渋田 拓也 院長の独自取材記事
惠仁クリニック
(江東区/東大島駅)
最終更新日:2025/08/07

団地の立ち並ぶ住宅地に「惠仁クリニック」はある。長年地域医療を支えてきた前任の医師から、2025年に同クリニックを継承した渋田拓也院長。外科から内科への標榜科目の変更と併せ、午前診療のみだった体制を午後診療まで拡大するなど、地域のニーズに応える新たな医療体制を構築した。「患者さんがいろいろなクリニックをはしごしなくて済むように、内科領域であれば一手に引き受けたいと思っています」と語る渋田院長は、小学生の時に病気を患い、医師に支えられた経験を持つ。その原体験が「わかりやすく通いやすい医療」という診療理念につながっているのだろう。傾聴を大切にし、患者一人ひとりの生活背景に優しく寄り添う渋田院長に、地域医療への思いを聞いた。
(取材日2025年7月10日)
かかりつけ医として地域に密着した内科診療を行う
継承に伴う変更点などございますか?

2025年に前任の先生から引き継がせていただきました。以前は外科を標榜し、午前中のみの診療でしたが、私が院長に就任してからは、内科の診療を行っています。そして大きな変更点は午後診療を始めたことです。前任の先生もご高齢になられて、この数年は午前中の診療に集中されていたと聞きます。一方私は、地域の方々にとってより通いやすくなるようにとの思いもあり、午後の診療を行うことにしました。電子カルテも導入して、診療の効率化も図っています。ただ、根本的な思いは前任の先生と同じです。地域に寄り添う医療を続けていきたいという点は変わりません。特別なことを行って差別化を図るクリニックではなく、先代の地域の皆さんを思う気持ちを引き継ぎながら、少しずつ時代やニーズに合わせた形にしていければと思っています。
この地域にはどのような印象をお持ちですか?
私は九州出身で、東京にはご縁があって来たのですが、この地域は都営団地が多く、住宅が集まっている印象です。現在は圧倒的に75歳以上の高齢の患者さんが多いですね。以前、午前診療だけだった関係もあり、働き盛りの世代の方は少ない状況です。土曜日には来ていただけることもありますが、現在は平日の午後も診療を行っているので、お仕事帰りの時間帯にもお越しいただけるようになればと思っています。当クリニックの周りには比較的クリニックが少ないため、長く続いたクリニックがなくなってしまうと、特に高齢の方は大変になってしまいます。だからこそこの地での診療を継続できればと思い、引き継がせていただいた経緯もあります。老若男女問わず、ご家族皆さんが年代に関係なく来ていただけるような場所になれればと考えています。
どのような思いで医師になられたのですか?

実は私、小学生の時に病気になり、中学1年生の時に再発して、2回の入院を経験したことがあるんです。計9ヵ月、学校も1年ずつ休みました。その時に病院と関わる機会が多く、医師や看護師さんに支えていただいた記憶があります。高校3年生になる頃、当時の主治医の先生から「他になりたいものがなかったら、医師になってみたらどうか」と言われたんです。医師は、もともとあまりめざしたくない職業でした。というのも、自分と同じ病気で亡くなられた方もいらっしゃいましたし、患者さんのつらい姿を見ながら治療するのは自分には合わないかなと思っていました。けれど当時、医師や看護師さんから支えていただいたことへの感謝の気持ちも大きく、この道を選択しました。今は自分がそれに近いことができているかはわかりませんが、自身の闘病体験が今につながっている部分があるかもしれません。
わかりやすい医療、通いやすい医療の提供をめざす
発熱の外来や生活習慣病の診療について教えてください。

発熱の外来は、予約にも直接の来院にも両方対応しています。継承前は予約なしで診療を行ってきた経緯もありますし、高齢の方は電話をかけずに直接来られることも多いんです。そういった方をお断りすると地域医療として成り立ちませんから、両方受け入れています。ただ、事前にお電話いただければ発熱している方とそうでない方の動線を分けるなど、感染リスクを減らせるので助かります。生活習慣病については、高血圧症、脂質異常症、糖尿病を中心に診ています。患者さんと接する際、一番大事にしているのは傾聴です。普段の生活やお考えをお聞きして、その方に合ったご提案をしていきます。私はできる限り薬は少ないほうがいいと思っているので、生活習慣を改めることで薬を減らせる可能性もお伝えしています。いきなり全部を頑張っていただくのではなく、生活の中で一つでもいいから改善できることを見つけて、少しずつ取り組んでいただければと思っています。
睡眠時無呼吸症候群の治療にも力を入れているそうですね。
睡眠時無呼吸症候群は潜在的な患者さんが多く、実際に治療につながっているのは5%くらいという話もあります。日中の急な眠気で事故につながるケースもありますし、長期的には高血圧症や心不全、糖尿病のリスクにつながる他、認知機能への影響も報告されています。早いうちから対応できれば、そういったリスクを減らすことにもつながります。症状としては、いびきが大きい、呼吸が止まっている瞬間がある、朝起きた時に頭が重い、日中の集中力低下や急な眠気などがあります。高血圧症を患う方で、こうした症状が少しでもある場合は受診をお勧めします。当クリニックでは検査から治療まで対応していますが、メーカーさんと連携して治療用マスクの貸し出しも行っています。睡眠時無呼吸症候群の疑いで困っている方に、きちんと対応していきたいと考えています。
患者さんと向き合う上で大切にしていることをお聞かせください。

わかりやすい医療、通いやすい医療を心がけています。何か不安があったときにかかりづらいクリニックにするようなことは、かかりつけ医としてあってはいけないと思います。患者さんがいらした際に「今自分はこういう状態でこういうことに気をつける必要がある」ということが明確になって、治療にも積極的に臨んでいただけるようにしたいんです。患者さんの生活背景を踏まえながら、健康寿命の延伸を手助けすることをめざしています。私はあまり患者さんに厳しくできないタイプで、どちらかというと、寄り添いながら一緒に考えていくスタイルだと思います。
スタッフとチーム一丸となり、地域医療を支える
スタッフさんとの連携について教えてください。

日々のあらゆる業務は、スタッフとの緊密な連携なしには成り立ちません。例えば、患者さんが来られて最初の窓口になる受付スタッフの対応一つで患者さんの表情も変わってきます。診療の都合上、お待たせしてしまう場合の声かけや、移動されるときのサポート、そういう行動の一つ一つが患者さんの満足度につながります。業務上、ダブルチェック、トリプルチェックできることでミスも防げます。受付スタッフにも看護師にも、本当にいろんな側面で助けられていると感じますね。患者さんが「あの受付スタッフの方が優しかった」「看護師さんが親切だった」と感じていただければ、それがクリニック全体の評価にもつながります。私一人では何もできないので、チームで地域医療を支えているという意識を大切にしています。
教員免許も取得されているそうですね。
ええ。中学と高校の数学の教員免許を持っています。大学時代に家庭教師のアルバイトをしていて、教える楽しさや子どもたちが成長していく姿に刺激を受けました。いつかきちんと形にしたいと思い、医師として働きながら並行して免状を取得しました。その経験から学んだのは、人にわかりやすく伝えることの大切さです。医師も患者さんに説明することが多い仕事ですから、理解度に合わせて説明の仕方を変えたり、図を描いて説明したり、相手に伝わることを第一に考えています。子どもたちと接する中で培ったコミュニケーション力も、今の診療に生かされていると思います。
今後の展望と読者へのメッセージをお願いします。

これからも、患者さんがさまざまなクリニックをはしごしなくて済むように、内科領域であれば当クリニックでカバーできるよう努めていきます。そうして、この地域に根差した医療を続けていきたいです。近隣にお住まいのいろいろな世代の方に頼っていただけるよう、少しずつ認知されていくことをめざしています。特別なことを行うクリニックではありませんが、地域の皆さんの生活のよりどころの一つになれればと思っています。何か困ったことがあれば、お気軽にご相談ください。