大久保 絵理 副院長の独自取材記事
大久保クリニック
(吉川市/吉川駅)
最終更新日:2025/12/12
閑静な住宅街の中に溶け込むようにたたずむ「大久保クリニック」。1973年の開院以来、吉川市内において分娩を担ってきたクリニックだ。1996年に同じ敷地内に新築移転した建物はれんが造りで、クリニックとは思えないシックな雰囲気。院内もゆったりとぜいたくな空間づくりが意識され、明るく広々とした待合室からは、緑豊かな中庭と池を望むことができる。院長の大久保典義(のりよし)先生は、吉川の地で50年以上にわたって分娩と真摯に向き合ってきた。娘であり副院長を務める大久保(中原)絵理先生も、院長と同じ想いで、患者一人ひとりに寄り添い、優しい医療を届けることをめざして日々奮闘している。幼少期から父の背中を見続け医療の道に進んだという絵理副院長に、地域医療への想いを聞いた。
(取材日2025年10月31日)
開業から50年以上、地域の分娩を担う産科クリニック
1973年の開業以来、吉川市周辺の妊産婦さんを支えてこられました。

患者さんをはじめ多くの方々に支えられて、ここまで来ることができました。埼玉県では吉川、草加や越谷、三郷やさいたま市など、千葉県からもたくさんの患者さんをお迎えしています。当院は、私の父でもある院長が開業したのですが、もともと埼玉県にゆかりがあったわけではないのです。群馬大学を卒業し、開業先を探す中で医師が少ないといわれていたこのエリアの分娩を担うために、吉川での開業を決めたそうです。私自身は2歳からここで育ちましたから、地元同然ですね。当院では、現在常勤医師が私と父を含め3人、非常勤医師5人が診療にあたっていますが、そのうち4人が女性医師というのも特徴の一つです。希望すれば女性医師が担当することもできますし、分娩に関しても、自然分娩、計画分娩、無痛分娩、夫立ち会い分娩、帝王切開での立ち会い分娩など、患者さんと医師が相談しながら分娩様式を決められるよう、きちんとサポートを行っています。
広々として開放的な雰囲気がすてきです。
ありがとうございます。1996年に新築移転した際に、院長がこだわった建物と聞いています。産院らしく、ゆったりとした待合空間は明るい雰囲気ですし、中庭の緑や卵型の池も見渡せて、リラックスできると患者さんたちにも好評です。2階建てで低層にし、階段も少ないことから医師たちの移動もかなりスムーズにできるようになっています。また、全15個室の規模のクリニックには珍しく、非常用自家発電装置も設置しています。これは院長がかつて大きな地震を経験したことから導入したのですが、これが東日本大震災の際には大活躍しました。今も、停電時でも分娩・手術ができるため患者さんたちの安心につながっています。感染対策として医療用の24時間強制換気システムも導入していますし、新生児室は暗証番号による入退出管理を徹底するなど、安全面にも十分配慮した環境になっています。
診療科目も産科・婦人科・小児科と幅広く診てくださっています。

そうなのです。そこも私たちのこだわりの一つです。お産は病気ではないといわれますが、十分リスクがありますよね? だからこそ、医師として皆さんの体調をしっかりと管理し、一人ひとり違う症状にも一緒に向き合いたいですし、産後のケアも徹底しています。さらに、更年期・老年期と女性が年を重ねていく際の不調にも丁寧に対応したいと考えています。また、院長も私も当院で生まれたお子さんに関しては診療を担当しています。小児予防接種に関しては、吉川市全域のお子さんを受け入れておりますのでお気軽にご相談ください。生まれて育って、思春期を迎え、さらにその先へ……と、女性の一生を見守る役割を担いたい。それが私たちの目標です。おかげさまで、今では親子3代で来院される方も。「あの時生まれた赤ちゃんがこんなに大きくなって!」と成長に驚けることもうれしいですね。
父の想いと同じ、流れ作業ではない診察を続ける
絵理先生が、医療の道をめざされたきっかけをお教えください。

医師として活躍する父の背中を見ていたからですね。子どもの頃、両親と一緒に眠るじゃないですか? 一緒に布団に入りますが、クリニックから電話が鳴ると、父は何時でもお産に駆けつけていました。その姿を見て、きっと何か思うことがあったのだと思います。小学校1年生の時の作文がまだ残っているのですが「産科のお医者さんになって、父を手伝いたい」と書いてありました。とっても良い子ですよね、父も感動したと思います(笑)。高校で進路を考えた際には、念のため本当に他にやりたいことはないか真剣に考えたのですが、結論として「やっぱり医学部に」と。子ども時代の想いは変わらず、今は本当に父をサポートしています。
麻酔科医としても兼務されたご経験もあるとか?
大学卒業後は順天堂大学医学部産婦人科学講座に在籍し、その後、多くの先輩が在籍している越谷市立病院に異動し、数多くのお産に立ち会ってきました。「そろそろ父のサポートを」と当院に戻る際、麻酔科での技術と知識を身につけたいと考え、週3回麻酔科医として勤務を続けることにしました。もともと手先が器用だったこともあり、思いの外相性が良くて(笑)。気づけば5年、予定よりも長く学ばせていただきました。この経験は、帝王切開はもちろん、近年増えている無痛分娩にも大いに役立っています。
近年はハイリスクの妊産婦さんも増えていると伺いました。

最近はいわゆる高齢出産、35歳以上で初産を迎える方も増えています。私自身も、33歳で初産、その後ほぼ年子で2回の出産をしましたが、やはり産後の回復が若いお母さん方に比べると時間がかかりました。また、35歳を超えると流産率が上がり、妊娠率は下がります。年を重ねるにつれさまざまなリスクも上がってきますので、その分医師としても十分注意が必要だと考えています。その中で、一番大切なのはそれぞれの患者さんに丁寧に向き合うこと。お話を聞いて、栄養指導が必要な際には管理栄養士さんの指導を組み入れ、安全で質の良いお産に近づけるようサポートすること。それが私たちのめざす仕事です。決して流れ作業ではなく、心から頼ってもらえる場所でいたいと、全スタッフが考えています。
「選んで良かったと思っていただくために」できること
すべての方が安全なお産ができることをめざすのは、難しいこともありますよね?

確かにそうなのです。例えば、双子などの多胎妊娠や前置胎盤、切迫早産など、リスクはどこにでもあるものです。そのすべてを受け入れられることが理想だとは思いますが、残念ながら当院では受け入れきれない場合もあります。そのような時は、迷わず越谷市立病院へ受け入れを要請し、安全なお産をめざして、常に連携を取っています。また、体重のコントロールも大切です。どうしても妊婦さんは体重が増えてしまいがちですが、当院ではBMI37を上限の目安としています。超えそうな方には、しっかり管理できるよう指導しています。本当に皆さん頑張り屋さんで、当院で分娩できるようにと努力してくださいます。
入院中のお食事を楽しみにしている患者さんが多いとか
ただでさえ大変な妊産婦さんですから、見た目も味も栄養バランスも良いお食事で元気になってほしいですよね。専属シェフの作る豪華なメニューはとても人気です。お祝い膳はフレンチをご用意していますが、それ以外の日もイベント食や和食、中華と幅広い内容で楽しんでいただけるようこだわっています。一部SNSにも投稿しておりますので、ご覧いただけるとうれしいです。退院後には大変な育児が待っているのですから、当院で少しでも癒やされていただきたいですね。
最後に読者へのメッセージをお願いします。

当院では、出産時だけではなく、産褥入院・デイケアといった産後のケアも徹底しています。産後、事情があって家族のサポートが受けられない方や自宅に帰ってからの育児に不安がある方、気分が落ちてしまった……そのようなときには、すぐにご相談いただくようにしています。分娩入院から引き続きの産褥入院でない場合には、感染症予防対策のため母児同室になりますが、全スタッフで丁寧にサポートします。自治体の補助が出る方もいらっしゃるので、制度面に関しても気軽にご相談ください。婦人科系のお悩みのある学生が遠方から来てくださることもあります。女性医師が多いので安心して来ていただけるのではないでしょうか。産前も産後も、さらには思春期、更年期、老年期まで女性の一生に寄り添った診療を続けていきたいと思っています。少しでも不安があるときは、我慢せずにご相談ください。

