吉田 学 先生の独自取材記事
高島平クリニック
(板橋区/高島平駅)
最終更新日:2025/06/11

ヨーロッパの邸宅を思わせる白亜の外観。大樹の桜の木陰、扉を開けると、ネイビーブルーのじゅうたんにシャンデリアきらめくエレガントなロビーが広がり、上質な雰囲気に包まれる。「高島平クリニック」は1975年に開業以来、産科・婦人科・小児科の診療を提供してきた。2025年7月末で出産管理業務を休止するが、代わりに妊婦健診・産後健診を中心とした産科外来や、幅広い年齢層に対応する婦人科診療枠を拡大展開する。さらに、2025年8月より新たに産後ケアサービスも開始。順天堂大学医学部附属順天堂医院の産婦人科外来・病棟で医長として経験を積んできた吉田学先生に、新体制の詳細や今後提供予定の診療への思いなどについて聞いた。
(取材日2025年4月2日)
「安全・確実・快適な診療」の提供をめざす
すてきなクリニックですね。まずはクリニックの紹介と先生のご経歴を教えてください。

当院は、ゆったりとした空間で気兼ねなく過ごせるよう、ソファーやインテリアにこだわり、全室を個室にしています。1975年に開業した旧診療所はこの裏の敷地にあったのですが、老朽化のため2005年に移転、建て替えました。開業当初から行っている痛みを抑えた分娩は、院長である父が1960年代に南米で学び、帰国後、診療に導入して今日に至ります。開院当時、都内で24時間365日、麻酔を用いた分娩も行っているクリニックはほとんど存在しなかったと聞いています。私は1992年に順天堂大学医学部を卒業した後、米国コロンビア大学に留学し、その後は順天堂大学医学部附属順天堂医院の産婦人科外来・病棟で医長を務めていました。こちらに着任したのは建て替えの時期と重なる2005年。私で産婦人科の医師として3代目、医師としては4代目になります。大学病院時代よりも、診療所での勤務期間が長くなってから久しくなります。
どのような患者さんがいらっしゃいますか。
通院される患者さんの住居地域は、板橋区内、東京都西北部、埼玉県南部が多いです。婦人科外来として扱うのは子宮がん検診・月経不順・不正出血・月経困難症・おりものの異常。また、専門的な外来としては、女性ホルモン治療・ピル・更年期・思春期相談・がん検診異常後の精密検査・腫瘍専門の外来です。産科では、妊婦健診・出産に対応していますが、出産については2025年7月で業務終了となります。スマートフォンの普及以降、例えば妊娠中のつわりや産後のマタニティーブルーといったデリケートな時期においても、多くの情報が検索できる反面、それらを見たことで自分の状況と周りを比較してしまい、不安を抱く方が増えている印象です。このような状況は、メンタルヘルスのリスクを高めることがありますので、必要に応じてその方に合わせたアドバイスや地域保健センターとの連携を強化します。
施設や診療の特徴について教えてください。

建て替えの時、私も話に加わったのですが「これまで約30年間、地域の方々に支えていただき新築できたので、患者さんに還元することを基本姿勢としよう」という話になりました。ですから当院は全室個室ですが、個室料金はいただきませんし、提供する料理も皆さんへ均一に、管理栄養士とともに栄養バランスと季節感を大切にしたメニューを提供します。建物や内装の見た目は派手ですが、「世のため人のため」をモットーに、診療・看護は極めて実直に「安全・確実・快適な診療」の提供をめざしています。
今後は産前産後ケアに注力し、患者に寄り添う
今年の夏頃から診療体制が変わるそうですね。

はい。大きな診療体制の変更として、先ほどもお伝えしましたが2025年7月末をもって出産管理業務を休止します。ただし、妊娠の診断に始まり、妊娠32週頃までの妊婦健診は切れ目なく継続し、心身ともに妊婦さんの不安要素を軽くし安全な出産をめざします。当院では硬膜外麻酔を用いた無痛分娩を50年余、24時間365日提供してきたことから、麻酔を用いた分娩を希望される妊婦さんへの事前教育も行います。出産を行う病院は、患者さんご自身が希望される病院、または土地勘のない方などには、地域、バースプラン、費用など患者さんの希望に応じて板橋区内や近隣で出産を取り扱う病院を紹介する連携体制が整っています。さらに、病棟業務としては、これまでの出産管理に代わり、2025年8月から全室個室での昼食提供を伴う通所型産後ケアを開始します。
産後ケアについてどのように取り組まれていくのか、こだわりも含めて教えてください。
当院の産後ケアは通所型で、生後60日以内のお母さんと赤ちゃんが対象となります。利用目的は2つあり、1つは出産後の休養を目的とした「休養型」、もう1つは育児に関する相談や指導を中心とした「指導型」です。全室個室の利点を生かし、お母さんの状態やニーズに合わせ、短時間の休養、沐浴指導、授乳相談、メンタルサポートなど個別のプランを作成し、サポートを行います。利用時間は基本6時間ですが、3時間や4時間半といった短時間での利用や、延長も柔軟に対応する予定です。栄養士による食事も、アレルギー対応はもちろん、食事を挟んで休息を取るなど、時間帯に応じた過ごし方が可能です。担当するのは主に助産師ですが、必要に応じて外来診療を行っている医師にすぐに相談できる体制も整っています。
スタッフとはどのように連携していくのでしょうか。

「患者さんは私どもに何を求めているのか」、今後は、出産管理から距離を置くからこその気づきを大切に、目標設定、課題解決の姿勢で、全職員でコミュニケーションを取り、より良いケアを提供しようという姿勢で臨んでまいります。具体的には、医師、助産師、看護師、看護助手といった医療スタッフに加え、特に産後ケアにおいては栄養士を含む厨房職員が連携してケアにあたります。食事についても栄養士とともに、栄養バランスはもちろんのこと、季節の素材を意識した献立となります。心身のリフレッシュを目的とした産後ケアにおいて、日々の食事は重要な要素であると捉えています。
「世のため人のため」、変わらぬ情熱で患者と向き合う
現在の日本の産科医療について、先生はどのようにお考えですか?

陣痛を緩和するため麻酔を用いた無痛分娩も、かつては一般的でなかったのですが、現在では東京都で希望する妊婦さんには補助金が出るほど注目されています。海外では出産管理が大規模病院に集約される一方、日本では国内出産の約半数が有床診療所で、産科医主導で行われてきました。出生数の減少に反し、近年、無痛分娩を新たに導入する医療機関が増えています。無痛分娩の需要が高まる中、今後、妊婦さん自身が知識を深めるだけでなく、医薬品、医療材料を含む無痛分娩提供体制、それを担う医療従事者の教育環境や、臨床現場での安全管理体制の更なる向上が、今まで以上に求められます。分娩方法の選択に関わらず、妊娠前から産後にかけての丁寧な心身のケアは、安全確実な出産管理にとり不変ですし、出生数の増減傾向によらず、母子の健康状態・予後をより良くするため、医療従事者の努力と地域社会との連携が、ますます不可欠になると思います。
印象に残っている患者さんとのエピソードを教えてください。
大学を卒業したばかりのまだ右も左もわからなかった頃、自然分娩に立ち会ったことがありました。私たち新米医師は傍観の立場だったのですが、その女性は陣痛が来るたびに泣いているんです。「どうしたのだろう? どこか具合が悪いのかな?」と皆が心配して、「何で泣いているんですか?」と助産師が聞いたんです。そしたら「うれしくて泣いている」と。長い間待ち望んでいたお子さんだったようです。いよいよお産の時を迎え、だんだん秒読みに入っていく。そんな中、陣痛が来るたびに涙を流して……。無事に生まれた瞬間、赤ちゃんも周りも全員が号泣しました。それが一番印象的な体験ですね。お産ってすごいんだな、私はこれからこれに関わっていくのだなと。以前、尊敬する先生が「患者さんが先生だ」とおっしゃっていましたが、本当にそのとおり。診療体制は変わりますが、日々患者さんから学びを大切に診療していきたいと思います。
最後に読者へのメッセージをお願いします。

産婦人科は、妊娠の有無によらず、すべての女性の心身の不安解消に努め、疾患を予防・治療し、健康を増進することが目的の診療科です。「安全・確実・快適な診療」と「世のため人のため」が当院の理念です。私どもは理念達成に向けて、日々努めてまいります。体調に関するご心配事は、どうぞ遠慮なくお聞かせください。