渡邉 国博 院長の独自取材記事
わたなべ医院
(江戸川区/一之江駅)
最終更新日:2026/05/29
近隣住民のために開かれた「わたなべ医院」は、2026年で開業20周年を迎えた。診療時には至るところで笑い声が飛び交い、アットホームな雰囲気が漂う。この地に生まれ育ち「患者さんは顔見知りばかりです」と笑顔を見せるのは、渡邉国博院長。専門である脳神経外科疾患をはじめ、呼吸器疾患や生活習慣病の診療、各種リハビリテーションなどに幅広く対応する。また、脳卒中や認知症の早期発見に努め、患者の日常生活における変化や些細な兆候に気づいて適切な検査へと誘導する渡邉院長は、まさに地域のかかりつけ医といえる。「20年という年月を通じて、患者さんの訴えをより親身に理解できるようになりました」と語る渡邉院長に、地域医療に対する考え方や患者との向き合い方、勤務医時代に経験したことなどをたっぷりと聞いた。
(取材日2026年2月9日)
20年にわたり、地元で暮らす患者の体と心に寄り添う
まずは、この地に開業された理由を教えてください。

ここはもともと実家で、両親が薬局を経営していた土地でもあります。薬局に来るお客さんは地元の人ばかりでしたので、開業する時も「顔の知れた人が多い場所」という安心感がありました。開業前、一之江駅の北にあるタムス松江病院に勤務していた頃からこの地の患者さんとはつながりがあり、何かと深い縁を感じています。駅から近いわけでもなく、人が集まる場所でもありませんが、逆にそれが当院の魅力。近隣に住む方にとっては来院しやすい立地だと思います。
こちらではどのような疾患を診ることが多いですか?
開業当時は私の専門である脳神経外科疾患を中心に診ていたのですが、現在は地域に根差したクリニックとして診られるものは何でも診ています。一般内科においては呼吸器系・消化器系疾患を主に診療していますが、数でいうと糖尿病や高血圧症などの生活習慣病が圧倒的に多いように感じます。患者さんが「近くに血圧を測れるところがあるから行ってみよう」くらいの気軽な気持ちで立ち寄ってくださるのも、当院の特徴の一つだと思いますね。さらに当院はリハビリルームを備え、病院で手術を終えて戻ってきた方のリハビリや、腰痛や肩凝り、膝の痛みなどの慢性疼痛のほか、スポーツ外傷のリハビリにも対応しています。診療と同じくらいリハビリの患者さんにも来ていただいており、経験豊富なスタッフが各種リハビリ機器を用いて対応しています。
今年で開業20周年を迎えました。この20年間を振り返っていただけますか?

あっという間でしたね。大きな変化を感じたのは、新型コロナウイルスの感染が拡大した時期。ワクチン接種への対応や発熱患者さんの診療時間をずらすなど診療体制の変化に加えて、患者さんの通院控えもあり、崩れたペースがここ最近やっと戻ってきたなという感じです。また、20年間で患者さんの世代交代も進みました。施設に入ったり亡くなったりする親世代の方が増え、今はお子さん世代が中心になってきています。親御さんを診ていたことから、お子さんの持つ遺伝的なリスクを考慮したアドバイスができるのは、診療を長く続けてきたメリットだと思います。そして、この20年の間に私自身も年を重ね、さまざまな病気を経験しました。加齢による影響も現れ始め、開業当初と比べると患者さんの訴えがより親身に分かるようになりましたね。今後は自分自身の病気や治療の経験を、患者さんに還元していけたらと考えています。
かかりつけならではの視点で、認知症の早期発見に注力
診療時はどのようなことを心がけていますか?

何でも相談していただけるように、アットホームな雰囲気を大切にしています。そのために取り組んでいるのが、診療時は雑談からスタートし、患者さんとしっかりお話しすることです。スタッフにも、自分が話すよりも傾聴の姿勢を心がけ、患者さんの気持ちや立場に合わせて笑顔で接するようにと呼びかけています。そして、患者さんが伝え切れなかったことや、筋道立てて話せなかったことをくみ取り整える作業も非常に重要。時には話のつじつまが合わなかったり、疾患と関係のない話が混ざっていたりすることもありますよね。「言いたいけれどうまく言えない」部分を引き出す工夫を、会話を楽しみながら行っています。
先生の専門である脳卒中の診療について教えてください。
脳神経外科疾患に関しては自己完結型の診療はせず、私が行うのは診断までですが、なるべく早い段階で治療を受けられるところに紹介したいと考えています。専門である脳卒中の診療については、頭痛やめまい、しびれなどの症状がある方に対し、CT検査による早期発見に努めています。しかし、症状がない方に対してはゼロから脳卒中の可能性を探らなければなりません。検査を行うかの目安としやすいのは生活習慣病の有無で、リスクが高い場合はどこかに血管系の疾患があると仮定して検査を勧めます。ただ、多くの方は自覚がなく、本人が検査の必要性を感じなければ予防や治療につながらないため、検査に誘導するまでが一苦労です。血管年齢が高い、腎臓系の異常が見つかったなどの出来事がきっかけで、「言われたから」ではなく「言われて興味が出たから」検査を受けた結果、脳卒中が見つかる。このように自然な流れで治療に移行していくのが理想です。
認知症の予防・治療にも力を入れていると伺いました。

認知症は症状のリセットができず、進行予防が治療のメインとなりますので早期発見が鍵となります。最近では、軽度の認知症に対して効果が期待できる新薬「抗アミロイドβ抗体薬」が開発されたこともあり、早期発見の重要性がより高まっています。自覚のない方にどうやって検査を案内するかという点では、脳卒中の予防と共通する部分があると思います。定期的に検査を受ける流れを作るのに加えて、こちら側が患者さんのちょっとした変化に気付き、検査・診断を促すのが重要です。例えば、通い慣れた方が自動ドアを手動で開けようとしたり、小銭での支払い頻度が少なくなったり。かかりつけ医だからこそ感じる違和感を見逃さないことで、生活に支障が出ない早期の段階で治療につなげることができるのです。
少しでも長く生活の質を保てるように手助けしたい
先生が医師をめざしたきっかけは何ですか?

私は喘息持ちで、小学校に行くのも大変な子でした。幼い頃から医療機関にかかることが多く、家が薬局で薬に触れる機会も多かったことが根底にあると思います。また、7歳の時に弟が亡くなり、親が悲しむ姿を見て最終的に医学部に進む決意をしました。脳神経外科に進んだ理由は、回復が難しい器官を扱う科で一人でも多くの人の病気を治したいという思いがあったからです。心臓や呼吸器は手術で一時的にでも動かせるようになることが期待できますが、脳の場合は手術しても治ることが見込めないケースもあります。勤務医時代に診ていた、10~20代の体格の良かった若者が、悪性腫瘍の手術や抗がん剤治療などにより、弱っていく様子は本当に衝撃的でした。その経験から、手技を高めることはもちろん、患者さんの気持ちを理解し支えたいという思いが強くなりました。あの場所で私の医師としての姿勢が築かれたと思っています。
開業までの経緯や、開業医のやりがいなども教えていただけますか。
手術が上手な先輩が次々と開業していった時に開業理由を聞いてみたところ、「地域医療をやりたかった」という声が大半でした。思えば私も同じような感覚で診療を行ってきましたし、患者さんとのコミュニケーションは昔から大事にしてきたところです。タムス松江病院でこの地での診療の基盤をつくれたという実感はあり、手術にこだわらずとも自身の力を生かせる場面はあると思い、地元での開業に至りました。患者さんに「先生のおかげです」と言っていただけたり、ご家族の方から感謝されたりしたときは、開業医のやりがいや存在意義を感じます。
地域の皆さんにとってどんな存在であり続けたいですか?

まずは、プライマリケアを分け隔てなく行う今の体制を維持し続けていくことですね。必要に応じて以前の担当医や地域の医師と連携しながら、相談にいらした方に最初の手を打ってあげられる存在でありたいと考えています。ここから歩いて10分ほどの場所に地域の包括センターがあるのですが、高齢化が進むなかで、訪問診療の先生やケアマネジャーとも協力しながら近隣の皆さんの健康を見守っていきます。

