井上 明洋 院長の独自取材記事
井上歯科診療所
(京都市西京区/桂駅)
最終更新日:2025/07/15

阪急京都本線桂駅から徒歩3分の場所にある、半世紀以上にわたる歴史を持つ「井上歯科診療所」。井上明洋院長は、先代院長である父の井上俊男先生から、2020年1月に同院を引き継いだ。1999年に大阪歯科大学を卒業後、同大学の口腔外科学第一講座で非常勤講師を務めた歯学博士である井上院長は、経営を継承した現在も「きっちりと丁寧に」をモットーに、地域に根づいた歯科診療を提供し続けている。また「優しい歯科医院」をめざし、「いたずらに増患をめざすのではなく、地域の患者さん一人ひとりに向き合うことが現在のモチベーションになっています」と語る。医院継承後の変化や今後の展望について井上院長に話を聞いた。
(取材日2025年5月22日)
先代から受け継いだ「きっちりと丁寧に」
事業を正式に継承されたとお伺いしましたが、その経緯について教えてください。

当院は父が開業して60年以上の歴史があります。向日市で開業した後に大山崎を経て、桂駅から徒歩3分の現在の場所に移転しました。私が正式に事業を継承したのは2020年の1月です。父が引退し、私が院長に就任することになりました。当時はちょうど新型コロナウイルス感染症の流行が始まったタイミングで、継承直後は実はとても大きな不安を抱えていました。けれど、先代の頃から通院いただいていた患者の皆さんに支えられ、特段大きな問題もなく乗りきることができました。感染症の流行下にあっても変わらず足を運んでいただいた地域の皆さんには、とても感謝しています。
どのような意志や診療方針を、先代から受け継いでいきたいと考えていますか?
「きっちりと丁寧に」を当院の変わらぬモットーにしていきたいです。父は治療のみならず何事もきっちり丁寧に進める性格でした。私もその姿勢を引き継ぎたいです。また、新型コロナウイルス感染症の流行を経たことで、地域の皆さんの存在のありがたさを痛感しました。今でも先代の頃から来院していただいている方が大勢います。いたずらに増患ばかりに気を取られるのではなく、当院を頼ってくださる方々に向き合ってしっかりとした診療サービスを提供していきたいですね。一方で、患者さんが来院しやすい雰囲気づくりは先代からの課題だと考えていました。そこで父と一緒に働き始めたタイミングで内装を一新しています。これからも患者さんとの丁寧なコミュニケーションを心がけることで、「歯科は怖い」「ハードルが高い」というイメージを変えていきたいと考えています。
長らく診療に従事されていますが、患者さんの層や診療内容は時代とともに変化していると感じますか?

当院は駅からも近くアクセスが良く、近隣に大学があります。そのため、地域の患者さんに加え、仕事帰りのビジネスパーソン、学生の患者さんにも多く通っていただいています。私がここに来て長い時間が経過しましたが、患者さんの層についてはそれほど変化がないように思います。求められている診療内容も大きく変わっていません。ただ、近年では患者さんの予防意識の高まりを感じます。新型コロナウイルス感染症の流行を経て、予防に対する認知や意識が一段階さらに持ち上げられた印象です。
幅広い症例に対応し、光学印象にも注力
先生は口腔外科をご専門に学ばれたとお伺いしています。

はい。口腔外科全般を学びました。大学院では顎関節を専門に学び、顎関節症になると顎の関節にどんな変化が起こるのかを研究していました。また口腔がんや炎症、顎顔面の矯正など、専門性が高く、大学病院で診るような症例の研鑽も積んできました。個人的に、開業の歯科医院は幅広い症例に対応すべきだと考えていますが、当院の場合、親知らずの抜歯や顎関節症の紹介で来院いただく方が多いのが特徴です。実は、日本人の9割ほどは程度の差はあれど、顎関節症といわれています。ここ数年は特に顎関節症による歯ぎしり、食いしばりで歯の痛みを訴える患者さんが増えている気がします。虫歯だと思って来院されたものの、診療の結果、顎関節症が関係していたケースも。年齢はあまり関係ない症状ですし、朝起きてなんだか顎が疲れていると感じている方は、念のため歯科医院をご受診いただきたいです。
妊婦さんの歯科治療も積極的にされているそうですね。
妊娠すると歯茎が腫れてしまう妊娠性歯肉炎が起こりやすくなります。親知らずがある方は、妊娠性歯肉炎によってその部分に痛みが発生することがあります。基本的には出産すると治まる症状ではあるのですが、ケアをせずに放置してしまうと出産後に歯茎が痩せて歯周病に移行してしまう人もごくまれにいます。妊娠中のみならず、その後の生活の質を担保するためにも診察を受けるようお勧めしています。なお、出産後には授乳などによるカルシウム不足で歯茎も弱くなりがちです。できれば、妊娠を考えている方は妊娠前に一度検診を受けられると良いかもしれません。当院では治療の進め方やエックス線撮影などに関して、妊婦さんの体調と安全を最優先に、診療にあたっています。
今後、どのような分野に注力していきたいですか?

光学印象は注力したい分野の一つです。これまで歯型を採る印象採得には印象材という粘土のような材料が使われていました。ただ、印象材は患者さんによっては、嘔吐反射を起こすなど、相性が合わない方も少なくありません。近年では、それらの課題を克服するデジタルカメラや光学スキャナーを活用して歯型を採る光学印象が普及してきました。保険診療でも対応していますし、患者さんのリクエストも増えてきたので積極的に取り入れていきたいです。
相性やコミュニケーションを重視しスタッフを拡充
事業継承以前、以後の院内の体制の変化について教えてください。

機器に関しては早くから先端の物を取り入れてきたので、継承後に大きく変化したことはありません。一方で、スタッフに関しては変化がありました。歯科衛生士は、キャリアが長い人材から新人まで増えてきています。理由はさまざまな層の患者さんに対応するためです。私は患者さんが歯科を選ぶ理由の一つに、人と人の相性やスタッフの人柄があると考えています。技術面やキャリア面はもちろんですが、コミュニケーション面でも、多様な患者さんに対応できるように、スタッフの拡充に努めています。
今後はどのような診療方針で運営されていくのでしょうか?
先ほど「きっちりと丁寧に」とお話しをさせていただきましたが、その根底に「優しい気持ち」があるべきだと考えています。麻酔の打ち方などの技術面はもちろん、心の接し方もとても大切にしていきたいです。大学の恩師からは「患者さんには、自分の大切な人に接するような気持ちで接すべき」と、学びました。その教えは、私にとって非常に重要な気づきを与えてくれるものでした。きっちりと丁寧に、そして優しく診療するとなると診療時間は自然と長くなるでしょう。それでも、可能な限り一人ひとりに向き合えるように最善を尽くしていきたいです。
きっちりと丁寧に診療するとなると患者さんのご理解も大切ですね。

そうですね。二人三脚で診療にあたることがとても大事だと思います。そのため、当院では治療に長期的な時間が必要となる場合には、事前にプランと目標をしっかりと決めて、通い続けていただくためのモチベーションを維持できるよう心がけています。仕事で忙しい方も多いので、繁忙期はなるべく通院間隔を空けるなどの配慮をして、とにかく治療を続けられるように促します。途中で痛くないからと通院をやめてしまうと、その後に行きにくくなるのが人間の心情だと思います。当院では、もしも通院期間が空いてしまってもまったく気にしません。治療を中断するとより症状が悪化する場合もあるので、遠慮なく問い合わせていただき、通院を再開してほしいですね。
最後に、読者の皆さんにメッセージをお願いします。
「きっちり丁寧に」「優しい診療」は、言葉では簡単ですが、日々徹底することは難しいことです。それでも当院は、その大きな目標を実践する、地域に寄り添う歯科医院であり続けたいです。現代社会では、歯科医療や先進の治療に対する情報がちまたにあふれています。しかし、歯の健康を長期的に守っていくためには、情報だけでなく、自分の状態や自分に適した治療方法を知ることが肝心です。当院では事前の問診やコミュニケーションを通じて、患者さん一人ひとりの状態や希望を把握することに努めています。当院にいらっしゃる皆さんには、悩みや不安をしっかりと伝えていただきたいです。治療がしっかりと終わるまで、一緒に伴走させてください。