谷口友則 院長の独自取材記事
長津田皮膚科
(横浜市緑区/長津田駅)
最終更新日:2021/10/12
東急田園都市線の長津田駅のすぐそば、清潔で真新しい建物の2階にある「長津田皮膚科」は今年5月に開業したばかりの新しいクリニックだ。谷口友則院長は、私大の法学部を卒業後、弁護士をめざし勉強していたが、突如一念発起して医学部に進学し直したという異色の経歴の持ち主。誰に言われたわけでもなく、純粋な興味から医学の道を進もうと決めたのだという。医学部での6年間は、信念を持ち、かつ楽しみながら勉学に励んできたのだろう。言葉を尽くして話すその様子からも、充実していた学生生活だったことががひしひしと伝わってきた。自らもアトピー性皮膚炎に悩まされ、皮膚科医を志したという谷口院長に、これまでの道のりや診療へのこだわり、大切にしている恩師や先輩の言葉について、たっぷりと語ってもらった。
(取材日2014年5月29日)
高校時代は青少年赤十字で社会勉強
小さい頃はどんなお子さんでしたか?
ファミコンなど、家のなかで遊ぶ子が多かった頃に、頑張って外で遊んでいたタイプですね。かくれんぼや鬼ごっこ、石の投げ合いなどもしていました。当然小さい頃は生傷が絶えませんでしたよ。友だちの投げた石が後頭部にぶつかって出血したときは救急車で病院へ運ばれました。大したケガではなかったのですが、経過観察のために3日間入院。またあるときは、鬼ごっこをしていて高い塀から飛び降りたら、たまたま壁から突き出ていた釘ですっぱり指を切り、危うく切断しそうになったことも。親には心配をかけましたが、父は「男の顔の創は勲章だ」と言っていました。豪快ですよね(笑)。
中学・高校時代はどんなことに興味を持っていましたか?
中学校ではバドミントン部、高校の時はボランティア活動に一生懸命でした。青少年赤十字という団体に入って、街頭で献血や募金のお願いをしたり、自閉症の子どもの施設に行って一緒に遊んだりする活動をしていたんです。日本赤十字社の神奈川県支部が横浜にあり、そこの会議室を借りていました。毎月1回、横浜に行けるのも楽しみでしたね。活動を通して、得たことはたくさんあります。バブルがはじけて不況になると、募金はぜんぜん集まりませんし、若い人の人口が減ると献血も少なくなる。そんなことを街頭に立ち、身をもって実感しました。社会や経済を身近に感じることができた最初の貴重な経験でした。
医師をめざしたきっかけはなんだったのでしょう?
最初のきっかけは、小学校3,4年生ぐらいの頃に雑誌で読んだ手塚治虫先生の『ブラック・ジャック』です。周囲の評価を恐れず自らの信念に基づき、困った人を助けるところが、幼心にもカッコいいなと憧れました。医師をめざす人には「人を救いたい」とか「社会に貢献したいから」と言う人が多いようですが、私の場合、ブラック・ジャックがヒーローであり、カッコいいと思い、憧れたのがきっかけです。その気持ちから誰かを救いたいと思うようになっていったのは、もう少し後になってからでした。ちなみに私は、一度私立大学の法学部を出ているんです。司法試験の勉強をしている最中に、やっぱり理科系の勉強がしたいと思い立ち、大学をやめ、北里大学医学部を受験し直しました。もともと文系科目よりも理数系のほうが好きで、法学部の受験も数学で受けたくらいでしたから、医学部に進路変更してもそれほど苦労せず、医学部に入ることができました。
皮膚に症状がある患者はすべて皮膚科で診る
医学部ではどのような学生生活を過ごしましたか?
勉強するために医学部に入ったという意識が強かったので、とにかく勉強に集中しました。念願が叶って理系の勉強に集中できるのが楽しくて仕方ありませんでした。同級生より、6年から8年ぐらい年上なわけですが、みんなが「一般教養は面白くない」と言っているなかで、私だけは喜々として勉強していましたね。全然苦痛に感じませんでした。高校卒業後、法学部に入学したときと自分で選んで医学部に入学したときでは意欲も意識も異なり、勉強が楽しかったのだと思います。専門については、私自身、アトピー性皮膚炎と鼻炎に悩まされていたので、なんとか自分の症状を治したくて、アレルギー疾患を扱う科目に進もうと考えていました。アトピー性皮膚炎は皮膚科、アレルギー性鼻炎は耳鼻科、喘息は呼吸器科、この3つのどれかに行きたかったので、病院をまわったり、各科で情報を集めたりしました。いろいろと迷いましたが、最終的には、当時の皮膚科で教鞭を執っていた勝岡憲生教授(現名誉教授)の人柄に惚れて決めました。
どのような先生だったのですか?
あれは大学3年か4年の頃、皮膚科の初めての授業で勝岡教授は、「皮膚に症状がある患者はすべて皮膚科で診る」とおっしゃったんです。そして教室内を回り、私の手をじっと見て「君の手にはこういう症状が表れているから健康状態はこうだね」と言うんです。ずばり当たっていました。さらに「爪や指からも全身の状態が推測できる。皮膚の症状の裏にある全身疾患を見逃さない医者になれ」とも。そんな教授の言葉に感銘を受けて皮膚科に進もうと決めたんです。医師になり大学の病棟で経験を積んでいるときも、教授の言葉は忘れませんでした。じんましんで入院された患者さんにも、ほかに隠れた病気はないかどうか慎重過ぎるくらい慎重に検査し、原因の診断をしっかり行うやり方を身に付けました。もちろん、今もそれを実践しています。
勤務医として経験を積む中で、印象深いエピソードなどありますか?
横浜の一般病院に勤務していたとき、症状がよくなった高齢の患者さんからお中元で、サザエが30個ぐらい、発泡スチロールの箱に入って届いたことがありました。本当は贈答品の類いは頂いてはいけないんですけど、生ものでしたからお返しするわけにもいかず、ありがたく頂戴しました。そういうことは大学病院ではなかったことなので、地域医療ならではの温かみといいますか、本当に地元の人がいらして、感謝してくれるんだなと、とてもうれしく感じたことを覚えています。その横浜の病院には2年間勤務しましたが、「先生の顔、見に来たよ」と、病気が治ったのに通ってくれる方もいたりして(笑)。私が病院を去る時、症状はまったくなかったので「もう病院には来なくても大丈夫ですよ」とお伝えした患者さんもおりましたが、今はどうされているでしょう……。懐かしく思い出します。
開業しようと思われたその理由は?
開業を真剣に考えたのは、大学病院の研修中でした。大学病院というのは、ご存知のように症状の重い患者さんが集まるわけですが、治って退院できるようになっても、退院後の受け皿がない場合が少なくないんです。例えば、高齢の床ずれの患者さん。症状はよくなったのに、家に帰っても薬を塗ってくれる人が誰もいないからと退院させることができないのです。もしこのような患者さんの細かなケアをできるクリニックが身近にあれば、患者さんも家に帰れるし、大学側も安心して患者を送り出すことができて、病棟のベッドの回転率だって上がるはず。だったら、自分がその役を担おう、「あそこの地域には谷口がいるから、あとは安心して任せられるな」と思ってもらえるクリニックをつくろう。そう考えて開業に踏み切りました。長津田を選んだのは、母校である北里大出身の先生がいらっしゃる横浜労災病院や、私が懇意にさせて頂いている昭和大学藤が丘病院、ともにとても近い所に位置し、相談しやすいと考えたからです。また、近隣には他の科のクリニックが沢山あり、連携も取りやすいです。本当にいい場所に開業できてよかったと感じています。
「患者さんの爪を切る皮膚科医」でありたい
いつも診療の際に心がけていることは何ですか?
まず全身を診ることを大切にしています。例えば、アトピー性皮膚炎という病気は診断がとても難しいものなんです。アトピー性皮膚炎の治療目的で受診される患者さんのなかには、実はアトピー性皮膚炎ではない方もいらっしゃいます。患部だけ診て判断しようとすると間違いを起こす可能性もありますから、正しい診断のためにも、常にからだ全体を診るよう心がけています。また、診療においては、再発予防を含めたアドバイスもしています。当院には手の湿疹やアトピー性皮膚炎、じんましんで受診される方が多いのですが、これらの疾患は、処方された薬を正しく塗り、普段の生活に気を付けていれば、完全に治らないまでも、健康な人と同じような生活が送れる場合もあるんです。そこをしっかり理解してもらえるよう、時間をかけて丁寧に説明しています。「よそで診てもらったけど、ぜんぜん治らない」と来られる方もいますが、診てみると診断も治療法も間違っていないんです。ではなぜ治らないか。それは正しい薬の塗り方や副作用について、きちんと説明を受けていない場合が多いように感じます。
診療の際、こだわって実践していることがあるそうですね。
尊敬している皮膚科の先輩から言われた「爪を切る皮膚科医になれ」という言葉を実践しています。爪を切るのにかかる時間は1人につき5分から15分ぐらいでしょうか。当然採算は合いません。でも、爪白癬の患者さんや高齢で目がよく見えない患者さんなどは、爪が切れないために体を傷つけたり、不自由を強いられる場合が多いんです。大切なのは、採算を取ることではなく、患者さんを想いやれる医者になること。そのことを忘れないよう、今もその先輩からいただいた爪切りを使って、患者さんの爪を切って差し上げています。
お忙しい毎日ですが、休日はどのように過ごしていますか?
実は最近、待望の長男が生まれたんです。ですから今は、午後7時に診療が終了したら子供が待つ我が家へ直行する毎日です。まだ昼も夜もなく泣いてばかりの時期ですから、妻の疲れは相当なものです。家に早く帰れた時ぐらいは子供のお世話をしたいと思っております。でも、子どもは本当に可愛いですよ。早く一緒に『こどもの国』とか、いろいろなところへ連れて行ってあげたいです。
最後に、今後どのようなクリニックをめざしていきたいとお考えですか?
皮膚に症状が出て、何科を受診したらいいか迷うとき、まず一番に「長津田皮膚科へ行ってみよう」と足を運んでもらえるようなクリニックにしていきたいと考えています。皮膚に何らかの症状が出た場合はもちろん、例えば足が腫れている時、これは整形外科に行くべきか皮膚科に行くべきか迷いますよね。そんなとき、まず当院に来ていただければ、私が判断して、皮膚科の疾患なら当院で治療しますし、そうでない場合は必要に応じて近隣の診療所や病院などを紹介しますのでご安心ください。街に根付いたクリニックとして地域医療に貢献したいと考えているので、何かお困りのことがあればいつでも頼りにしていただければと思います。