澁谷 純一 院長の独自取材記事
澁谷診療所
(さいたま市中央区/与野駅)
最終更新日:2023/03/15

与野駅西口から徒歩約7分。駅前から真っすぐに伸びる大通り沿いにある「澁谷診療所」は、開業から半世紀以上にわたって内科一般からけがなどの外科処置まで幅広く対応し、地域に住む人々の健康を支えてきた。2代目院長である澁谷純一先生は、消化器外科の勤務医として多くの経験を積んだ後、2006年に同診療所の院長に就任。さいたま市民医療センター前理事長で、現在は埼玉県医師会理事、さいたま市与野医師会理事も務めるなど、地域医療の発展のために熱心に取り組んでいる。要職にありながら、穏やかな笑顔と語り口が印象的な澁谷院長に、診療所の特徴や患者への思い、地域医療に関する取り組みなどについて聞いた。
(取材日2023年2月7日)
半世紀にわたり地域に住む人々の健康を支える診療所
開業してから半世紀以上という、長い歴史ある診療所なのですね。

1960年に父が開業し私は2代目です。父は浅草の出身ですが、親戚が近くに住んでいた縁もあり、交通の便が良く駅からも近いこの地に開業したと聞いています。父と私は同じ大学の消化器外科の出身です。昔は入院設備があり手術を行っていましたが、今はけがの縫合など日帰り手術のみ対応しています。
待合室が広々としていて、大きな水槽が目を引きます。
水槽は事務長であるいとこの家にありましたが、大きすぎるので置かせてと(笑)。しかし、今では私がアクアリウムの世界に魅了されてしまいました。泳ぎ回る熱帯魚やキラキラ輝く水景は心が和みます。建物は定期的にリフォームをして、車いす対応トイレ、入口スロープ、駐車場の自動照明、空気清浄装置など、安全面に配慮しています。
幅広く診療をしていて、地域の人には心強い存在ですね。

高血圧や糖尿病といった生活習慣病の内科一般、外傷ややけど、打撲などの外科系、じんましんや花粉症、風邪など身近な症状まで幅広く診療しています。胃の内視鏡やエックス線撮影の検査、各種健康診断、予防接種、救急車を要請するほどではないけれど出血がひどい場合などの手術にも対応しますので、幅広い年代の方が来院されますね。私は外科医として数多くの手術に執刀してきたので、紹介先で手術を受ける患者さんに手術の内容を解説して内科の先生とは違う角度から説明するなど、安心して手術に臨めるようサポートしています。また、できる限りご自宅で過ごしたいと願う患者さんとご家族の力になるべく、主に昼休みを利用して往診や訪問診療も行っています。将来的には医師の息子たちが勤務し、さらに体制が充実する予定です。それぞれの方々にとってより良い人生を送ることができるよう、お手伝いができればと思います。
入院や大がかりな検査などが必要なときはどうするのですか?
周辺にはさいたま赤十字病院、埼玉メディカルセンター、自治医科大学附属病院など基幹病院が数多くあり、紹介先に恵まれています。私は市内4つの医師会が運営するさいたま市民医療センターの理事長を務めていましたので、地域の医療情報をよく把握しています。また、日頃から連携先となる先生方との意見交換の場を大切にしていますので、何度も顔を合わせている先生が多く、受け入れもスムーズに行えていると感じます。
勤務医時代は消化器手術のほか、心臓手術も経験
先生が医師を志した理由をお聞かせください。

医療従事者が身近にいることが日常でしたし、物心ついた頃から診療所を継ぐのは当然かなと思っていました。一方で、物作りが好きでしたのでエンジニアになりたいという思いもあり、造船、建築に興味を持ちました。そんな様子を見てこれは大変(笑)と考えたのか、父だけでなく祖父母や親族総出での説得工作があり(笑)、そんなこともあって日本医科大学に進むことになりました。2人の息子も医師となり診療所を継ぐと言ってくれています。今は病院勤務で将来はわかりませんが、3世代にわたって地域医療に関われればうれしいこと。少し期待しています(笑)。
診療所を継ぐまでは、どのような道を歩んできたのですか?
大学院では病理学を学び、その後は消化器外科で日本医科大学付属病院や複数の関連病院に勤務しました。大学病院では、心臓血管外科が専門である主任教授の「良い外科医は良い内科医であれ」との教えのもと、消化器に加えて循環器疾患の治療にも数多く関わることができ、体全体を知る貴重な機会となりました。手術は食道から肛門まで広範囲に行っていましたし、地方の病院勤務では、問診、検査、診断、治療、術後管理など、患者さんと最初から最後まで総合的に関わり、その経験は今の診療にとても生きています。
診療で心がけていることはありますか?

患者さんに安心して受診してもらうことです。内視鏡検査では、検査の精度向上に努めることはもちろん、体の中に器具が入りますから、感染症予防のためにも全例に専用消毒器を使うなど注意を払っています。また、患者さんが心配している病気に対して、その診断に必要な検査をわかりやすく丁寧に説明することで、無駄な検査と不安を解消できると考えています。そのためにも新しい情報を得られる講習会への参加のほか、日本医科大学特任教授でさいたま市民医療センター副院長のいとこや、日本医科大学同窓会長の叔父から、病院現場の情報を聞くことは大事だと考えています。
開業医としてのやりがいはどんなところですか?
外科手術はもうできませんが、町の診療所ならではのやりがいは大きいです。勤務医時代は悪性腫瘍の手術が多く、順調な患者さんばかりではありませんでした。診療所では、かかりつけ医として長期にわたり診察することで、病気の早期発見や生活習慣病の予防の対策ができ、患者さんがより良い人生を送るためのお手伝いをしている実感があります。ここでは多くの患者さんが笑顔で帰っていく姿を見ることができます。
自分らしい医療・ケアの選択ができるように支援
地域医療発展のためのさまざまな活動に取り組んでこられたと伺いました。

医師会など地域医療のための活動を精力的に続けてきました。医師会の活動は、学術講演会の開催、健診・予防接種事業、学校医や働く人の健康相談に応じる医師の派遣、休日急患診療所の運営、市民向け無料公開講座や勉強会の開催、発災時の医療体制の整備など多岐にわたります。これまでの活動を振り返ると、4市合併による健診事業や予防接種の市民サービスの統一化、在宅医療の発展に向け、医療・介護従事者に対する勉強会の定期化などさまざまです。東日本大震災後には、県や市の要請を受け、福島からの被災者支援や救護活動の指揮をしたことも思い出深い活動の一つです。
地域医療活動の中でとりわけ力を注がれていることがあればお聞かせください。
現在は、アドバンス・ケア・プランニング(ACP) について患者さんやご家族にご説明することに尽力しています。アドバンス・ケア・プランニングとは、将来の医療およびケアについて、患者さんの意思決定を支援することです。人間誰しも人生の幕引きを迎えますが、その際にどこまでの医療やケアを受けるか、心積もりをしておくことが重要です。埼玉県医師会が作成した「私の意思表示ノート」には、病気や事故などで意思表示ができなくなった場合に、気管内挿管や人工呼吸器を希望するかしないかなどを記入する欄などがあります。診療や市民講習会の場でこのノートを活用して「元気なうちにあらかじめ周囲の人と話し合い、最期はどう過ごしたいかの意思表示をしておこう」とお伝えしています。ご自分らしい最期を迎えるためのこうしたサポートも、私たち医師の重要な役目だと思っています。
最後に読者へのメッセージをお願いします。

テレビやインターネットで新しい医療情報を取り上げると、それがスタンダードだと考える方が少なくないことが気になります。たとえ優れた医療であっても、すべての方に効果があるわけではなく、デメリットもあることを頭の隅に置いておいてほしいですね。見聞きした情報のみで自己判断するのでなく、日頃から相談できるかかりつけ医を持ちましょう。自治体で行う健康診断などを定期的に受けることで、一回ごとの結果に一喜一憂せず自分の体を知ることができますし、それが健康寿命を延ばす早道だと思います。これからも地域の方々から信頼される医療機関でありたいと思っています。どの診療科に行けば良いのか迷う場合なども気軽に相談にいらしてください。