右島 富士男 院長の独自取材記事
立川ARTレディースクリニック
(立川市/立川駅)
最終更新日:2024/10/23
立川駅北口から徒歩3分。2010年よりこの地で診療を行っている「立川ARTレディースクリニック」は、不妊症治療と不育症治療を専門とするクリニックだ。右島富士男院長は、北里大学病院や三菱化学生命科学研究所で多くの研究実績を残し、スタンフォード大学やノースウェスタン大学への留学も果たしたドクター。当時の仲間たちと同院を立ち上げ、世界レベルの不妊治療を追求している。妊娠の確率を少しでも高めていくため、妊娠しやすい体づくりを重視。食事・睡眠・運動などの具体的なアドバイスやサプリメントの提案を交えながら、生活習慣の改善をサポートしている。「不妊治療は、家族をつくりだす医療です」と話す右島院長に、これまでの経歴や、不妊治療において重視している点について聞いた。
(取材日2024年4月3日)
立川の地で、世界レベルの不妊治療をめざす
まず先生のご経歴からお聞かせください。
北里大学を卒業後、同大学病院の産婦人科チーフレジデントや助手を務め、大学院に進学。国内留学した三菱化学生命科学研究所では、齧歯(げっし)類の卵巣凍結保存の成功と凍結卵巣融解の同種齧歯類への卵巣移植の成功とともに、自然交配による産子の作成に成功しました。博士号は3年で取得しています。その後はスタンフォード大学やノースウェスタン大学に留学。帰国後は不妊・不育症治療の専門病院である大阪市の「IVFなんばクリニック」で研鑽を積み、2010年10月4日に当院を開業しました。この日を選んだのには意味があるんですよ。「七転び八起き」という言葉は「だるまさんが転んだ」で知られる中国禅宗の開祖である高僧に由来があり、その8回目に起き上がったのが10月4日なんです。私も転びながら人生を歩んできましたから、この日を当院の起き上がり、始まりの日としました。
国内外で研鑽を積んでこられたのですね。
そうですね。当院は、三菱化学生命科学研究所やスタンフォード大学で一緒に研究をしてきた仲間たちと立ち上げたクリニックです。培養士のリーダーは、三菱化学生命科学研究所で知り合った生殖工学のスペシャリスト。看護師も経験豊富なスタッフぞろいで、総勢35人で不妊治療に取り組んでいます。実は私が医師をめざしたのは、私自身が幼少期に重い病気を患っており、同時期に大切な家族を婦人科の病気で亡くしたことがきっかけでした。まるで私に命を預けるように亡くなった家族を思うと、婦人科の病気に悩む方を救うことが私の使命だと言われたような気がしました。その思いのままに産婦人科の医師としての道を進んできましたが、国内外で素晴らしい先生方やスタッフに囲まれて経験を積むことができたのは、今も大きな財産となっています。
国内や海外での、不妊治療の現状を教えてください。
体外受精は国内でも広く行われており、他国と比べても採卵数の割合は多いです。ところが妊娠率を見てみると、残念ながら他国と比べてとても低いんですね。さまざまな要因がある中で、大きいのはその方法の違い。日本では「自然周期」の体外受精が一般的ですが、世界で標準とされているのは「刺激周期」の体外受精です。そして患者さんに正しい情報が伝わりにくいことも、問題点の一つではないかと思っています。
生活習慣を見直して、妊娠しやすい体づくりを
患者側も知識を持つことが大切ですね。
そのとおりです。例えば「混み合うクリニックは良い」と思われがちですが、考えてみてほしいのです。それは「何度も採卵を行う必要がある患者さんが多い」ということかもしれません。もし必要がなければ、つまり少ない採卵回数で妊娠に至ることができれば、そのほうが望ましいのではないでしょうか。患者さんの望みは通院ではなく妊娠なのですから。ならば少ない採卵回数で妊娠に至るためにはどうすれば良いのか、それには妊娠しやすい体づくりが基本です。このような知識を患者さんと共有していかなければ、ただ時間だけが過ぎていってしまいます。
妊娠しやすい体づくりについて、具体的に教えてください。
まずは食事・睡眠・運動などの生活習慣を見直すことが第一歩。「食事」では、タンパク質の摂取量を増やし、炭水化物を減らしましょう。一度にたくさん食べられなければ回数でカバーしたり、サプリメントを活用したりするのも良いでしょう。「睡眠」は体の感度(センサー)を上げてくれるもの、8時間以上取ってください。睡眠が不十分になると、体が胚を胚だと認識できず、異物と認識して排除してしまいます。そして適度な運動を。ジムで過剰に運動しては逆効果ですから、ウォーキングを取り入れるのが良いでしょう。これらに気をつけながらストレスを減らし、体のコンディションを整えていくことが大切です。
診療の際、どのようなことを心がけていらっしゃいますか?
真剣な患者さんには、こちらも真剣に向き合っています。中には「この治療が最後かもしれない」と、わずかな希望を求める方もいらっしゃるんです。その1回のチャンスを大切に、その方にとって最良の結果をめざして治療に取り組んでいます。不妊治療において一番頑張っているのは、当事者である患者さん自身です。これまでの経験を通して一生懸命に取り組むことがいかに大切か、患者さんからたくさんのことを教えていただきました。その努力に報いるためにも、私たちも全力でサポートしたいと思うのです。
不妊治療では、医師と患者の信頼関係が大切
不妊治療には年齢や回数のリミットがありますね。
まず保険が適用されるのは、治療開始の時点で女性が43歳未満であること。さらに40歳を超えると、3回までと治療回数も制限されます。そして費用の問題だけでなく、人間は誰しも年を取るのです。年齢を重ねるほど、そのままでは妊娠が難しくなるんですね。先ほど挙げた食事・睡眠・運動に、より気をつけなければなりません。年齢を重ねたからこそ必要になってくる栄養素も多々あるんですよ。お化粧やファッションが年齢によって変わるように、ミトコンドリアの活性など年齢に応じて目を向ける先が少し変わります。また甲状腺の病気や、糖尿病や高血圧、メンタルの病気などを患っているのならば、そのことにも向き合う必要がありますね。そして医師のアドバイスをきちんと守り、必要な薬は服用すること。これらが守れないと治療は困難です。
先生との信頼関係が大切ということでしょうか?
はい。信頼関係は欠かせません。これまでにいくつものクリニックを回り、最後に当院にたどり着いた方もいらっしゃいます。どの診療科も同じでしょうが、不妊治療でも先生によって方針はそれぞれ。当院にお任せくださるからには、私を信頼してほしいのです。妊娠しやすい体づくりのために、不妊治療でできることは一部に過ぎません。土台には患者さんの年齢や生活習慣があり、年齢はどうしようも動かせないもの。「生活習慣」の改善がポイントとなるのです。私はそのために、医師として正しい情報を伝えます。本気で妊娠を望まれるならば、その言葉を信じて取り組んでみてください。一緒に頑張っていきましょう。
最後に、今後の展望をお聞かせください。
幸せな家族をつくり、少子化対策の一翼を担えたら。そのような気持ちで長年不妊治療に携わってきましたが、国内の不妊治療は、現時点ではまだ些細な対策にしかなっていないと感じています。また妊娠を望んでいても、早発閉経や子宮内膜症など、婦人科の病気で治療を諦めている方もいらっしゃいます。このような問題にも積極的に取り組み、これからも一人でも多くの患者さんの希望をかなえていきたいと思っています。