椎津 敏明 院長の独自取材記事
マザーズ高田産医院
(横浜市港北区/高田駅)
最終更新日:2024/07/17

横浜市港北区高田の地で開業10周年を迎えた「マザーズ高田産医院」。院長の椎津敏明先生は、東京大学法学部を卒業後、30代で医師になるべく妻の実家がある沖縄に渡り琉球大学医学部に入学。横浜で産婦人科の医長を務め、2013年に同院を開業した。椎津先生がめざすのは、喜びにあふれた「しあわせなお産」。子ども好きで、ときに笑いを交えながら穏やかな口調で話す椎津先生からは、妊産婦とその家族を包み込むような温かさが感じられ、わが子を迎える新米パパにとっても心強い存在になるだろう。
(取材日2023年12月12日)
産後の楽しい育児につながるお産をめざす
先生がめざす「しあわせなお産」について、詳しくお聞かせください。

お産をする場として、妊産婦さんにとって何が必要かと考えたとき、安全なお産であることはもちろん、楽しい育児のスタートになるような「しあわせなお産」にすることが大切だと思っています。なぜなら、お産は大変ですが、生まれてからのほうがもっと大変だからなんですね。育児は決してママ1人で乗り切るようなものではありません。だからこそ、妊娠の始めから出産、産後まで、パパやご家族を巻き込んで、皆で楽しく関わっていく。誕生に至るまでの健診などさまざまなイベントを皆で共有することで、楽しい育児につながるよう導いていくのが当院の務めだと思っています。そのため、当院ではご家族で過ごせるお産の場を提供すること、赤ちゃんとママやパパが安全で温もりのあるスキンシップを十分に取れるようにすること、妊娠中から産後まで助産師が親身に寄り添うことの3つを柱とし、「しあわせなお産」が実現できるよう尽力しています。
具体的にはどのような取り組みをされているのですか。
陣痛が始まると、陣痛室と分娩室、回復室が1つになったマザーズLDRと呼ばれる個室でお産が終わって歩けるようになるまでお過ごしいただきます。ここが一般的なLDRと異なるのは、ご家族そろってくつろげる造りになっていることなんです。上のお子さんがテレビを見たり、はしゃいで動き回ったりしても大丈夫です。疲れたら横になるスペースもあります。妊婦さん自身にとっても、自然な分娩につなげるためには自由に動き回ってリラックスした状態でいることが大切なんです。アロマをたいたり、好きな音楽を流したりすることもできるんですよ。また、緊急処置の際にも対応しやすいフリースタイル分娩台を採用していますので、自由な体勢で出産できるのも特徴です。このマザーズLDRがあることで、当院ではご家族全員が参加できる本当の意味での「立ち会い出産」を実践できるようにしています。
妊婦健診にもこだわりがあるそうですね。

規模の大きな病院では、看護師が外来を担当して助産師は病棟にいることが一般的です。しかし当院では妊婦健診時から助産師がつき、妊婦さんとお話しする時間を毎回設けています。当院には現在19人の助産師が在籍しており、私のカルテとは別に助産師が作るカルテがあります。妊娠の経過や家庭環境などをスタッフ全員が共有できるようになっているんです。最初のうちはあまりお話しにならない妊婦さんも、回数を重ねるうちに慣れてきて悩みや不安などいろいろな話をしていただけます。分娩時には顔見知りも増え、見知ったメンバーがサポートしてくれることで安心してお産に臨めるようになるのではないでしょうか。そうした妊婦さんの気持ちの安定が自然なお産をめざす上で非常に重要なんですね。また、ご主人も一緒に健診にお越しいただくことで助産師とご主人との信頼関係も深まり、産後の育児にパパが積極的に参加するきっかけにもなると思います。
助産師が主役の産医院
助産師さんの人数が多いことに驚きました。

お産では赤ちゃんとママが主役ですが医療機関として主役になるべきは助産師だと思っています。当院では夜間でも2~3人の助産師が待機し、分娩だけでなく夜間の授乳にも24時間体制で対応します。当然、健診時も分娩時も医師は立ち合いますが、医療が前面に出るのではなく、あくまで助産師をバックアップする存在なんですね。それは細かい箇所まで行き届いた助産師らしいケアが妊婦さんにとって必要不可欠だからです。助産師が伸び伸びと楽しんで力を発揮することで、妊婦さんも妊娠を楽しみ、安心して出産に臨み、幸せな母乳育児をスタートできるという理想的な状態につながります。助産師は長く関わっている分、赤ちゃんが生まれた時の喜びもひとしおでしょう。そうしてご家族の喜びに寄り添うことも、両者の信頼関係を強くしていくと思うんですね。私はというと、エコーで赤ちゃんのお顔をなんとか見せてあげようと、時間をかけがちかもしれません(笑)。
クリニックの取り組みや出産の流れを漫画にしてまとめられているそうですね
はい。マザーズ高田産院の雰囲気や取り組んでいることをもっと患者さんに理解していただければと思い、漫画を作りました。4ヵ月間の取材を通して当院の日常をそのまま漫画に再現したんですよ。ウェブ上で自由にご覧いただけます。妊婦健診や立ち会い出産、入院生活がどういったものかを細かく描いています。また、当院の助産師がどのようにお産をサポートしていくのかもわかりやすい形で表現しています。ですので、こちらを読んでいただければご来院いただく前にイメージを持っていただきやすいと思います。当院でご出産されたママやご家族の方はご出産当時の思い出が懐かしく蘇るのではないでしょうか。
開院から10年がたち、来院するご家族の様子などに変化は見られますか。

ママもですがパパたちも立派だと思います。それこそ私たちの世代とは違って、本当に一生懸命ママを支えようとするパパが増えていると思います。また、新型コロナウイルス感染症の流行下ではお子さんの立ち合いに制限があったのですが、先日ようやく解除することができました。お子さんの預け先がないと結局パパも立ち合うことができないという状況になるので、良かったなと思います。当院ではママ同様、パパも裸の胸に赤ちゃんを抱くカンガルーケアを行っているんです。赤ちゃんとの早期接触、早い時期の愛着形成は大切なので、入院期間中にパパも一緒に泊まってもらって赤ちゃんのお世話をするという取り組みも行っています。
誕生の喜びを後世に伝えられる産医院へ
印象に残っているエピソードがあればお聞かせください。

自分には子どもがいないんですが、私は子どもが大好きなんですね。健診についてきた上のお子さんには好きなシールをあげているのですが、どれにしようか一生懸命選んでいる姿もかわいいです。子どもたちというのは、お産のときは最初ははしゃいで遊んでいるんですが、そのうち疲れて寝てしまうんですね。不思議なことに子どもがはしゃいでいるうちはお産があまり進まないんですが、寝たり落ち着いたりすると、そこから進み始めるんですよ。そしてなぜか生まれるときは起きてくる。子どもたちの反応はそれぞれで、本当にかわいいんです。
妊婦さんや、そのご家族に伝えたいことはありますか。
子どもが生まれる前は不安なこと、心配なことが多いでしょう。しかし、それ以上に生まれてきた時の喜びや幸せも感じられていると思います。子どもたちには、「ママとパパは、あなたが生まれてきたことをこんなにも喜んでいたんだよ」ということを伝えたいですね。あなたの存在でパパやママの人生がどんなに輝いたことか、自分よりも大事に思える存在ができたということは本当にうれしいものなんだということを伝えたいです。
最後に今後の展望と読者へのメッセージをお願いします。

現在、産後1ヵ月健診までサポートしていますが、本当はもっと先まで、できれば離乳の時期くらいまでサポートできる体制ができたらいいなと思っています。子どもは大変、お産も大変というイメージばかりが先行していますが、単純に「子どもはかわいい」という、そういう気持ちを社会で共有できるようになればうれしいですし、子どもが生まれてくる瞬間を家族みんなで迎えることには大きな意義があると思っています。子どもが成長したとき、「自分はこんなにも幸せに、喜びに満ちた中で生まれてきたんだ」と感じることができたら、こんなにうれしいことはありません。