中村 慎 院長の独自取材記事
中村歯科クリニック
(横浜市緑区/長津田駅)
最終更新日:2025/09/11

東急田園都市線・JR横浜線が乗り入れる長津田駅近くに位置する「中村歯科クリニック」。2013年の開業以来、地域の歯のかかりつけ医として親しまれている。30年近く総合病院での診療経験を持つ中村慎院長は、「痛みの少ない治療」「痛くならないための予防」を重視した診療を行っている。同院では、通院が難しくなってしまった地域に住む高齢者に向けて、訪問診療専用の曜日も設けている。病気やけがで体の自由が利かなくなったとき、歯磨きや入れ歯の調整などの適切な口腔ケアが、健康の維持・回復に役立つという。「訪問診療、外来問わず、早めの口腔ケアの大切さを伝えていくことで、多くの人が入院することのない社会にしたい」と話す中村院長に、思いやこだわりなど話を聞いた。
(取材日2025年7月29日)
外来と訪問の両立で支える地域の健康
開業から12年を経て、診療において変化した点や工夫されている点はありますか?

以前は昼休みの時間に訪問診療を行っていたのですが、外来の時間にクリニックへ戻ることを考えると、どうしても少ない人数しか診ることができないと感じていました。そこで思いきって、訪問診療と外来とで曜日を分けることにし、現在は月曜と水曜を訪問診療の日としています。こちらを利用してくださる方は、ご高齢の方が多く、通院が難しい方も少なくありません。そうした現状やニーズにお応えする形で訪問診療を充実させることにしました。その結果、外来は週に2日半ほど減ってしまいましたが、その分、夜の診療時間を延ばすなどの工夫を取り入れています。通院がしやすい時間帯を確保することで、外来と訪問診療の双方にしっかり対応できるよう、バランスを考えながら進めています。
先生が診療で大切にしていることを教えてください。
院内ではお子さんからご高齢の方まで幅広く診療を行っています。患者さんのお話をじっくり伺い、できるだけわかりやすくご説明することで、安心して治療を受けていただけるよう心がけています。治療方法についても、ご本人のお気持ちを尊重しながら一緒に考え、納得して選んでいただいた上で進めていくようにしています。また、痛みの少ない治療を大切にしており、そのためには適切な麻酔も欠かせません。できるだけ痛みを和らげることに配慮しながら、これからも丁寧な診療を続けていきたいと考えています。さらに現在は、治療だけでなく予防歯科にも力を入れており、日常生活でのケアの大切さについてもわかりやすくお伝えしながら、患者さんと一緒に健康を守っていくことを大切にしています。
訪問診療も行っているとのことですが、どのような形で取り組まれているのでしょうか?

開院してから地域とともに年月を経ておりますため、患者さんもご高齢の方が多くなってきました。そのため、訪問診療を利用される方は年々増えていますね。訪問診療はクリニックから6km圏内を対象に、外来とのバランスを考えながら、午前と午後でそれぞれ3件ほどのペースで行っています。平日には訪問診療のみを行う日を設け、その分ほかの日は夜の診療時間を延長しましたので、会社帰りの方にも通いやすい環境になりました。不調を感じてからお越しいただくのではなく、そうならないように早めの段階でチェックしていただくことが大切だと考えています。特に若い世代や働き盛りの方は、なかなか検診の機会を持てないことも多いと思います。まずは今のご自身の口腔内の状況を知ることから始めていただき、気軽に来院していただけたらうれしいです。
適切な口腔ケアが「健康で長生き」の秘訣
勤務医時代には、嚥下機能の維持や改善に力を入れられたのだとか。

誤嚥性肺炎を防ぐため、その手前でできる取り組みに幅広く力を注いできました。例えば、委員会を立ち上げ、患者さんが摂食嚥下をしっかり行えるように、摂取する流動食のような食品づくりについてもアドバイスを行いました。試作と試食を何度も重ねて形にしたものもあります。ご高齢の方は昔の記憶ほど鮮明に残っていることが多く、幼少期に食べたものに近い食感の食事を好まれる傾向があります。そのため、そうした味を再現し、しっかり召し上がっていただけるよう製品の監修を行ったり、正しい食べさせ方を看護師・介護士・ご家族にお伝えしたりもしてきました。
予防歯科でのこだわり、大事にしていることは何ですか?
体の病気とは異なり、虫歯や歯周病といったお口の病気は治療をしても完全に元どおりにすることは難しく、修復が中心となります。だからこそ病気になる前に予防することがとても大切だと考えており、その重要性を丁寧にお伝えするようにしています。また、訪問診療では入れ歯や噛み合わせの調整をきちんと行うことで、身体機能の改善や回復につながればと思っています。医療の現場では以前からしっかり噛めるようになると歩行が安定するともいわれています。私自身も病院勤務の頃、整形外科の先生から、入れ歯がリハビリに役立つと相談を受け、多くの患者さんの入れ歯を作ったり調整したりした経験があります。実際に、入れ歯の調整によって噛み合わせが整うと、全身に力が入るようで、リハビリが進めやすくなり、機能回復につながることを感じてきました。こうした治療を行う上では、患者さんに十分に理解し納得していただくことも大切にしています。
予防歯科に注力する中で、特に患者さんに伝えたいことはありますか?

これまで高齢の患者さんを多く診てきて、何かしらの疾患をお持ちの方は合わせて口腔内の状態が非常に悪い方が多いなという実感があり、若いうちから口腔内環境を整えることがいかに大切かを強く感じています。高齢の方では、寝たきりの方も含めて誤嚥性肺炎が命に関わることがあり、その背景には嚥下障害や口腔機能の低下が大きく影響しています。誤嚥性肺炎は、唾液や食物などが誤って気管に入ることで細菌が肺で繁殖して起こります。だからこそ、口腔内の細菌を減らすためのケアをしっかり行い、さらに摂食嚥下機能の改善に取り組むことが、発症を防ぐ重要な手立てになるのです。私はこれまで療養型医療施設で、長期入院の高齢患者さんを中心に口腔ケアの改善に取り組んできました。その経験を生かし、当院でも誤嚥性肺炎の予防や健康寿命の延伸に貢献していきたいと考えています。
口内環境と体の健康が深く相関していることを伝えたい
診療の中で、大切にしていることを教えてください。

人間にとって大切な欲求である「食欲」をしっかり満たしていただきたいという思いで診療しています。ご高齢の方の食事では、栄養が偏ったり摂取量が少なくなったりすることもあるため、当院では食事指導を通して、その方に合った食べ物の内容や、ご家族と一緒に食事を楽しんでいただくことの大切さをお伝えしています。多くの患者さんは「ご家族と同じものを食べたい」と希望されますし、その時間が生活の中で大きな楽しみになるからです。また、こうした「食」との向き合い方は、ご家族の介護負担を軽減することにもつながります。「どうしたら最期まで食べたいものを食べ続けられるか」をご家族と一緒に考え、その実現を支える診療を心がけています。
今後の展望について教えてください。
引き続き、特に予防歯科の大切さをより多くの方に知っていただき、定期的に歯科医院に足を運んでもらえるよう働きかけていきたいと考えています。お口の中が清潔で歯周病のない方は、免疫力が高く風邪などにかかりにくいというデータや、奥歯でしっかり噛める方は認知症の発症が少ないというデータもあることから、お口の健康は体全体の健康にすごく関わっていると言えると思っています。ですので、どんな病気にもかかりにくい健康な体を作るために、一人でも多くの方のお口をきれいに保ちたいと思っています。こうした取り組みが、結果的に元気で長く自立して暮らせる方を増やすことにもつながればいいなと思っています。
最後に、読者へのメッセージをお願いします。

例えば、高齢になると筋力の低下で骨折しやすくなることがありますが、一見お口とは関係なさそうに思えるかもしれません。でも実は、噛む力と全身の力には関係があって、奥歯でしっかり噛めるかどうかは骨の健康や栄養の取り方にも影響するんです。なかなかイメージしづらいことかもしれませんが、だからこそ一度お口の中をチェックしてみるのも大切だと思います。忙しくてしばらく検診に行けていない方や、治療が途中で止まってしまっている方も、気軽にご自身のお口の状態を見にいらしてください。