吉田 学 先生の独自取材記事
高島平クリニック
(板橋区/高島平駅)
最終更新日:2021/10/12

街路樹が美しい六の橋通り沿いにある、白亜の建物「高島平クリニック」。産科・婦人科・小児科を診療し、365日24時間体制で無痛分娩が可能なクリニックとして知られている。「若先生」の愛称で親しまれる吉田学先生は、順天堂大学医学部附属病院で産婦人科外来・病棟の医長として、経験を積んできたドクターだ。「安全・確実・快適な診療」をモットーに、患者の質問や相談に丁寧に応える優しい人柄が、出産を間近に控えた女性の心を癒やし勇気づけている。「これまで支えてくださった地域の方々に還元したい」と、日々忙しく診療を行う吉田先生に、無痛分娩や診療にかける思い、日本の産婦人科医療について話を聞いた。
(取材日2016年12月7日)
365日24時間体制で、無痛分娩が可能なクリニック
ヨーロッパの邸宅のような素敵な建物ですね。まずはクリニックの紹介と、先生のご経歴を教えてください。

当院は、ゆったりとした空間で気兼ねなくお過ごしいただけるよう、ソファーやインテリアにこだわり、全室を個室にしています。1976年に開業した旧診療所は、この裏の敷地にあったのですが、老朽化のため2005年に建て替えました。開院当初から行っている無痛分娩は、院長である父が1960年代に南米で学び、帰国後、診療に導入して今日に至ります。当時、都内で24時間365日開院し、無痛分娩も行っているクリニックは、ほとんど存在しなかったと聞いています。私は1992年に順天堂大学医学部を卒業した後、米国コロンビア大学に留学し、その後は順天堂大学医学部附属病院の産婦人科外来・病棟で医長を務めていました。こちらに来たのは、建て替えの時期と重なる2005年。私で産婦人科として3代目、医師として4代目になります。
患者さんの層はいかがですか?
外来は産科、婦人科と均等に診療していますが、入院が産科主体ですから外来も産科がメインになっています。患者層は近隣の板橋区や練馬区、文京区、北区、豊島区辺りの方が多いですね。無痛分娩を行っていることもあって横浜や千葉、埼玉などの遠方から通院される方もいらっしゃいます。皆さん、ウェブサイトで調べたり、ホームページを見ていらっしゃるようです。
診療の特徴はどんなところですか?

建て替えの時、私も話に加わったのですが「これまで約30年間、地域の方々に支えていただき、新築ができたので患者さんに還元させていただくことを基本姿勢としよう」という話になりました。ですから当院は全室個室ですが、個室料金はいただきませんし、料理にも差をつけず、皆さん均一に季節感を大切にしたメニューをお出ししています。見た目は派手ですが、実際の診療・看護は極めてシンプルに「安全・確実・快適な診療」の提供のために集中しています。
無痛分娩のメリットは、陣痛に伴うストレスの軽減
開業当初から行っている、無痛分娩について教えてください。

無痛分娩のメリットは、陣痛に伴う心身へのストレスを軽減し、分娩進行をスムーズにすることです。当院の無痛分娩開始のタイミングは、子宮の出口(子宮口)が時間経過とともに開き始めるような有効陣痛が起きていて、陣痛が我慢できなくなる段階に達した時点となります。従って、子宮口が4~5cmの開きを待ってからといった画一的なタイミングではありません。また、分娩進行中の麻酔薬管理は精密機器を使用していて、一定間隔での機器からの注入だけでなく、体感するお痛みのレベルがわずかでも戻り始めた時点で、薬液を注入できる自己管理専用ボタンを、ご自身でお使いいただくことも可能です。
無痛分娩は、どのような方が選ばれるのでしょうか?
「お産が怖くて仕方がない」という方から、「ちょっと不安」「前回が壮絶だったから」という方までさまざまです。また、自然分娩を選んだものの、どうにもならなくなり途中で無痛分娩に切り替える方もいらっしゃいます。私たち医師は、無痛分娩で10の痛みを3以下に抑えることができれば、麻酔が効いていると基本的には判断します。ですので「無痛分娩=完全な無痛」というわけではありません。ただ先日、無痛分娩を選んだ患者さんのアンケートでは、麻酔が効いた方、効かなかった方さまざまでしたが、「無痛分娩にして良かった」という方は非常に多かったです。多くの方が「自然分娩でも途中から無痛分娩に切り替えることができる」と感じているようです。
日々の診療の中で感じる思いや、心がけていることを教えてください。

命を取り上げるときには、常に見えない力を感じます。何かに導かれるような、誰かが見守ってくれているような、そんな神秘的な感覚です。他の科にはない、人智を超えた独特の空気ですね。その中で、私たち医師に求められることは、無理をせず安全面からしっかりサポートしていくこと。以前、先輩の先生から「私たちの行為がこの赤ちゃんの一生を決めるんだ」と言われたことがあります。お産はお子さんの一生を左右するし、お母さんや家族にも影響を与えます。ですから、赤ちゃんやお母さんの体調に合わせた、安全確実な診療が何よりも重要なのです。産声を聞いたとき、お母さんがほっとするのと同じように、私たちもほっとしているんです。しかし、一方でここで母子が急変したら、とさまざまな可能性を考えながら仕事をしています。
スタッフとの連携で心がけていることはありますか?
月1回はミーティングを行っています。「安全で確実快適な診療環境」という、クリニックの理念をどうやって形にするか、いかに大学病院への母体搬送、新生児搬送をゼロに近づけるかなど、いろいろ話し合っていますね。助産師は乳房管理など産後のケア全般にも力を入れているので、患者さんからも「相談しやすい」と頼りにされているようです。院長や私が体を休めている間、患者さんの管理・対応をしっかりとしてくれるので「ありがたい」の一言ですね。
モットーは「安全・確実・快適な診療」を提供すること
現在の日本の産科医療について、先生はどのように考えていらっしゃいますか?

日本の産科医療は非常に厳しい状況です。しかし、誰がこれをやるんだという話になったとき、われわれが守っていかなければならない。日本のお産の大半は欧米と異なり、われわれのような診療所や助産所の人たちが背負っています。だからこそ引き際をわきまえ、専門の先生方にお願いすることも時には必要です。実は、大学病院時代は受け入れる側の立場でしたから、その協力体制の重要性に気づきませんでした。ここに来て患者さんを送り出す立場になり、初めて「こういうことが地域で行われているんだ」と知りました。それまでは面識のなかった、近隣の医療機関の先生方にお願いした際に、常に支えてくださる援護の姿勢は涙が出るほどありがたいものです。安全な妊産婦、新生児管理について、皆気持ちは一つなんだと実感しています。
印象に残っている患者さんとのエピソードを教えてください。
まだ右も左もわからなかった研修医の頃、自然分娩に立ち会ったことがありました。私たち研修医は傍観の立場だったのですが、その女性は陣痛が来るたびに泣いているんです。「どうしたのだろう? どこか具合が悪いのかな?」とみんなが心配して、「何で泣いているんですか?」と助産師が聞いたんです。そしたら「うれしくて泣いている」って。長年の不妊治療の末のお子さんだったようです。いよいよお産の時を迎え、だんだん秒読みに入っていく。そんな中、陣痛が来るたびに涙を流して……。無事に生まれた瞬間、全員が号泣しました。それが一番印象的な体験ですね。お産ってすごいんだな、私はこれからこれに関わっていくのだなと。以前、尊敬する先生が「患者さんが先生だ」とおっしゃっていたのですが、本当にそのとおりです。今でも患者さんから日々多くのことを学んでいます。
最後に、読者へのメッセージをお願いします。

「安全・確実・快適な診療」と「世のため人のために」がこのクリニックの理念でありモットーです。それに近づけるため日々精進しています。あまり飾ったことを言えないのですが、赤ちゃんのため、お母さんのために、不安のないお産ができるよう心がけていますので、心配なことやわからないことがありましたら、いつでもお気軽にお尋ねください。