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谷井 実 院長の独自取材記事

新居浜協立病院

(新居浜市/新居浜駅)

最終更新日:2021/10/12

谷井実院長 新居浜協立病院 main

愛媛県新居浜市にある「新居浜協立病院」。日雇い労働者や自営の人も適切な医療が受けられるようにと、地域住民が出資をし、1952年に前身となる診療所を開院して発展してきた病院だ。その後、医療生協に加盟して、出資した地域の組合員も病院の運営に参加。健康づくりや町づくりに精力的に取り組んでいる。入院に際して差額のベッド料の請求は一切なく、無料低額診療事業の導入や訪問診療の対応も行い、誰でも安心して医療が受けられるようにさまざまな取り組みを行っている点が特徴だ。院長の谷井実先生に、病院のこれまでの歩みや、診療を行う上で大切にしていることなどを語ってもらった。

(取材日2020年11月13日)

地域の住民が出資をして前身となる診療所を開院

新居浜協立病院の成り立ちについて教えてください。

谷井実院長 新居浜協立病院1

新居浜にはかつて銅山があり、そこは企業城下町でした。企業の従業員には会社の保険制度があったのですが、日雇い労働者、自営の人、漁師などは十分に保証されるものがありませんでした。まだ健康保険制度が十分ではない時代です。そのような中、安くて良い診療をしてほしいと考えた地域住民が100〜200円程度をそれぞれ出資し、1952年に当院の前身となる診療所が開院されました。最初は六畳の部屋に医師と看護師が一人ずつ、自転車1台とポータブルエックス線検査機器1台があるだけの診療所でした。その後、健康保険制度もでき、医療生協に加盟して活動し、少しずつ大きくなって発展していきました。現在は、高血圧や糖尿病の慢性的な患者さんを多く診ています。

地域の方々の出資によりできた病院なのですね。

そうなんです。現在も、出資している組合員や地域住民と一緒に、医療・福祉活動を進めています。月に1回理事会が開かれ、組合員に対して医療生協の職員や院長が病院の状況を説明し、組合員もいろいろと発言します。そして、組合員同士でも、健康に関して話し合いをしたり、体操を行ったりしています。尿や血圧のチェックも組合員で行っています。また、医師は病気を治すということについてはよく知っていますが、健康については知らないこともあるので、保健師なども交えて一緒に勉強しています。普段からよく話をしているので、少し調子が悪くなったときには医師に相談しやすく、病気の早期発見、早期治療にもつながっているかと思います。健康なときこそ、医療の専門家と一緒になって健康の維持、健康向上のための活動をするのが大切ですね。

地域の方々と近い病院なのですね。診療方針はどのようなものなのですか。

谷井実院長 新居浜協立病院2

病院の機能分化を意識しています。病院としての機能、診療所としての機能がそれぞれあると思います。当院としては、大規模病院である住友別子病院や愛媛県立新居浜病院で急性期医療が行われてから、すぐには社会復帰できない方への対応をしたり、自宅に帰れない方を適切な施設につなげたりする取り組みを行っています。また、大きな病院でなかなか引き受けにくい、慢性疾患のある高齢者や、身体的にハンディキャップのある方の感染症や脱水症などの対応もしています。

経済的な心配なく医療が受けられるよう注力

入院にも特徴があると伺いました。

谷井実院長 新居浜協立病院3

入院した際に、差額のベッド料を一切とらないというのは当院の特徴の一つです。ただし、ご本人の希望で個室に入ることはできず、病状で決まります。私が入職した頃からのことなので普通のことだと思っていたのですが、他の地域の方からすると、不思議みたいですね。現在、ベッド数は99床あります。4階が地域包括ケア病棟になっており、主に大きな病院から来て療養を継続している方や、病院に外来通院していた高齢者で急に病状が悪くなった方などが入院しており、46床あります。3階は医療療養型の病床として53床あります。療養型は、医療保険と介護保険の2種類があるのですが、当院は医療保険の病床です。例えば気管切開をしている重症の方や、難病で自宅に帰れないけれど施設で生活するのも難しいという方などが、長期間入院しています。

他にも特徴はありますか?

無料低額診療事業に取り組んでいます。生計困難者の収入に応じて自己負担分が少なくなったり、無料になったりする制度です。経済的な理由から医療にかかれないという人をすくいあげるのに役立ち、助かる人も多い制度だと思います。しかし、病院側としては持ち出しになるので、無料低額診療に取り組んでいる病院は少ないですね。病院では節約するなど、さまざまな工夫をして対応しています。他にも、職員から気になる情報が上がってきたときは、カンファレンスで話し合われ、当院に在籍するケースワーカーに依頼して生活保護の申請方法を説明してもらうこともあります。このような制度を利用することを否定的に捉える患者さんや、制度があること自体を知らない患者さんもいるので、まずは制度があり、利用できることを伝えています。

患者さんのためになる積極的な取り組みが行われているのですね。

谷井実院長 新居浜協立病院4

外来においても、さまざまな取り組みを行っています。例えば、慢性疾患の方に定期的に検査に来てもらい、次回の予約をして帰ってもらうのですが、予約時間に来ない方もいます。そのような場合、放っておくことはせず、病院側から連絡をします。それでも長期間来ない場合は、自宅を訪れます。訪問して話を聞いてみると、「症状がないから病院に行かなかった」という方もいるのですが、血圧を測ってみると非常に高く危険なこともあるのです。数値を見せて、しっかり説明をして、検査に来てもらうようにしています。常にアンテナを高くして、地域の方々を見守り、早めの対応ができるようにしています。歴史を振り返ると、このような考え方は開院当初からずっと受け継がれているものなのだと思います。

これからも地域の人々の健康をサポートし続ける

医師をめざしたきっかけを教えてください。

谷井実院長 新居浜協立病院5

父は医師ではなかったのですが、祖父が医師でした。身近に医師がいたということが医師をめざすきっかけになりました。また、生物学が好きで、解剖学的に人の体の中はどうなっているのだろうという興味がありました。1975年金沢大学医学部に入学しました。大学5年生の時、地域医療の実習で、スモン病の患者さんの話を聞く機会がありました。当時、薬害かどうかの裁判が行われていました。大学では、「原因不明でウイルスの可能性がある」と言われましたが、現場の若い医師の話から、薬害でしかありえないと感じました。その若い医師の勤務先は、無差別・平等の医療と福祉の実現をめざす「全日本民主医療機関連合会」に加盟している城北病院でした。そこで調べてみたところ、愛媛県にも加盟している病院がありました。1981年卒業し、石川県の城北病院で3年間研修医として働き、1984年から当院で働いています。

やりがいや大切にしていることは、どのようなことですか?

ここで働き始めてから35年以上がたつのですが、当時の患者さんが今でも来てくれています。当時は喘息をよく診ていました。大発作を起こして、人工呼吸器をつけた方が2人いらっしゃいましたが、今も通院を続けてくれています。診察をしながら、よく当時の話をしますね。また、40年近く付き合っている糖尿病の方もいます。長くお付き合いができて、かかりつけ医として、やりがいを感じています。どの患者さんも、ゆっくりと話を聞き、専門分野ではないことについても、幅広く聞くことを大切にしています。最初から大学病院に行って相談する人は少ないので、当院で見落とさないようにしっかり話を聞いて、スクリーニングをしています。

今後の展望については、いかがでしょうか。

谷井実院長 新居浜協立病院6

今までどおり、健康な時にこそ、専門家と一緒になって健康向上に努めることが大切です。しかし、高齢になり、病気で寝たきりになることもあります。医療にかかりたくても、病院に行くことができないという方も出てきます。そこで、状況に合わせたさまざまなサポートを行いたいと思っています。超高齢化社会が迫っており、訪問診療は地域的な問題としても必要なことだと感じます。さらに今後は、小さな施設などにも往診が必要になると考えています。当院は中小の病院で、県庁所在地でもないので、なかなか若い医師が来ないのですが、将来的にはまた若い先生に来てもらい、地域の医療を進展させていきたいと願っています。

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