竹田 数章 院長の独自取材記事
仙川耳鼻咽喉科
(調布市/仙川駅)
最終更新日:2025/02/03

音楽大学やアートミュージアムもあり「音楽と芸術の街」として知られる仙川。京王線仙川駅から徒歩で約4分のビル2階に位置する「仙川耳鼻咽喉科」の竹田数章院長は、医師であり、和楽器「能管」の演奏者でもある。診療の傍ら、桐朋学園大学・洗足学園音楽大学で、臨床音声学講師として発声・構音のメカニズムの講義を行うほか、「音」のスペシャリストとして、声を職業的に使う人の声のケアについて書かれた海外の書籍「ボイスケアブック」や「発声ビジュアルガイド」を監訳。同院でも耳鼻咽喉科の疾患に加え、発声や楽器演奏や呼吸法など「声」に特化した外来など、専門性を生かした診療を行う。「患者さんの悩みを聞いて困っていることをよく把握し、回復につなげるのが第一」と語る竹田院長に、診療の特徴や今後の展望について聞いた。
(取材日2021年3月19日/情報更新日2024年8月21日)
音楽の街で、音楽に携わる人を支える医療を提供
開院までの経緯を教えてください。

実家が同じ沿線のつつじヶ丘にあるので仙川は昔から来ていましたし、このビルのオーナーが父の知人という縁もありました。僕は能や歌舞伎で使われる和楽器「能管」の演奏者でもあるのですが、医学と音楽の接点領域に興味がありました。特に音声について研究していました。その縁で、市内の桐朋学園や洗足学園で音声生理学や臨床音声学の講義もしているんです。ですから、仙川は通いやすいしなじみもある場所ですね。この辺りは音大関係者や学生も多く、街を歩いていると、住宅街やアパートから楽器の音が聞こえてくるような土地柄です。この近くにもバイオリンを弾く人がいて、練習している音が聞こえてきます。
クリニックの特色について伺います。
専門は耳鼻咽喉科で、一般的な治療のほかに漢方を取り入れた治療も行っています。特徴的なのは、音声についての研究に基づき、人前で「声」や「喉」を使うお仕事についていらっしゃる方の喉と声の不調や疾患を、呼吸や聴覚との関係も加味しながら治療していることです。診断のために、喉頭ファイバースコープや、声帯の動きを細かく見られるストロボスコープなど、音声に関する検査機器を用意しています。コンピューターを使って音声分析や周波数分析を行い、その人の声には倍音がどれくらい入っているかなども分析し、音楽や声の専門家の方からの相談に随時応じています。
声や喉に関係する疾患にはどんなものがありますか?

さまざまな疾患がありますが、新型コロナウイルス感染症流行の影響で、外出せず人と話す機会が減ってしまったことで、声帯が萎縮して声がかすれたり、息もれ声になったりする「声帯萎縮」の症状が見られる方が増えています。声帯が萎縮するのは加齢が主な原因で、高齢の方によく見られたのですが、趣味でコーラスやカラオケを楽しんでいた人も自粛するようになったことなどから一般の方々にも見られるようになりました。喉頭ファイバースコープと喉頭ストロボスコープで検査したりして診断しますが、声帯萎縮がひどくなると誤嚥しやすくなり、誤嚥性肺炎の原因になることもあるので注意が必要です。対処法としては、意識して声を出す、歌を歌う、本や新聞を音読するなどがあげられます。必要に応じてお薬を処方することもありますし、医学的なボイストレーニングを指導することもあります。
睡眠時無呼吸症候群の検査や治療も行う
日頃の診療ではどんなことを心がけていますか?

すべての診療において、患者さんの悩みを聞いて困っていることをよく把握し、回復につなげるのが第一ですね。音楽に携わる方から声や喉について相談を受けた場合は、予防医学的な面で、日頃の声の使い方やメンテナンスなどの指導や相談も行っています。例えば、声帯に結節ができる原因は声の出し方にもあり、せっかく治療しても以前と同じ使い方をしているとまた同じ結節ができてしまいます。アドバイスの内容としては、主に呼吸法です。呼吸法は発声の基礎となり、声帯の動力源、エネルギー源でもあります。僕は米山文明先生が主宰している呼吸と発声の研究会で呼吸法も研究しているので、そこでの研究を実践に生かせるよう、患者さんにアドバイスをしています。
そのほかの診療についても教えてください。
スギとダニのアレルギー治療では、舌下免疫療法を採用しています。僕自身、長くこの分野の治療を続けていますので、関心のある患者さんが多く来院されているのかもしれません。ほかには、耳が痛い、鼻が詰まる、喉が痛いなどで来院されるお子さんも多いですね。睡眠時無呼吸症候群は大人の病気というイメ−ジをお持ちの方もいるかもしれませんが、最近はお子さんにも増えています。無呼吸の症状があり、質の良い睡眠がとれないと、起きている時間に集中力を欠いて勉強に差し支えるというケースもあります。診断によっては基幹病院や大学病院を紹介させていただいています。
睡眠時無呼吸症候群の検査はどのように行うのですか?

睡眠時無呼吸症候群の検査機器を導入しており、呼吸や血中の酸素の状態などで測定し、睡眠呼吸障害の程度を求めることができます。睡眠時無呼吸症候群と診断された場合は、「CPAP療法」を行いますが、扁桃肥大などで呼吸の通りが悪く無呼吸を引き起こすケースの場合は手術が必要になることも。睡眠時無呼吸症候群は、いびきに加え、肥満や高血圧などさまざまな疾患と因果関係があることも指摘されています。気になる方はお気軽にご相談ください。
漢方も取り扱っているそうですね。
はい。西洋医学の薬では、例えば鼻水を止めるための薬を飲むと、口が渇いて声が出にくくなることがありますね。これでは声を出す仕事の人は困りますから、漢方薬を処方したほうが良いと考えられます。ほかに、アレルギーがある方にも漢方を併用することがあります。東洋医学の考え方は「体に足りないものを補って、体力や気力を充実させる」という点で有用ですので、西洋医学の薬が合わない人や強すぎると感じる人には使いやすいと思います。
漢方など東洋医学、呼吸法を含め全人的治療を
現在、気にかけている疾患はありますか?

難聴です。難聴は必要な音が聞き取れないため、危険を察知する能力が低下するほか、日常生活を送る上でさまざまな不便が生じます。特に高齢者に多い加齢性難聴は、家族や友人とのコミュニケーションがうまく取れずに家庭内や社会で孤立し、うつ病や認知症発症のリスクが大きくなることが問題視されています。老化による聴覚機能の低下で起こる加齢性難聴は、今のところ根本的な治療法がありません。そのため、補聴器を使って「聞こえ」を補い、ことばを聞き分ける能力が衰えないようにする必要があります。補聴器をつけることに抵抗を持つ人もいますが、難聴を放っておくと、先に挙げたように認知症の発症リスクが高くなってしまいます。人生を楽しむためにも、生活の質を維持するためにも、定期的に耳鼻咽喉科で聴覚をチェックしましょう。そして、もし問題が見つかれば補聴器で聞こえを補い、認知症予防やQOLの改善につなげてほしいと思います。
先生が医師を志したきっかけについても伺いたいです。
父が外科の医師だったという環境もあり、医学に自然と関心が向きました。子どもの頃からフルートなどの横笛に関心があり、和楽器の能管をずっと続けていたのですが、医学と音楽の接点にも興味があり研究してみたいと思ったこと、音楽の視点からも治療ができるような医師をめざしたいと思ったことから今に至ります。音楽に携わる方の治療も多いですが、演奏は心身ともに関係してきますので、体と心、両方がリラックスして本番に望んでもらえるようにというのも一つのテーマです。そのために、ここでも大学でも呼吸法を教えているのですが「人間はどういうふうに声を出して歌い、それをどう響かせているのか」を学んでもらいます。医学や研究、臨床を通して知る「音と人間の関係」や「体と音楽の関係」はたいへん面白く、興味が尽きません。
今後の展望と読者へのメッセージをお願いします。

耳鼻咽喉科ですが、患者さんを病気だけで切り取らず、全人的に診て治療を進めていきたいですね。そのためにも漢方などの東洋医学や呼吸法を含めて患者さんが適切な治療を選択できるように用意をし、演奏や生活のサポートをしていきたいです。当院は、空気清浄機、加湿器、換気、問診の時間が短縮できる「ネット問診」を導入し、感染症対策も徹底しています。花粉症などのアレルギーでお悩みの方、声を使う仕事をしている方、漢方治療に関心のある方には、小さなことでもご遠慮なく相談していただければと思います。