土屋 京子 院長の独自取材記事
幸町デンタルクリニック
(板橋区/大山駅)
最終更新日:2021/10/12
大山駅から徒歩7分。住宅街の一角にある「幸町デンタルクリニック」を訪ねた。住宅の1階がクリニックとなっており、アットホームな雰囲気。院長の土屋京子先生は大学病院の予防歯科での勤務を経て開業。以来、オーダーメイドの口腔ケアで、虫歯、歯周病や口腔機能などの予防に努めている。診療の際は患者との会話を大切にしているといい、「フランクにお話をするうちに、患者さんも心を開いてくださいます」と笑顔で語ってくれた。患者の生活習慣などを知ることは、口腔ケアの方向性を考える上で大切なことだという。今回の取材では、口腔ケアによる予防の重要性や、土屋先生が日々大切にしていることなどを聞いた。
(取材日2019年7月22日)
気軽に相談できる、家庭的な雰囲気のクリニック
歯科医院なのに、知人の家に遊びに来たようなアットホームさがありますね。
開業するにあたって、まさにそのようなコンセプトでこのクリニックをつくりました。診療室は、もともと普通の部屋を改築したものなのです。歯科医院に対して「痛い」とか「怖い」というイメージを持っている方が、とても多いのです。いざ行こうと思っても敷居が高く、緊張してしまったり。歯科独特のにおいが苦手、という方もいますよね。そこで、当院を開業するときは、できるだけ歯科医院っぽくないクリニックにして、患者さんにリラックスしていただきたいと思ったのです。
患者さんは地域の方が中心ですか?
はい。開業して15年がたちましたので、ともに年齢を重ねている感じです。小さなお子さんが成人したり、全体的に、高齢の患者さんが増えてきたかなという印象はあります。たまに別の地域に引っ越したにもかかわらず、定期的なケアのために引き続き当院に通ってくださる方もいらして、ありがたく感じています。私は開業当初から、口腔ケアの重要性を発信していきたいと考えており、年々少しずつ、関心を持ってくださる人が増えてきました。とはいえ、いまだに歯科医院は「痛い時に行くところ」というイメージを持っている方が多いと思います。これからの歯科はCure(治す)ではなくCare(予防)の時代です。日頃の口腔ケアによって、結果的に、治療費も少なくて済むようになるのです。それを実感していただき、歯科のイメージをゆっくりでも変えていきたいです。
開業前は予防歯科がご専門だったそうですね。
大学病院の予防歯科に勤務していましたので、ケアの重要性は身にしみています。歯は一度削ってしまったら元どおりにはなりませんし、歯周病も、悪化すると元の状態には戻らないのです。予防するという意識を持ってケアをしていれば、たとえ虫歯になったとしても、最小限の治療で済む可能性が高いです。そしてもう一つ、近年増えている「フレイル」についてはご存じですか? フレイルとは「虚弱」という意味で、心身の機能が低下していく状態をいいます。お口の健康はフレイルにも影響を及ぼすのですよ。うまく噛めない、むせるなどで食事が十分に取れなくなると体力が弱くなり、あまり動かなくなります。すると、食欲も出ないので体力がなくなり、ますます動かなくなる、という悪循環になるわけですね。このサイクルのスタートともいえるのが、食べること、つまりお口の「健口」なのです。自分のお口でおいしく食べることは、実はとても大事なことなのです。
口腔ケアは年齢によってポイントが変わる
予防のためには、定期検診が重要ですよね。
定期検診で大切なのは、どれくらいセルフケアができているかをチェックすることです。定期検診というのは、いわば学生時代の中間テストみたいなもの。テストがあると勉強しますよね? 多くの患者さんは、定期検診で歯の磨き方を教わって、ご自宅でも頑張って行いますが、2週間くらいたつと、また自己流の磨き方に戻ってしまうことがあります。でも、それでいいんです。また次の検診に行けば、思い出すことができますから。そして、何回か定期検診に通ううちに、教わった磨き方が少しずつ定着していくんですね。何ごとも習慣づくまでは時間がかかるものです。ゆっくりでもいいので、自己流から正しいケアにシフトすることが大切です。
年齢によって、ケアの内容に違いなどはありますか?
あります。まず、口腔ケアの基本となるのは、お口の中のお掃除や状態のチェック、患者さんご自身のブラッシングのチェックです。子どもには子どもの、成人には成人の、高齢者には高齢者向けのチェックポイントというのがあります。例えば虫歯ができやすい場所というのは、年齢によって違います。子どもは歯がやわらかいので、歯の溝や表面が虫歯になりやすいです。一方、大人の場合は歯と歯の間、さらに高齢になるほど歯茎が痩せていき、歯の根元付近に虫歯ができやすくなるなどの違いがあるので、年齢やお口の中の状態によって、歯の磨き方や使用する用具を変える必要があるのです。また、年齢に応じて唾液の量なども変化していきますので、高齢者の方は飲み込みや舌の動きなど嚥下についても注目していく必要があります。
診療において大切にしていることを教えてください。
患者さんとよく話をすることです。なぜなら、歯が痛いと受診されたけれど、話を聞いてみるとほかの病気が原因だった、ということもあるからです。歯も体の一部ですから、口の中の症状というのは、全身とつながっていることがあります。体の不調が最初に現れる部分というのは人それぞれですが、口の中に現れる人もいますので、当院ではそういう人をなんとかフォローできればと思っています。もちろん、疑わしいことがあれば、病院や地域のクリニックなどと連携をしています。多職種の方々とのチーム医療を大切にしています。
患者一人ひとり、オーダーメイドのケアを提供
カウンセリングの時間も大事にしていらっしゃるとか。
今は歯科医師が一方的に治療をする時代ではなくなってきていると思います。患者さんの同意を得てから治療をスタートすることが大切です。特に初診の患者さんの場合は、時間が許せば1時間ほどかけてお話をします。問診票と主訴をもとにお口全体をチェック、エックス線写真も見ながら、患者さんからの素朴な疑問にもお答えしていきます。その際に「こんなところに詰め物があったんだ」とか、「ここは神経がない」など、自分の口の中のことを意外と知らなかったと言って、驚かれる方は多いです。自分の口の中を知ることは、治療後のケアのモチベーションにもつながっていきます。もちろん、痛みが強い場合にはすぐにでも処置をしますよ。ただし、1回目で歯をたくさん削るような治療はできるだけ避け、応急処置で痛みを抑えつつ、患者さんとしっかりお話をして、治療方針を決定していきます。
患者さんとのエピソードなどがあれば教えてください。
地域のクリニックなので、患者さんと長くお付き合いできるというのがうれしいですね。何か大きな出来事があったというよりは、日々の積み重ねなのだと思います。最近は高齢の患者さんが増えていますが、以前、入れ歯が合わなくて困っているという相談があり、当院で調整したのですが、入れ歯というのは、新しいものを作るとなると、患者さんにとってはとても大変なんです。でも、既存の入れ歯をお口の環境に合わせて調整すれば、長く使い続けることもできるのです。患者さんが困っていることや、これまで諦めていたようなことに対して改善に導いていけたら良いなと思います。
読者へのメッセージをお願いします。
当院でめざしているのは、患者さん一人ひとりにオーダーメイドの口腔ケアを提供することです。その方に合う歯ブラシや補助器具、歯磨剤などを使用し、歯ブラシの当て方などは、患者さんの現状によってアドバイスの内容が変わってきます。口腔ケアは本当に奥が深いです。例えば、先ほど入れ歯の調整のお話をしましたが、総入れ歯であっても定期検診は必要なんですよ。入れ歯のフィット感を調整したり、歯の代わりに粘膜のお掃除をすることでお口の健康を維持し、お口の機能低下を予防していくのです。口は体内の消化器につながる最初の入り口。お口の中を健康に保つことで、全身の健康を守ることができるのです。私たちは、一人ひとりに合わせたオーダーメイドのケアを通じて口腔機能の維持・増進のためにも、虫歯や歯周病を予防していく歯科医療を提供できたらと思っています。一生、自分の歯で食べることをめざしていきましょう。