小林 徹 院長の独自取材記事
おかの小児科
(江東区/門前仲町駅)
最終更新日:2025/07/10

観光客でにぎわう門前仲町から橋を渡り、閑静な住宅街の中にそびえるタワーマンションの2階に「おかの小児科」はある。2013年に岡野周子名誉院長が開業した同院は2025年4月に院長を交代した。小林徹院長は、「岡野先生が地域で20年以上築いてきた信頼関係を大切にしながら、新しいことにもチャレンジしていきたい」と語る。群馬大学を卒業後、小児循環器科の三次救急施設で勤務してきた経験から、救える命を増やしたいと川崎病の薬の研究や、国立成育医療研究センターでの子どもと妊婦に対する医療技術の開発に携わるなど、長らく研究分野に関わってきた小林院長。そんな小林院長に、臨床医の道を選んだ理由や歴史ある同院を引き継いだ思いなどを聞いた。
(取材日2025年6月14日)
これまでの知識や経験を生かしていく
こちらのクリニックの特徴を教えてください。患者さんはどんな症状の方が多いですか?

当院は地域に根差した小児科とアレルギー科のクリニックです。一般診療のほか、予防接種や乳幼児健診も行っています。花粉症治療では舌下免疫療法も行っております。また、私は地域の7つの保育園の園医と小学校の学校医も務めています。症状についてですが、発熱や咳、鼻水、嘔吐など感染症の訴えが最も多いですね。他には便秘やアレルギー、皮膚疾患などです。乳児湿疹や乾燥肌のせいで湿疹が長く続く患者さんは多いですね。以前勤めていた国立成育医療研究センターでは、アトピー性皮膚炎や食物アレルギーの治療の開発に関わっていたのですが、幼少期に皮膚をツルツルとしたきれいな状態にしておくことは、将来食物アレルギーの発症リスクの軽減にもつながるんです。そのような知識や情報を診療に生かし、患者さんにより良い医療を提供できるように努めています。
院長に就任したきっかけとこれまでのご経歴を教えてください。
群馬大学を卒業後、最初の10年は小児循環器科の三次救急施設でICUなどでの処置が必要な重症患者さんを担当しました。その経験から今の技術では救えない命を救いたいと思い、日本全国の医師に協力してもらい、川崎病の薬物療法における新たなエビデンスを確立するための研究を行い、薬の効果の実証に心血を注ぎました。このことは国内外の医療に大きな影響を与えたと思います。さらに、薬理学を学ぶためカナダのトロントに2年間留学し、その後は国立成育医療研究センターで子どもや妊婦さんへの医療技術の開発に関わりました。しかし、社会の役に立っても医師として目の前で困っている人に対し何もできていないと考え、当院の募集を人づてに聞き応募したところ縁あって院長になりました。
院長としてクリニックを継承し、大切にしていることは何ですか?

院長となって最初にスタッフに伝えたことは、今後クリニックとして「VMV」、すなわち「ビジョン(V)」「ミッション(M)」「バリュー(V)」を持つということです。どういうクリニックであるべきかのビジョンを示し、そのためにどんな目的を持ち、何をしていくかを明確にします。私の考えるバリューとはスマイルですね。子どもたちが笑顔になれることが一番重要です。笑顔の伝染で、子どもの笑顔によって周りの大人たちも笑顔になれるからです。今後当院で私のカラーを出していくにあたっては、必ずスタッフに変えていく内容を提示し、その内容に恥じないように努めていきたいですね。新しいことを始める時は、スタッフ全員で何がベターなのか一つ一つ議論をして決めていきます。当院の目標は、信頼関係を最も大切にしながら医療現場で笑顔を提供することです。
与えられた場所で常に最善を尽くす
患者さんと接する時に心がけていることは何ですか?

子どもが怖がらないように、目線を合わせることですね。診察時は子どもの目線の高さに合わせるため床に膝をついたりもしています。また白衣を怖がって泣いてしまう子もいるため、院内では白衣は着用せず胴体が長すぎる犬のTシャツで通しています。「今日はどんな犬かしらね」と親子で話しているのを聞くと、診療の中でクスっとした笑いが生じるきっかけにもなっているかなと感じます。診療の際、親御さんには子どもの具合が悪くなったらどうしたらいいとか、こういう症状が出たら救急科外来にかかったほうがいいといったことなども含めてご説明しています。科学的にこの治療法がいいと思っても、お子さんの状態やご家族の希望も聞き、一人ひとりに最も適切な治療を提供するように努めています。また当院は小児科をメインにしていますが、親御さんの具合が悪い時には親御さんの診察もしています。風邪の診察や舌下免疫療法を希望する親御さんも多いですね。
スタッフについて教えてください。
当院には名誉院長の岡野先生と私のほか、9人のスタッフがいます。通常、看護師2人と事務2人が勤務しています。私は長い間開発に携わり、臨床から離れていた上、クリニックの運営は初めてなので、スタッフたちの力がなければとても立ち行きません。日々の業務のすべてにおいて彼女たちに助けられていて、本当に感謝しています。スタッフたちは岡野先生の頃からのベテランばかりで患者さんたちに詳しいため、診察の際に必要な情報なども教えてもらい、とても助かっています。
医師をめざし、小児科を専門とした理由は何でしょうか?

高校3年生の時に人の役に立つ医師になりたいと思ったのがきっかけですね。専門は初めは外科をめざしていたのですが、将来的に再手術が必要となるほどの腕のケガをしたため断念しました。眼科も考えたのですが、私より先に小児科の医局入りを決めていた友人に声をかけられたことがきっかけで小児科に進みました。大学卒業後に小児循環器科で研鑽を積んだのは、先輩に小児循環器科に連れられそのまま医局長に決められたからです。節目ごとになぜか人に決められた道を歩んできて、今回当院に来たのが初めて自分で下した決断でした。ただ、その時その時に与えられた場所で一生懸命やっていれば、結果は必ずついてくるものです。いつも自分がその時にいる場所でベストを尽くすように努めています。
前院長が築いた信頼関係を守りつつ新しいことにも挑戦
お忙しい中、休日はどのようにお過ごしですか?

料理が趣味なので、主夫をしています。トロント時代から始めたうどん打ちは、累積1トンを越えました。さぬきうどんの地、香川県から取り寄せた粉を使い24時間かけて打つうどんはおいしいと周囲にも好評で、製麺したものを全国の小児科医に送っています。実はトロントの留学時代、私のうどんを食べたカナダの方に「出資するからうどん屋を始めろ」と言われたのですよ(笑)。パスタ系もイタリアンレストランのレベルに達していると思います。昨年にはからすみ作りにもトライしていて、こちらも好評なので周りの方々に差し上げています。
今後の展望をお聞かせください。
当院は岡野先生が20年かけて地域との信頼関係を築いてきたクリニックです。その信頼を大切にしながら、これまでと同じことだけではなく新しいことへのチャレンジも大切にしています。例えば、症状が安定している方や舌下免疫療法の方向けにオンライン診療も開始しました。今後クリニックの空いている時間を選んで枠を増やしていく予定です。3月からは診療予約時に問診もできるシステムを導入しました。これにより初診時の問診票の記入がなくなり、その時間を診察に回せています。今後もIT技術を活用して患者さんが受診しやすいクリニックにしていきたいですね。さらに、アロマセラピーに関して研修や研究をしているスタッフもいるため、今後は子育てで疲れているお母さんたちの悩みを聞きながらアロマでリラックスしていただく、悩み相談を行う外来のような仕組みも導入したいと考えています。
最後に、読者へのメッセージをお願いします。

医療の本質は心だと思うので、地域に根差し、心の通った診療を提供していきます。お子さんの状態について不安があれば、相談だけでも気楽にいらしてください。お子さんの鼻水の吸引をするためだけに来てもらっても構いません。また、当院は小児科をメインとしていますが、調子が悪い時には、親御さんにも気軽に受診してください。また私は、診療の傍ら、こども家庭庁母子保健課で母子保健政策調査員も務めており、横浜市立大学の客員教授として学問の世界にも軸足を置いております。クリニックという最前線の医療現場の状況を国や学術の世界にフィードバックし、それを生かすことで微力ながら国の医療をいい方向に変えていきたいと思っています。