大木 教久 院長の独自取材記事
大木医院
(茅ヶ崎市/茅ケ崎駅)
最終更新日:2025/03/12

湘南にある茅ケ崎駅からのローカル線、JR相模線で1駅。北茅ケ崎駅から連なる住宅街で、主に高齢の患者を見守っているのが「大木医院」だ。50年以上前に両親が開業した医院を受け継ぎ、さらに20年にわたって地域に貢献し続けるのが院長の大木教久先生。両親とはまったく異なる「脳神経内科」を専門とし、より快適で安心な生活を送れるよう、労力を惜しまない。そのモットーは「医療は診察室だけでは終わらない」。患者一人ひとりのバックグラウンドや生活環境を熟練の看護師たちとともに丹念に聞き取り、それぞれに最適な医療を提供するよう努めている。さらには個人宅への在宅医療も積極的に行う。人生の終焉(しゅうえん)をも視野に入れたかかりつけ医を掲げる大木院長に、めざす医療のあり方を聞いた。
(取材日2024年11月8日)
高齢患者が立ち寄りやすく居心地の良いクリニックに
こちらの開業の経緯を教えていただけますか?

1969年に両親が開業しました。父が産婦人科、母が眼科の診療を行っていました。両親とは異なり、私の専門の診療科目は脳神経内科です。最初にこの科を選んだのは、超高齢社会を目前に、間違いなく多くの患者さんのお役に立てるであろうと考えたのがまず一点。また、変性疾患やパーキンソン病、認知症など、治療薬で治せないとされていた病気に関して、医師としてどう患者さんに向き合っていくのか、という点にも強い興味を持ったんです。それで、私は東海大学医学部付属病院に入局していたのですが、母の希望もあって2001年にこのクリニックに合流しました。その後2016年に父から院長を継承しています。
クリニックに合流した2001年に建て替えを行ったそうですね。
はい。高齢の患者さんの来院を前提として、運動機能の衰えた方や車いすの方でも快適に待機・移動できるように、設計に関しては相当研究しました。大学病院時代に非常勤で行った病院のレイアウトはもちろん、住宅展示場で100軒以上のモデルルームを見て、バリアフリーに一家言あるハウスメーカーを検討し、設計だけで1年はかけたと思います。エントランスのスロープや、スムーズに出入りできるように作ったトイレは20年以上たっても、実用的だと実感しています。最初に時間をかけて設計したため、その後は大きな改装も特に必要ありません。
長く勤めていらっしゃるスタッフさんも多いようですね。

そうですね。10年以上当院で働いているスタッフがほとんどです。ご高齢の患者さんも多いので、普段の様子を知るためや正しい情報をお伝えするために患者さんご本人以外とのやりとりも多々あるのですが、看護師がスピード感を持って「どの情報を誰に伝えたらいいか」を整理し、対応してくれています。患者さんの様子を知るためにはご家族だけでなく、地域包括支援センター、ケアマネジャー、訪問看護ステーション、薬局、病院、各所への連絡や情報共有が必要です。当院のスタッフだけでなく、本当にたくさんの職種の方に関わっていただいて診療を行っています。
医師の仕事は診察室だけでは終わらない
貴院にはどのような層の患者さんが来院されますか?

当院は内科と脳神経内科を標榜しておりますが、地域のかかりつけとして幅広く相談を受けつけております。そのため患者さんはさまざまな症状や悩みを抱えて来院されますね。例えば整形外科や眼科など他科の領域について相談される方もいらっしゃいます。もちろん当院でも診れる範囲で診療しますし、当院での診療が難しい内容と判断すれば、しかるべき医療機関に紹介しています。ほかには他院を受診されて「診断名を聞いたけどよくわからなかった」というご相談を受けることもあります。どのような説明が適しているかは人によって違いますので、患者さんのタイプや事情に合わせて情報をかみ砕いて説明し、必要に応じて診断をした医院やご家族にも内容を確認しています。これも地域のかかりつけ医の役割だと思うんです。
そうした患者さんに対応される上で、先生が気を配られているのはどのような点ですか?
最も重視するのは、患者さんの家庭や家族関係、生活の背景ですね。もちろん私も診察室で話は聞きますが、看護師にも特に患者さんのバックグラウンドを聞くよう徹底しています。高齢の患者さんをお迎えする場合、われわれの仕事は「診察室だけでは終わらない」ということが大切なんです。例えば認知症の方がお一人で来られた場合は、次回ご家族と一緒に来ていただけるようお願いしますし、それが難しければこちらからお電話で説明するようにしています。認知機能が落ちている患者さんの場合はご家族のサポートが必須ですからね。こうしたスタンスを確立できたのは、東海大学医学部付属病院の脳神経内科のおかげです。教授に教わったのは「神経疾患だけを診るな」ということです。それから自分がやっていきたい医療とは何かを突き詰めていくと、「ご本人の希望にのっとって看取るまで責任を持ちたい」というところにつながってきたんです。
それはご家族にとっても非常に心強いですね。

そう思っていただけるとうれしいですね。病気はある日突然発症することもあります。そのときのショックや不安はご本人はもちろん、そのご家族も抱えきれないほどの大きさでしょう。そんなときに頼れる存在であるのが「かかりつけ医」ですし、常に相談しやすい医師でありたいと思っています。患者さんやご家族にとって一番いい選択ができるよう、「こうした方がいいのではないか」というアドバイスをいくつかご提案するようにしています。それを実践するためには多職種や外部施設との連携が欠かせません。病院やケアマネジャー、訪問看護ステーションなどと連携を取りながら、スピード感をもってスムーズにご紹介ができるようにしています。
地域と連携し「かかりつけ医」の役割を全うする
先生は「地域のかかりつけ医」を掲げられていますが、特に高齢の患者さんの場合、その役割は大きいですね。

大きな病院で亡くなる入院患者さんを見ていると、それが本意ではなかったというケースが結構あるんですよ。「人生を終えるときは自分の家がいい」とおっしゃるご高齢の患者さんはかなりいらっしゃって、そうした方々に寄り添い、最期の時までご一緒する。普段からの「かかりつけ医」が、ずっとそばにいることができると、ご本人はもちろん、ご家族も安心できると思うんです。当院では在宅医療も行っています。平日4日は昼休みに、月に1回土曜日午後には遠方にも。対施設ではなく、ほぼ個人のお宅に伺うかたちで実施しています。実際にこうした医療への向き合い方をしていると、「実は入院したくないんだ」とおっしゃる患者さんがとても多いことがわかります。だったら「入院しなくてもおうちでこういう診療ができるよ」ということをお伝えしていきたいんですね。
まさに「診療室だけではない医療」を担っているわけですね。
今だとACP(アドバンス・ケア・プランニング)なんかがそうですよね。患者さんが考える理想的な最期について意見交換し、救命処置を望まれるならば大規模病院で担当してもらう。そうではない場合に関しては、私たち地域の開業医が支えていく。病院で最期を迎えたくない患者さんを在宅で看取るのは私たちですし、そうした希望があれば大きな病院も今はすぐにわれわれのところに声をかけてくださいます。また私は長年茅ヶ崎市医師会の活動も行っていますが、どうしたら地域の医療がもっと良くなるか、医療連携が取りやすくなるのか、と診療後に医師会のメンバーで集まって常に議論を重ねています。自治体の職員や保健所ともやりとりをしながら地域医療の基盤を整えることにも取り組んでいますね。診察室の中だけでなく地域として患者さんやご家族の希望に沿った医療を行える環境を整えていく、これこそが私の考える「診察室だけで終わらない医療」なんです。
最後に地域の皆さんへメッセージをお願いします。

ぜひ地域の中で「かかりつけ医」という存在を見つけてほしいと思います。それは何科でもいいのですが、これから来たる高齢化社会に備えて、何か起こった時になんでも相談できる存在を作っておくと心強いはずです。医学的なことはもちろん、患者さんそれぞれの生活背景に合わせた提案をするまでが医療のあるべき姿だと思っています。当院も患者さんにとってそんな存在になれることをめざしておりますので、何かお困りごとがあれば気軽に受診してくださいね。