宇都宮 一泰 院長、河野 兼久 副院長の独自取材記事
天山病院
(松山市/いよ立花駅)
最終更新日:2021/10/12
2020年に開業40周年を迎えた「天山病院」は、松山市内の圏域別では特に人口の多い石井地区にあり、入院・外来のみならず、地域の子育て支援を重視した病児・病後児保育事業や健康寿命の延伸をめざした健康診断・脳ドック、産業保健活動など積極的な取組みを見せる。各分野専門の医師を招聘し、外来機能を強化する同院が今後めざすべき地域医療について、宇都宮一泰(かずひろ)院長と河野兼久副院長の2人に話を聞いた。
(取材日2020年6月18日)
地域に根差した医療を提供
開業40周年と伺いました。
【宇都宮院長】当院は1980年に私の父が創業しました。父は医師ではありませんが、「今後必ず到来する高齢化社会を良い形で迎えるために、地域の高齢者を中心に診る病院をつくろう」と決意し、賛同してくれる先生方を募って開院をしたと聞いています。当時私は中学生でしたが、医療施設を運営するにあたって試行錯誤する父の姿を傍で見て育ちました。そしてその想いに共感し、父のイメージする理想の医療・福祉の形を一緒に実現したいと思い、医師の道へ。医師免許取得後は、九州の急性期病院に勤務したのち故郷に戻り、2003年から院長に就任しました。現在では、診療科の拡充を図り、入院、外来、在宅診療まで包括的なサポートを行っています。
診療科はかなり充実しているんですね。
【宇都宮院長】ありがたいことに、脳神経外科をはじめ、内科、小児科、循環器内科、整形外科、リハビリテーション科など、経験豊富な各分野専門の医師に集まっていただきました。おかげさまで充実した診療体制を築くことができたと思っています。特に力を入れているのが、脳神経外科です。愛媛県立中央病院で20年以上、数多くの脳神経外科手術を経験されてきた河野医師を副院長に迎え、1.5テスラのMRIを導入した脳神経外科外来を開設。脳梗塞・脳出血・くも膜下出血や脳腫瘍など、脳の病気を早期に発見することが可能となりました。
【河野副院長】これまでの臨床経験を生かして正しい診断、早期治療を推進していきたいと考えています。このエリアは高齢者の多い地域ですから、認知症を含む高齢者特有の疾患に適切に対応していくことが大事だと思っています。ニーズに合わせて私自身もさらに勉強を重ねたいと考えているところです。
注力されていることは何ですか?
【宇都宮院長】術後や病後の社会復帰を1日でも早くするため、リハビリテーションの提供体制を充実させました。回復期リハビリテーション病棟50床のほか、リハビリ特化型で定員100名のデイケアでは年中無休でリハビリを実施し、リハビリスタッフ総勢58名が日々、身体機能の回復に努めています。また、要介護状態になる原因として認知症、脳卒中、転倒骨折などが上位を占めており、これらを予防することが長く健康でいるための鍵だと考えています。2025年には、認知症患者は高齢者の5人に1人、約700万人まで増加するともいわれており、認知症サポート医が対応する物忘れに関する相談窓口を2年前に開設しました。「物忘れ」に関する外来と「脳神経外科」、「整形外科」および「リハビリテーション科」、それぞれの外来機能を存分に生かし、地域の皆さんの健康寿命を延ばすという視点を大切にしています。
患者の役に立つ存在でありたい
診療モットーを教えてください。
【宇都宮院長】「惻隠の情(そくいんのじょう)」と言いますか、痛みをお持ちであったり、困りごとを抱えておられたりするときは親身になって助けて差し上げたい。そういう自然に湧いてくる想い、グループ理念でもある『36度5分の温かさ』を大切にしています。また日々患者さんを診ていると、診療を通じて自分も学ばせていただいているんだという感覚になりますね。知識のアップデートを欠かさず、エビデンスに基づいた先進の治療や対処法をご提案しています。また、高齢者の場合、薬の出し方によってずいぶん病状が変わる可能性がありますから、日々丁寧な診療を心がけていきたいと思っています。
副院長は長らく後進の指導にも携わってこられたそうですね。
【河野副院長】そうですね。私の好きな言葉に、「やってみせ、言って聞かせてさせてみせ、褒めてやらねば人は動かじ」があります。脳神経外科は、治療によって再び歩けるようになるか、社会復帰できるか否か、結果がはっきりと出る診療科です。やってみて結果が出せなければ「反省」、そして違う方法を試みる「創造」、それを実践する「挑戦」の3つを大切にしてきました。脳卒中など脳の病気は突然起こるため、動揺されるご家族の心のケアも大事です。これまでに数多くの手術を行ってきましたが、患者さんやご家族に心から「ありがとう」と言って帰ってもらえる瞬間は、やはり医師冥利に尽きますね。「先生がいてくれて助かった」という言葉を励みに日々の診療に取り組んできましたし、これからも少しでも患者さんの役に立つ存在でありたいと思っています。
病院独自の取り組みについてお聞かせください。
【宇都宮院長】独自という訳ではありませんが、7年前より松山市の病児・病後児保育事業を受託し、今では1日最大30名、年間3000人を超える病児・病後児をお預かりしています。疾患別の託児室も8室設け、各種感染症にも配慮しています。また、保育中の急な発病も想定し、全国でも早くから「お迎えタクシー」を導入。タクシー会社と協力し、仕事中の保護者に代わって病院スタッフが指定された保育先まで病児を迎えに行きます。また、さまざまな支援が必要な親子をサポートする「成育医療」を得意とする、元松山赤十字病院副院長の小谷信行先生のカウンセリング診療も開始し、先生を頼って全国から問い合わせが入っています。
地域密着型の多機能病院として
こちらの病院は、グループ内で連携を取られているのだとか。
【宇都宮院長】当院は、医療の母体となる天山病院を中心に、介護医療院、老人福祉施設、老人保健施設といった介護保険施設やショートステイ、デイケア、ヘルパー、訪問看護などの在宅サービスと連携しています。住み慣れた地域で自分らしい暮らしを人生の最期まで続けるためには、医療だけでなく介護、生活支援、安全な住まいの確保など相互のサービスが連携し、多角的なサポートを行うことが重要になってきます。いわゆる地域包括ケアシステムですね。それらの相談窓口を設け、誰も迷うことなくワンストップですべての相談が解決できる。水の流れるようなスムーズな連携こそが、当院の最大のメリットだと考えています。
地域の皆さんに伝えたいことは何ですか?
【河野副院長】私は、身内がくも膜下出血で急死したのがきっかけで脳神経外科へ進みました。脳卒中は本人が予期せぬタイミングで突然起こりますが、定期的に健診を受けていれば変化に気づくこともできますから、検査の重要性は今後ますます啓発していきたいです。遅くとも40歳を過ぎたら定期的に健診を受けていただきたいですね。今、当院で進めている認知症予防は、早期に発見して適切に治療を始められれば、進行を抑えていくなど治療への期待ができるものになっています。また血圧をしっかりとコントロールすることにより脳内出血は多くの場合で防げることもありますし、動脈瘤も破れる前に発見すれば大事には至らずに済みます。今までの経験を生かして予防・治療に取り組みたいと考えています。脳のかかりつけ医として頼っていただきたいです。愛媛県立中央病院など近隣との病病連携も密に取り、病前・病後の患者さんのサポートを充実させています。
最後にメッセージをお願いします。
【宇都宮院長】当院は地域密着型の多機能病院として、どのような形にすればより地域のお役に立てるのか、父の代から模索し続けてようやく現在の形にたどり着きました。地域のかかりつけ医として気軽にご利用いただけることが特徴ですし、その上、新たに医療機器を導入し、各分野で豊富な経験を積んだ医師もそろい、専門性の高さも備えることができました。医療、介護、暮らしのことはもちろん、何でも気軽にご相談いただければと思います。天山病院の理念の通り、信頼される心のこもった医療・福祉を実践し、地域のニーズに応えられる良質なサービスの提供をめざし、これからも励んでいきます。