服部 雅俊 副院長の独自取材記事
服部医院
(杉並区/西荻窪駅)
最終更新日:2025/12/01
西荻窪駅から徒歩7分、住宅街の一画にある「服部医院」。戦前から3代続くこの医院で、服部雅俊副院長は訪問診療を中心に地域医療を支えている。さまざまな基幹病院で内科の医師として勤める中、「どうしても家に帰りたい」と訴える末期がん患者に出会い、退院してから予想以上に生き生きと過ごす姿を見て「家に帰ることの意味」を実感したという。現在は診療の8割を訪問診療が占め、通院困難な高齢者や自宅で最期を迎えたい患者に寄り添う。「医療的なことだけでなく、患者さんの生活を支えるのに必要な診療をしたい」と穏やかに語る服部副院長に、在宅医療への思いと今後の展望を聞いた。
(取材日2025年10月30日)
3代続く医院で始めた訪問診療への挑戦
医院の歴史と、副院長に就任された経緯を教えてください。

当院は祖父が戦前に始めました。もともとは入院もできるような病院だったらしいんです。父である服部光成院長が日本医科大学を卒業して小児科の医師として継ぎ、私で3代目になります。父が高齢になり、現場に立てる時間も短くなってきたので、内科の医師である私が勤務し、在宅医療にシフトすれば医院を継続できるのではと考えました。ただその頃は国内でも在宅医療の基盤が確立しておらず、いきなり一人で在宅医療を始めるのは困難でした。そこで、先輩医師が経営する小原病院で在宅医療部門を立ち上げ、ノウハウを学んでから2019年に当院での住宅医療を始動させました。小原病院のある中野と西荻窪は隣同士なので、ケアマネジャーさんや訪問看護師さんとのつながりもあり、スムーズに展開できました。
先生が在宅医療に興味を持たれたきっかけは?
転機となったのは、どうしても家に帰りたいという末期がんの患者さんに出会ったことです。その頃は大規模病院の内科に勤めていて、訪問診療の知識がなく、通院では診られないとお話ししたのですが、その方が家に帰ったら思った以上に生き生きと安定して過ごされた。家に帰ることは、治らない病気を患う方にとって大きな意味があるのだと実感しました。訪問診療には苦労もありますが、患者さんやそのご家族に満足していただけたときにはやりがいを感じるものです。当院においても、ともに在宅医療を支えるケアマネジャーさんが、患者さんに当院を紹介してくださると、ありがたい気持ちになります。
訪問診療ではどのような医療を提供されていますか?

基本的には通院が大変なご高齢の方と、家で最期を迎えたい末期がんの患者さんが中心です。入院と外来の中間的な立ち位置で、点滴もできますし、胃ろうの交換や尿道カテーテルの交換なども自宅で行えます。定期的な訪問だけでなく、急に熱が出たときなどの臨時対応もセットで行っています。外来のように待ち時間もなく診察できるので、来院がつらい方にとってメリットが大きいと思います。末期がんの患者さんへは痛みを抑制するための薬を使うことも多く、その繊細な微調整も必要です。そのため医師と患者さんの間に看護師さんに入ってもらい、情報共有のしやすい環境を整えることも大切にしています。
引き算の医療で支える患者とその家族の生活
先生が特に力を入れている診療を教えてください。

当院では終末期の方が多いので、緩和ケアに力を入れています。在宅医療は医療的なことより、生活を支える側面が強いんです。高齢の方や末期がんの患者さんは積極的な治療を望まない方が中心なので、自宅でどれだけ穏やかに、自分らしく過ごせるかどうかを大切にしています。医療は治癒させるのが目的で、必要な治療や薬を追加していく足し算的な考え方が強い。あれもこれもやりましょうという感じです。一方在宅医療は患者さんの負担を減らして生活のクオリティーを高めるのが目標だから、お薬を減らすなどシンプルにしていくほうが良い面もあるのです。もちろん治療の余地があって、患者さんが希望されるのなら、治療と緩和ケアを並行していくことも可能です。その点も開始時にしっかり確認し、信頼関係を築き上げていくのが重要だと考えています。
訪問診療時に、患者やその家族との関わりで大切にされていることは?
訪問診療を希望される患者さんの中には、病院に行きたくない、医者嫌いという方が結構いるんです。そのような場合、お医者さんっぽく接してしまうとうまくいかない。そのため、まずは患者さんと仲良くなって信頼関係を築き上げることから始めます。厳かな雰囲気よりも親しげな感じで接すると、患者さんもリラックスできて良いのかなと。また訪問診療は医師と患者さん、そのご家族との関係が外来よりも密になりやすいのが特徴です。患者さんの希望にはできるだけ応えたいとは考えていますが、訪問診療ではできないこともあります。そこを最初にしっかり伝えて同意を得てから診療を始めることが、お互いに満足できる在宅医療への一歩につながると考えています。
多職種連携において心がけていることを教えてください。

看護師やケアマネジャーなど、一緒に働く人を信頼してある程度のことは任せることですね。制度上、訪問看護師さんは医師の指示書がないと動けない場面が多くあります。でもこちらから指示するばかりでなく、お互いに意見交換することを大切にしています。問題のない範囲で看護師さんに判断をお願いすることも多く、基本的にはその判断を信じるというスタンスです。現場で判断する必要があることも多い。いちいち指示を仰ぐより、その場で判断してもらい、後で情報共有するほうが良いと思っています。現場に一番近い人の判断で動いて良いんじゃないかなと。今一緒に働いている看護師さんが、信頼できる方たちだということも大きいですね。海外では看護師のできる医療処置が日本よりも多いので、今後日本でもそうなっていくかもしれません。
世代を超えて地域医療を未来へとつなぐ
お忙しい毎日をお過ごしですが、休日や診療後はどのようにリフレッシュされていますか?

今は飼い犬と過ごすのが究極の癒やしですね。子どもたちも大学生になったので、4歳のトイプードルを孫のようにかわいがっています。診療前と診療後には妻と一緒に散歩をして、寝る時までずっとそばにいます。散歩中にお話しできる犬友達もできて、散歩がとても楽しいです。良い運動にも、コミュニケーションにもなっていますね。私は長年西荻窪に住んでいますが、犬と散歩をしていると街の変化にも気づけるんです。こっちの家は取り壊されたんだ、あっちには新しい飲食店ができたんだ、なんて。そんな楽しみまで教えてくれる飼い犬が、今はかわいくて仕方がありません。
今後の在宅医療についてどのようにお考えですか?
今後の日本の人口減少は進んでいくにもかかわらず、2040年には65歳以上の人口がピークを迎えると予測されています。このままでは、在宅医療を提供する側の人間が全然足りなくなるでしょう。当院を拡大していく予定はありませんが、これからの在宅医療を考えると、在宅医療の担い手を増やす役目を果たさなければいけないかなと感じています。そこで杉並区では、2〜3年前に在宅医療に関わる医師の会をつくって、情報交換の場を設けました。まだ積極的に活動をしているわけではありませんが、同じ立場の医師と話す機会が増えたのは大きな変化ですね。他の医師から患者さんをお願いされることもあります。最近、私より10歳以上若い先生たちが在宅医療を始めていて、これからさらに担い手が増えるのを期待しています。
最後に読者へのメッセージをお願いします。

今後国内の高齢化が進むのは避けられませんので、必要な医療を必要な形で受けられる体制づくりが大切だと思います。当院でも加齢により通院が大変な方がいるという事実を受け止め、そういう方々に医療や介護を提供する基盤をつくっていきたいと考えています。今現在も、通院に困難を抱えている方や、在宅医療への切り替えを検討している方から、どうしたら良いかわからないという相談を受けることがあります。地域包括支援センターなど介護問題を相談できる場所もありますが、その情報を知らない方も少なくありません。基本的に当院は、他の病院やケアマネジャーなどの紹介で在宅医療の相談をされる方がメインですが、直接のお問い合わせにも対応しております。必ずしも医療として関わらなくても、在宅医療・介護全般に関わることで心配事があれば、お気軽にご相談ください。

