渡邉 国博 院長の独自取材記事
わたなべ医院
(江戸川区/一之江駅)
最終更新日:2021/10/12
近隣住民のために2006年に開かれた「わたなべ医院」。診療時には至るところで笑い声が飛び交い、アットホームな雰囲気が漂う。この地に生まれ育ち「患者さんは顔見知りばかりです」とにこやかに語るのは渡邉国博院長。専門である脳神経外科疾患をはじめ、呼吸器疾患や生活習慣病の診療、各種リハビリテーションなどに幅広く対応する。また、脳卒中や認知症の早期発見に努め、患者の日常生活における変化や些細な兆候に気づいて適切な検査へと誘導する渡邉院長は、まさに地域のかかりつけ医といえる。休日はマラソンや愛犬の散歩を楽しみ、プライベートも健康的に過ごす渡邉院長に、地域医療に対する考え方や患者との向き合い方、勤務医時代に経験したことなどをたっぷりと聞いた。
(取材日2019年2月25日)
地元に開業し、顔なじみの患者の病と心に寄り添う
まずは、この地に開業された理由を教えてください。
ここはもともと実家で、両親が薬局を経営していた土地でもあります。薬局に来るお客さんは地元の人ばかりでしたので、開業する時も「顔の知れた人が多い場所」という安心感がありました。開業前、一之江駅の北にある松江病院に勤務していた頃からこの地の患者さんとはつながりがあり、何かと深い縁を感じています。駅から近いわけでもなく、人が集まる場所でもありませんが、逆にそれが当院の魅力。近隣に住む方にとっては来院しやすい立地だと思います。
クリニックのロゴや院内の装飾はフクロウがモチーフになっているのですね。
ロゴは知り合いのデザイナーに依頼したものです。私をモチーフに何かキャラクターを作ってほしいと頼んだところ、フクロウになりました。すると、診療を続ける中でなぜだか患者さんからフクロウのグッズを頂くことが多くなり、現在のような院内風景ができあがったという次第です。ありがたいことですが、たくさん頂き過ぎて何を飾ろうか迷うこともよくありますね。
こちらではどのような疾患を診ることが多いですか?
開業当時は病院勤務時代からの患者さんが多く、私の専門である脳神経外科疾患を中心に診ていたのですが、地域に根差したクリニックとして最近は診られるものは何でも診ています。一般内科においては呼吸器系・消化器系疾患を主に診療していますが、数でいうと糖尿病や高血圧などの生活習慣病が圧倒的に多いように感じます。患者さんが「近くに血圧を測れるところがあるから行ってみよう」くらいの気軽な気持ちで立ち寄ってくださるのも、当院の特徴の一つだと思っています。
診療時はどのようなことを心がけていますか?
何でも相談していただけるように、アットホームな雰囲気を大切にしています。そのために取り組んでいるのは、診療時は雑談からスタートし、患者さんとしっかりお話しすることです。スタッフにも、自分が話すよりも傾聴の姿勢を心がけ、患者さんの気持ちや立場に合わせて笑顔で接するようにと呼びかけています。そして、患者さんが伝え切れなかったことや、筋道立てて話せなかったことをくみ取り整える作業も非常に重要。時には話のつじつまが合わなかったり、疾患と関係のない話が混ざっていたりすることもありますよね。「言いたいけれどうまく言えない」部分を引き出す工夫を、会話を楽しみながら行っています。
患者自身が自覚することで、疾患の早期発見が可能に
先生の専門である脳卒中の診療について教えてください。
脳神経外科疾患に関しては自己完結型の診療はせず、私が行うのは診断までですが、なるべく早い段階で治療を受けられるところに紹介したいと考えています。専門である脳卒中の診療については、頭痛やめまい、しびれなどの症状がある方に対し、CT検査による早期発見に努めています。しかし、症状がない方に対してはゼロから脳卒中の可能性を探らなければなりません。検査を行うかの目安としやすいのは生活習慣病の有無で、リスクが高い場合はどこかに血管系の疾患があると仮定して検査を勧めます。ただ、多くの方は自覚がなく、本人が検査の必要性を感じなければ予防や治療につながらないため、検査に誘導するまでが一苦労です。血管年齢が高い、腎臓系の異常が見つかったなどの出来事がきっかけで、「言われたから」ではなく「言われて興味が出たから」検査を受けた結果、脳卒中が見つかる。このように自然な流れで治療に移行していくのが理想です。
認知症の予防・治療も行っているそうですね。
認知症は症状のリセットができず、進行予防が治療のメインとなりますので、認知症こそ早期発見が鍵となります。自覚のない方にどうやって検査を案内するかという点では、脳卒中の予防と共通する部分があると思います。定期的に検査を受ける流れをつくり、折を見て生活状況を伺っていくことで初めて、その人が抱える症状を話してくださることもあります。人生のある1点を境に生活が一変してしまうのが認知症ですので、その1点を見つけられるかが、残りの人生を有意義に過ごせるかどうかの分かれ目といっても過言ではありません。病院勤務時代にはすでに症状がはっきりしている患者さんを診ていましたが、開業から十数年たった今では、開業医として患者さんの変化に気づいて早期に病気を発見できるようになってきています。
リハビリルームでは、どのようなことを行っているのですか?
開業当初は、病院で手術を終えて当院に戻ってきた方のリハビリを主に行っていました。現在は加えて腰痛や肩凝り、膝の痛みなどの慢性疼痛のほか、スポーツ外傷のリハビリにも対応しています。診療でいらっしゃる患者さんと同じくらいリハビリの患者さんにも来ていただいており、経験豊富なスタッフが各種リハビリ機器を用いて対応しています。意外にも、患者さんにもスタッフにもウォーターベッドが大人気なことです。全身指圧マッサージ機として導入したところ、人に触られることに抵抗がある方にたいへん喜ばれており、気心知れたスタッフ同士でマッサージをし合うのも気を使うということで、多くの人に利用してもらっています。
少しでも長く生活の質を保てるように手助けしたい
先生が医師をめざしたきっかけは何ですか?
私は喘息持ちで、小学校に行くのも大変な子でした。幼い頃から医療機関にかかることが多く、家が薬局で薬に触れる機会も多かったことが根底にあると思います。また、7歳の時に弟が亡くなり、親が悲しむ姿を見て最終的に医学部に進む決意をしました。脳神経外科に進んだ理由は、回復が難しい器官を扱う科で一人でも多くの人の病気を治したいという思いがあったからです。心臓や呼吸器は手術で一時的にでも動かすことが可能ですが、脳の場合は手術しても治らないケースもあります。勤務医時代に診ていた、10~20代の体格の良かった若者が、悪性腫瘍の手術や抗がん剤治療などにより、弱っていく様子は本当に衝撃的でした。その経験から、手技を高めることはもちろん、患者さんの気持ちを理解し支えたいという思いが強くなりました。あの場所で私の医師としての姿勢が築かれたと思っています。
開業までの経緯や、開業医のやりがいなども教えていただけますか。
手術が上手な先輩が次々と開業していった時に開業理由を聞いてみたところ、「地域医療をやりたかった」という声が大半でした。思えば私も同じような感覚で診療を行ってきましたし、患者さんとのコミュニケーションは昔から大事にしてきたところです。松江病院でこの地での診療の基盤をつくれたという実感はあり、手術にこだわらずとも自身の力を生かせる場面はあると思い、地元での開業に至りました。治療を終えて帰ってきた患者さんに「先生のおかげです」と言っていただけたり、患者さんが亡くなってしまった後にご家族の方から感謝されたりしたときは、開業医のやりがいや存在意義を感じます。
読者の方にメッセージをお願いします。
当院は予防・治療の起点となる早期発見を第一に考えています。私はいつでもここにいますので、頭のことで何か不安な症状がありましたら、遠慮せず一度相談にいらしてください。診断がつかなければその先には行けませんし、通院のきっかけができれば一定の運動量を確保できます。寝たきりにならないよう、できるだけ長く現状の生活を保ち、必要に応じて別の医療機関にバトンタッチしたほうが良いと考えています。患者さんとじっくりお話をして、その方のリスクと向き合う姿勢は今後も変えずに診療にあたりたいと思います。