椎津 敏明 院長の独自取材記事
マザーズ高田産医院
(横浜市港北区/高田駅)
最終更新日:2026/02/27
横浜市港北区高田の「マザーズ高田産医院」。院長の椎津敏明先生は、東京大学法学部を卒業後、30代で医師になるべく妻の実家がある沖縄に渡り琉球大学医学部に入学。横浜で産婦人科の医長を務め、2013年に同院を開業した。椎津先生がめざすのは、喜びにあふれた「しあわせなお産」。子ども好きで、時に笑いを交えながら穏やかな口調で話す椎津先生からは、妊産婦とその家族を包み込むような温かさが感じられ、わが子を迎える新米パパにとっても心強い存在になるだろう。
(取材日2025年12月11日)
分娩時だけでなく、産前から産後までトータルサポート
昨今のお産を取り巻く状況を受けて、先生の思いをお聞かせください。

無痛分娩が広がり、皆さんの考え方や興味・関心の向く先が変わってきたと感じています。陣痛への不安が強い方にとって、無痛分娩が選べるようになったことは喜ばしいことです。一方で、分娩時の痛みばかりに焦点があたり、それ以外が軽視されているのは危惧しています。妊娠・出産・育児は、日常からかけ離れたとても大きな経験。分娩の瞬間だけを切り取って考えるのではなく、妊娠がわかった時点から産後の育児までを含め、その過程をどんな環境で、誰と一緒に乗り越えていくかという点が大切なのです。安心できる人に囲まれ、支えられていると感じられる中でのお産は、結果としてその後の育児にも良い影響を与えるでしょう。当院がめざしているのは、人生の大切な節目として、家族みんなで向き合える「しあわせなお産」なのです。
自然分娩にこだわっていらっしゃるのですね。
当院がめざすのは、妊娠した時からトータルに診る、助産師中心のお産です。無痛分娩を含む病院でのお産はどうしてもリスクへの対応が注力ポイントとなり、トータルケアとの両立は難しくなります。そのような医療管理型の対応が必要なケースももちろんありますが、ローリスクの方では分娩時に放っておかれたと感じることもあるようです。無理に両方に対応するのではなく、あえて自然分娩を専門とし、当院ならではのお産をサポートしていきたいと考えています。陣痛や出産の過程では、体の中でさまざまなホルモンが働き、状況によっては気持ちが前向きになったり、乗り越えられる感覚が生まれたりします。ただ、その力を引き出せるかどうかは環境次第。孤独や不安の中では、同じ痛みでも何倍にも感じてしまいます。そこで当院では助産師が妊娠中から継続的に手厚くサポートし、妊産婦さんに伴走する自然分娩にこだわっているのです。
助産師さんが中心の体制とはどのようなものですか?

妊婦健診の段階から、助産師がしっかり時間を取ってお話を伺います。別途カルテを作成し、妊娠経過だけでなく、ご家族の状況や不安、希望までチーム全体で共有しています。毎回同じ助産師でなくても、顔見知りが自然に増えていくことで、分娩までに「初めまして」ではない関係性ができあがります。これは産婦さんにとって大きな安心材料になり、助産師側もその方に合うサポートを具体的にイメージできるようになるでしょう。当院では夜間でも2~3人の助産師が待機し、分娩だけでなく夜間の授乳にも24時間体制で対応します。当然、分娩時に医師も立ち合いますが、あくまで助産師をバックアップする存在。助産師が伸び伸びと力を発揮することで、妊婦さんも妊娠を楽しみ、安心して出産に臨み、幸せな育児をスタートできるという理想的な状態につながると考えているのです。
助産師中心の体制で家族の「しあわせなお産」を支える
ご家族、特にパートナーの関わりを重視していらっしゃると伺いました。

育児は出産後からが本番で、特に最初の数ヵ月は想像以上に大変です。その時にパパが「手伝う人」ではなく、「一緒に育てる当事者」になれているかどうかが重要。その意識は、出産後に急に切り替わるものではありません。妊娠中から健診に一緒に来て助産師と話し、赤ちゃんの存在を実感することが大切なんです。分娩時もただ立ち会うのではなく、腰をさすったり声をかけたり、できるだけ参加してもらいます。一緒に乗り越えた経験は、確実にその後の育児につながります。赤ちゃんとの早期接触、早期の愛着形成は大切なので、ママ同様にパパも裸の胸に赤ちゃんを抱くカンガルーケアを実施。入院期間中にパパも一緒に泊まってもらい赤ちゃんのお世話をするという取り組みも行っています。
上の子もお産に立ち会える環境だとか。
陣痛が始まると、陣痛室と分娩室、回復室が1つになったマザーズLDRと呼ばれる個室でお過ごしいただきます。ここが一般的なLDRと異なるのは、ご家族そろってくつろげる造りになっていること。上のお子さんがテレビを見たり、はしゃいで動き回ったりしても大丈夫です。疲れたら横になるスペースもあります。妊婦さんにとっても、自然な分娩につなげるためには自由に動き回ってリラックスした状態でいることが大切なんです。アロマをたいたり、好きな音楽を流したりすることもできます。また、緊急処置の際にも対応しやすいフリースタイル分娩台を採用していますので、自由な体勢で出産できるのも特徴です。このマザーズLDRがあることで、当院ではご家族全員が参加する本当の意味での「立ち会い出産」を実践できるのです。
多くの助産師さんが生き生きと活躍していらっしゃるのが印象的です。

開設時から、助産師中心のお産を支える「助産院のようなクリニック」をイメージしてきました。助産師は全国的にも不足しているといわれています。一方で、主に病棟に待機し、分娩時に初めて妊産婦さんと向き合うのが一般的な現場に不満を持つ助産師も。多くの助産師がやりがいを求めており、妊娠中から産後までトータルに関わりたいと考えているのです。そうした助産師の求めに応えられるクリニックをつくり、熱意ある助産師が活躍できる場を設けることが、良いお産を支えることにつながると考えました。お産の主役はお母さんと赤ちゃんですが、医療側での主役は助産師であるべき。その専門性で妊娠中から産後まで継続的に寄り添い、心のケア、体の変化への対応、授乳や育児の悩みまで含めてトータルに関わることで、「しあわせなお産」を支えているのです。
その先にある喜びを信じ、つらい時には頼ってほしい
近年、感じていらっしゃる変化などあれば教えてください。

無痛分娩が急速に広がる一方で、あえて「自然分娩ならここが安心」とお選びいただくケースは確実にあるとあらためて実感しています。自然分娩は自然に任せて放っておくお産ではありません。むしろ、きちんと支える人がいることが前提なのです。そのことに気づいた方からお選びいただいているのではないでしょうか。選択肢が広がったからこそ、当院の特徴がより明確になってきたと感じています。また、パパたちの意識の変化も大きいですね。本当に積極的に関わろうとする方が増えました。育休制度の整備など、社会の変化も追い風になっていますし、実際に健診やお産に参加することで「自分の子どもなんだ」という実感を早い段階から持てている方が増えているのではないでしょうか。
今後、力を入れていきたいと考えている取り組みはありますか?
産後ケアをさらに充実させられないかと考えています。現在は1ヵ月健診までが中心ですが、本当はその後の時期こそ支援が必要になることも多い。授乳を中心に、もっと先の赤ちゃんとママ、パパを支える取り組みができないかと模索しているのです。当院で働きながら地域で活動している助産師さんも多いので、行政も含めて連携しながら、さらに相談の窓口やつながりを提供できる存在になれたらと思っています。産後の不安や孤立は、早い段階でつながりをつくれれば防げることもあります。当院で出産された方だけでなく、地域のお母さんたちを間接的に支えられるかたちをつくっていけると良いですね。
最後に、これから出産を迎える方へメッセージをお願いします。

妊娠や出産に不安を感じるのは、とても自然なことです。ただ、痛みやつらさだけに意識を向けすぎず、全体を見てほしいと思います。お産は環境やサポートによって感じ方が大きく変わりますし、自分らしくいられることが何より大切です。不安は環境とサポートでかなり変えられると思っています。我慢する必要はありませんし、怖がっても頼ってもいいんです。妊娠中から顔の見える関係を築き、ご家族と一緒に迎えるお産は、きっと後から振り返った時に意味のある経験になります。多くの不安があっても、その先にある喜びを、ぜひ信じてほしいですね。

