石井 義隆 院長、石井 正宏 先生の独自取材記事
航空公園クリニック
(所沢市/航空公園駅)
最終更新日:2026/10/15
1993年の開院から30年以上にわたり、所沢の地域医療を支えてきた「航空公園クリニック」。2025年7月、長く院長を務めてきた石井正宏先生から、息子の石井義隆先生が院長職を引き継いだ。ただし「来院した患者をできる限り受け入れる」という姿勢は変わらず、当日受診の患者も診察している。今回は二人のドクターに、クリニック継承にあたっての思いや、うつ病を中心とする症状、治療に対する考え方について聞いた。二人の穏やかな語りから、ひたむきに患者と向き合い続ける誠実な姿勢が見えてきた。
(取材日2026年9月9日)
親子で受け継ぐ、地域に根差した30年余りの歩み
正宏先生が精神科医を志し、この地で開院した背景を教えてください。

【正宏先生】私は徳島大学を卒業後、昭和大学病院の精神科で7~8年ほど勤務しました。学生の頃は、当時できたばかりだった心療内科にも関心がありましたが、心の不調により直接向き合いたいと考え、精神科を選びました。大学病院では多くの症例から学ぶ機会に恵まれましたが、次第にもっと患者さんの身近な場所で診療したいと思うようになったのです。勤務医を続ける道もありましたが、当時は今ほどメンタルクリニックが多くなかったため、自分の考えで外来診療に取り組める場をつくろうと考え、知人の先生とのご縁もあって1993年にここで開院しました。
義隆院長がクリニックを継承した経緯と、現在の診療体制を教えてください。
【義隆院長】医師を志したことにも、精神科を選んだことにも、やはり父の影響は大きかったと思います。診療の様子を詳しく見ていたわけではありませんが、熱心に仕事をして、疲れて帰ってくる父の姿はずっと見ていました。一緒に働くようになって4年ほどになりますが、多くの患者さんを長年診続け、地域に貢献してきた父を率直に尊敬しています。同じ道に進みましたので「いずれは継承を」と考えておりまして、2025年7月に院長職を引き継ぎました。現在の診療体制としては、ドクターは私たち2人が常勤医として携わり、カウンセリングには非常勤で心理士が2人交代で行っており、受付には常勤・非常勤合わせて5人で対応をしています。長年地域医療に携わってきたクリニックを継承するプレッシャーは多少感じますが、まずは父が築いてきた診療をきちんと続けることを大切にしています。
開院当初と比べ、来院する患者さんの傾向はどう変わりましたか?

【正宏先生】開業当初と比べると、私たちが提唱する言葉ですが「うつ病圏」の患者さんがかなり増えたという印象です。特に1995年頃から増えてきた感覚がありますね。実際に不調を抱える人が増えているのに加え、以前から症状を抱えていた方が、病気についての情報が広がったことで受診しやすくなり、診断につながるケースが増えた面もあるでしょう。また、程度の差はありますが、発達障害といわれる症状を抱える方も増えているように感じます。社会の状況や働き方、病気に対する理解など、患者さんを取り巻く環境は30年の間に大きく変わりました。以前より精神科を受診することへの心理的なハードルが下がったことも、来院される方の変化につながっていると思います。
診断につながる対話を丁寧に重ね、必要な治療へ
「うつ病圏」とは、どのような状態ですか?

【正宏先生】原因が明確でない典型的なうつ病だけでなく、ストレスを背景にしたうつ状態や、適応障害と呼ばれる状態などを含めた症状です。これは一般的な専門用語というより、近しい症状を広く捉えるために私たちが使っている表現です。症状も程度も本当にさまざまで、比較的短期間で改善が見込める方もいれば、長く付き合っていく必要がある方もいます。
【義隆院長】うつ病圏の患者さんの訴えは本当に多様です。時代性でいえば、SNSなど現代ならではの要因が影響することもありますが、年代ごとに単純に傾向を分けられるものではありません。最近は診療の過程で発達特性が背景にあるとわかるケースが増えた印象もあります。
予約なしで来院する患者さんも受け入れられているのですね。
【義隆院長】当院には所沢市内だけではなく、川越市や狭山市、東村山市など、東京都を含む周辺地域にお住まいの方もいらっしゃいます。予約を取って来ていただくこともできますが、それだけに限定せず、予約なしで来院された方も可能な範囲で診察しています。というのも、精神科の受診は、何週間も前から予定できるケースばかりではありません。頑張り続けた結果、急に状態が悪くなったり、仕事を続けるのが難しくなったりするのです。また、会社や産業医との面談で「早めに受診してください」と言われて、その日のうちに来られる方もいます。そうした方に対して、予約がないからと一律にお断りするのではなく、できる限り対応したいと考えています。もちろん混雑時には待ち時間が生じますが、初診予約に1~2ヵ月お待たせするよりも、必要な時に相談できる場所でありたいという姿勢は、これからも守っていきたいと思っています。
クリニックの診療方針「患者さん一人ひとりのお話を丁寧に伺う診療」について教えてください。

【正宏先生】医師の役割は診断し、治療方針を決めることです。そのために、ただ時間をかけて話を聞くのではなく、必要な情報を問診の中で確かめていきます。とはいえ、初診から職場の細かな人間関係や生育歴まですべて把握するのは現実的ではありません。まずはご本人の本来の性格や適応力、現在のご家族の状況、働き方など基本的な背景を確認し、治療方針を検討します。
【義隆院長】私は患者さんの「眠れています」「以前と変わりません」といった言葉をそのまま受け取らず、何時間眠れているのか、薬は飲んでいるのかなど、具体的に確認するようにしています。まず症状の程度や、安全面に関わるサインがないかを確かめ、仕事を続けられる状態か、休職や入院が必要かを判断します。必要であればご家族とも相談し、その方にとって無理のない治療につなげていきます。
「いつもと違う」と感じたらぜひ受診を
具体的な治療としては薬物療法が中心なのですね。

【正宏先生】薬については、ある程度定式化された使用法に沿いながら、患者さんそれぞれに合った処方を心がけています。きちんと薬を使い、継続して通院していただければ、最短で1~2年ほどで良い方向へ向かうことが期待できます。ただし、症状や経過には個人差がありますし、薬を飲んでも十分に改善しない場合は、体のどこかに別の病気が隠れていないか、心理的な要因が影響していないか、発達特性など別の背景がないかなど改めて考えた上で、箱庭療法や認知行動療法などの心理療法を取り入れることもあります。
どのようなサインがあった時に受診したほうが良いのでしょうか。
【正宏先生】受診のきっかけとして多いのは、やはり睡眠の変化です。心配事があって一晩眠れないことは誰にでもありますが、眠れない状態が何日も続くようなら早めに受診していただきたいですね。他にも、不安が強い、仕事に行きづらいなど、普段とは違う状態が続いているのであれば、一人で抱え込まずにご相談ください。メンタルの疾患は長く付き合っていくケースが多く、10年、20年と通院される方もいますが、私はうつ病は改善をめざせる病気だと考えています。なかなか良くならない時期があっても、治療もその方の人生も諦めず、根気強く取り組んでいくことが大切です。
今後クリニックとしてどのような役割を担いたいとお考えでしょうか? 展望をお聞かせください。

【義隆院長】長く通院される方が多い診療科だからこそ、まずこの場所で診療を続けること自体が大切だと思っています。予約なしの方も受け入れているため、混雑時にはお待たせしてしまうことがあります。それでも、調子が悪くなったときに「ここなら相談できる」と思っていただける場所であり続けたいですね。

