頑張ってきましたが、これからも「守る」という使命感のもと、突き進んでいきたいと考えています。