糖尿病には食事療法と運動療法
無理なく続けて合併症を予防
たもり内科クリニック
(立川市/立川駅)
最終更新日:2023/06/22
- 保険診療
糖尿病対策として食事療法や運動療法が重要と聞いても、どのように実践していけばいいのか悩んでいる人もいるだろう。健康診断で血糖値の異常を指摘されたら「食事療法と運動療法はできるだけ早く開始してほしい」と、糖尿病の外来に対応する「たもり内科クリニック」の多森芳樹院長は指摘する。多森先生は、糖尿病の進行抑制を図り、三大合併症である網膜症、腎症、神経障害などを予防するための取り組みを続けてきた。失明、下肢切断などのリスクもゼロではない糖尿病のダメージは深刻だ。多森先生は生活習慣の変化とともに糖尿病患者が増加し続けている点にも警鐘を鳴らす。糖尿病患者の身近な相談所として長年診療にあたってきた多森先生に、日常生活の中で無理なく食事療法と運動療法を続けていくポイントなどを詳しく聞いた。
(取材日2023年4月24日)
目次
糖尿病は薬だけではなく、食事療法と運動療法も毎日続けることで深刻な合併症の予防を図る
- Q糖尿病の治療において食事療法がなぜ大切なのでしょうか。
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A
ほとんどの糖尿病はいわゆる2型糖尿病で、発症メカニズムはいまだ解明されていませんが、遺伝的な要因に食べ過ぎや運動不足などが加わると発症しやすくなるとの見方が一般的です。体内で血糖値を下げているのは膵臓から分泌されるインスリンですが、内臓脂肪が多くなるとインスリンの働きが抑制されてしまいます。実際、食べ過ぎによる内臓脂肪型肥満から糖尿病を発症している人も少なくありません。そこで、食事療法による体重のコントロールを図ることが重要です。食事療法とは本来は適切な量の栄養を摂取していくこと。よく食事制限などと表現されますが、スタート時に栄養過多な人が多いため、結果的に制限になっているのです。
- Qカロリーコントロールについて教えてください。
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A
糖尿病の食事療法は基本的にはカロリーコントロールになります。摂取するエネルギー量の適正化を図るのです。適正カロリーは例えば身長160cmの標準的な生活をしている人ならば1日あたり約1700kcalになります。このうちの約半分を糖質から摂取するのが理想的です。三大栄養素である糖質、タンパク質、脂質を大体6:2:2が目安になります。もし、カロリーコントロールで血糖値が下がらないようならば、次に糖質コントロールを試します。三大栄養素の中で血糖値に直結しているのは糖質ですが、あくまでも栄養バランスに注意しながら摂取カロリーを適正化していくのが優先される点に注意してください。
- Q運動療法についても教えてください。
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A
運動療法は筋力トレーニング、有酸素運動、ストレッチが基本です。血糖値を下げるには食事で取ったブドウ糖を血管から筋肉の中にしまい込んでいく必要がありますが、それには食後10〜30分ほどで行う筋力トレーニングが有用です。食後1時間半〜2時間後の有酸素運動も良いでしょう。ストレッチはいつでも構いません。運動は「いつやるか」が非常に重要です。くれぐれも空腹のまま運動して、その後に食事をするのは避けてください。栄養の吸収を進め、かえって太りやすくなります。体重管理のためには運動時の適切な水分摂取も心がけましょう。体重が減ったと思ったら単なる水分不足だったというようなことのないようにしてください。
- Q具体的に日常の中でどんな点に注意していったら良いでしょうか。
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A
特に標準的な和食ならばカロリーも栄養バランスも自然と適正になるので、身構えることはありません。外食が多いならば、今はガイドブックも数多く出版されているので参考にしてください。ただ、丼ものや麺類などの単品ものや、ジュース類は避けましょう。食物繊維が豊富な野菜、海藻、きのこなどを食事の最初に食べることで血糖値の上昇を穏やかにすることが図れます。また、日常生活の中でできるだけ歩くように心がけてください。運動はスクワット、片足立ち、つま先立ちなど簡単なものでも構わないので毎日続けていきましょう。無理なく持続するのが重要です。
- Q食事療法や運動療法を怠った場合のリスクを教えてください。
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A
糖尿病は高血圧症、脂質異常症を起こしやすく、さまざまな生活習慣病の引き金になります。また、糖尿病の三大合併症といわれている網膜症、腎症、神経障害はいずれも深刻な結果を招きがちです。透析をしなければいけなくなったり、失明や下肢切断のリスクさえあります。下肢切断後の余命は平均して5年未満というデータもありとても深刻です。さらに、動脈硬化から脳梗塞や心筋梗塞にかかりやすくなるなど、命の危険さえあるのです。糖尿病は新薬開発も盛んで、血糖値の改善が期待できる薬も数多くありますが、やはり、それだけでは不十分。しっかりと食事療法と運動療法を続けながら、いかに糖尿病の進行抑制を図るかがポイントです。