高橋 寿保 院長の独自取材記事
高橋内科クリニック
(国分寺市/恋ヶ窪駅)
最終更新日:2025/08/22

西武国分寺線恋ヶ窪駅から徒歩8分の所にある「高橋内科クリニック」。院長の高橋寿保先生は、呼吸器を専門に学んだドクターだ。岡山大学を卒業後、香川県の小豆島でさまざまな疾患の患者を診た経験からプライマリケアを重視。2003年に地域のかかりつけ医を担うため、駅から離れた当地に開業した。ひと言に咳といっても、合併症の有無などにより治療法は異なるため、症状を見極め一人ひとりに適した治療を行っている。呼吸器やアレルギーの疾患は、不安やストレスが誘因となることも多いため、メンタル面のケアにも注力している。そんな高橋院長に、時代による症状の変化や患者に寄り添う同院の特徴について話を聞いた。
(取材日2025年5月22日)
呼吸器の専門を生かし、患者を苦しみから解放したい
新型コロナウイルス感染症の流行が終息して以降、患者さんの疾患にどんな変化がありますか?

気道感染症の患者さんが大幅に増えています。具体的な疾患は、RSウイルスやヒトメタニューモウイルスの他、インフルエンザの流行などがあります。マイコプラズマ肺炎や、百日咳の患者さんも増えている印象です。ウイルスが悪化し肺炎を発症される方もいますね。もちろん新型コロナウイルス感染症の方もいらっしゃいます。これらの状況は、マスク生活が終わったことと無関係ではないと思います。そして、スギ花粉が原因の花粉症の患者さんも多く来院されます。重症の方には舌下免疫療法をお勧めしています。これはアレルゲンを含む薬剤を舌の裏に毎日少しずつ投与していくものです。根気は要りますが、改善が見込める治療法です。ダニアレルギーの方向けの舌下免疫療法もありますので、お悩みの方はお気軽にご相談していただければと思います。
この地に開業して20年以上になります。長期的に見た患者さんの疾患の変化を教えてください。
咳が長引く方や気管支喘息の方が増えました。大気汚染の悪化と、ペットの室内飼いが主流となったことによるハウスダストやダニ、カビが要因として挙げられるでしょう。食物アレルギーについても変化が見られます。エビやカニなどの魚類と小麦が食物アレルギーの主流であることは変わりませんが、最近はナッツで発症する方が増えました。ピスタチオやカシューナッツなどをミックスしたロカボナッツと呼ばれるものを、炭水化物の代用とするロカボダイエットの流行も一因かと思います。日本人の食習慣になかった食品が入って来るとアレルギーは増えるのですが、カシューナッツやピスタチオはそれに該当しますね。ナッツはお菓子やサラダに入っていたり、料理の隠し味にも使用されていたりするので、アレルギーの方は避けることが難しいのです。一方で、魚類や小麦のアレルギーに対する知識は学校で教えていることもあり、普及してきたように感じます。
先生は呼吸器を専門に学ばれたとお聞きしました。そんな貴院の特徴は何でしょうか?

病院を転々としても咳が止まず苦しくて夜も眠れなかったとおっしゃる方が、当院に来られることがあります。咳や喘息は見極めが難しい上に、喘息に鼻炎や無呼吸症候群を合併しているとさらに適切な診断と治療の選択は難しくなります。吸入器使用時の細かい点や薬の使い分けなどが症状からの回復のためには重要ですね。当院は住宅街の中にあって駅からは遠いのですが、それは地域のかかりつけ医でありたいという思いからこの地に開業しました。一般外来だけではなく、国分寺市の健康診断も行っています。また、この度AIを搭載したインフルエンザ検査機器を導入する予定です。この機器で撮った喉の画像から、インフルエンザ感染時に特徴的な症状をAIが判定するという物です。使用開始は2025年冬の予定です。
症状の影に潜む不安を探り、メンタル面もケア
患者さんと接する時に心がけていることは何でしょうか?

患者さんがなぜ当院に来られたかを察することに注力しています。患者さん一人ひとり異なる、困っていることを解決していくことが目標です。病気と心は密接につながっていて、患者さん自身も気がつかない深層心理や潜在意識が、症状を誘発していることは非常に多いですね。発症する症状は具体的に、咳、めまい、動悸、血圧や血糖値の上昇などが挙げられます。体調が急変し慌てて当院に来られる患者さんもいらっしゃいますよ。当院は地域のかかりつけ医なので、地元の方々のカウンセリング的なケアも大切な役割だと考えています。患者さんの心の問題をどうやってケアしていくのか、スタッフ全員で試行錯誤しながら取り組んでいます。
スタッフとの連携がいいと伺っています。
看護師や受付の方が皆さんベテランで助かっています。患者さんによっては、医師には話せないことも看護師や受付になら話せたりするのです。また患者さんが医師からの指導に従えないこともあるのですが、それには必ず何らかの理由があり、そこを看護師が聞き出してくれます。患者さんの病状には、日常生活の背景が大きく関わっていることが多々あるのです。例えば離婚や、お子さんの引きこもり、孤独な子育てなど不安やストレスが症状を増幅させているケースも多くあります。その原因を知ることで、患者さん一人ひとりに適した治療へとつなげていけると考えているので、スタッフたちとの連携はとても大切です。
医師をめざし、呼吸器を専門にされた理由を教えてください。

祖父が歯科医師でしたので、歯科医師になろうと考えていたのですが、両親に医師を勧められ岡山大学医学部に進学しました。大学時代に母が亡くなり、そこで人の死というものを目の当たりにしました。その時に自身が学んでいる医療の重みを実感し、この道を選んで良かったと思いました。循環器に進みたいと思っていたので、同大では第二内科に入局しました。同大の循環器の病院が、第二内科の関連病院だったためです。しかし病院研修から戻ると教授から与えられた学位のテーマは、希望していた循環器ではなく、「喘息」でした。教授の鶴の一声から、現在に至るまで呼吸器系に従事しています。しかし、この道を選択して良かったと思っています。
全人的治療で、穏やかに解決していきたい
卒業後から一貫してぶれないポリシーは何ですか?

卒業後は小豆島に赴任し、一般内科の診療を行いました。しかし島なので内科以外も何でも診ましたし、当直日に救急車の来ない日はなかったですね。寝ている間に耳にムカデが入ったなど、土地柄いろいろな患者さんが来ました。ここで専門以外の診療を多く経験したことでプライマリケアを身につけられたと思います。この経験は開業してからたいへん役立っています。小豆島の次に清瀬市の結核予防会複十字病院で勤務。呼吸器専門病院に10年間勤務した後、開業したのですが、一貫して実感することは、医療に完成はないことです。そのため一生学び続けることがポリシーですね。医学は日進月歩で進化する上、患者さんの数だけ症状も対処方法も異なります。メンタル面のケアも含め、患者さん一人ひとりに適した治療を行えるよう挑み続けていきたいですね。
休日はどのようにお過ごしですか?
小豆島勤務時代に始めたテニスを今も続けています。テニス仲間とは長い付き合いですね。テニスを続けていると夏バテの防止にもなります。炎天下でもテニスはやりますよ。暑くなければ夏じゃないので(笑)。運動の継続は風邪や夏バテの予防になるので、患者さんにもお勧めしています。
今後の展望と、読者へのメッセージをお願いします。

進化が進むAIとどう向き合うかが課題です。患者さんがご自身の症状をAIで調べたことで、不安を増幅させて来院されるケースが増えました。所見を取る前に症状だけで病気を判断することは危険です。このような社会背景も考慮し、全人的な医療を続けていきたいと思っています。また、日常生活で無理を重ねることで自律神経のバランスを崩し、喘息や不眠、胃の不調を訴える方が多く見られます。当院では漢方薬も処方していますが、漢方薬には自律神経やメンタル面にも有用なものもあるので、不調を抱えている方はぜひ相談してください。咳や不調を感じたら、早めに来院しお体を労わってほしいと願っています。これからも患者さん一人ひとりが抱えている問題を、穏やかに解決していけるよう努めてまいります。