伊藤 高史 院長の独自取材記事
いとう歯科医院
(杉並区/西荻窪駅)
最終更新日:2026/10/08
西荻窪駅南口から徒歩約7分、1934年に開院した「いとう歯科医院」は、西荻南口仲通街から続く、個人店が軒を連ねる通りを少し入った所にある。石張りの腰壁の外観が特徴的な歯科クリニックだ。戦前から、この地で地元密着型の歯科医院を営んできた同院。3代目院長を務める伊藤高史先生は、勤務医時代に治療で行き詰まった際に父から助言をもらったことをきっかけに、昔ながらの手技や保険診療の有用性を実感。以来、保険診療を専門的に取り扱い、患者のことを考えた公明正大な診療をモットーに治療にあたっている。入れ歯治療では、修理・調整・作製を学んだ伊藤院長が、自身の手で責任を持って対応し、1時間から半日ほどで仕上げている。移り変わりの激しい歯科業界にあって、実を尽くす医療を続けてきた伊藤院長に話を聞いた。
(取材日2026年9月3日)
西荻窪で90年以上、入れ歯の悩みに応え続けてきた
歴史のあるクリニックですね。

開院は1934年です。祖父、父に続き、私は3代目です。90年以上、西荻窪の松庵地区で地元の皆さんに支えられながら、歯科医院を営んできました。わが家には、歯科用プラスチックが存在しない昭和初期に祖父が作ったゴム床の義歯が残っているのですが、それを見ると歯科治療の歴史を感じます。祖父が診ていた患者さんで、今でも通っている方もいらっしゃいますよ。
お父さまは、どのような歯科医師でしたか?
子どもの頃に家族で食事に行ったりすると、父を見て声をかけてくださる方もよくいて、ご近所さんに愛されているなと感じていました。あと、昔はエアタービンがなかったのでエンジンで歯を削っていたんですが、そんな昔ながらの機器のことも記憶に残っています。
3代目として、レガシーを受け継がれたのですね。

実は、もともと継ぐつもりはなかったんです。大学を卒業した後は、先進の医療を学んで自分の道を切り開こうと、オフィス街にある大手の歯科医院で新しいインプラント治療を熱心に学んでいました。そんなある時、入れ歯の調子が悪いと訴える患者さんが来られたのですが、入れ歯の治療経験が少なくてどうしたらいいのかわからなかったんです。同僚の先生や院長に聞いてみると、「これはインプラントがいいかもしれない」「セラミックで全部作り直せば、うまくいくと思う」「歯茎が傷んでいるから、まず歯槽膿漏の手術が必要」などアドバイスをくださるのですが、何となく腑に落ちなかったんです。悩んで悩んで、わずかな望みを託して父に相談すると「噛み合わせが低いから上げてみたらいいよ」と一言。それを聞いて、ようやく腑に落ちたんです。
それは目からうろこの体験ですね。
昔ながらの父の診療から学ぶものはないと決めつけていたけれど、そうじゃなかったんですね。この一件で、「先進の医療が必ずしも良い医療とは限らない」と価値観が変わりました。実際、歯科においても新しい技術はどんどん出てきますが、ちょっと様子を見ているとトラブルが起きて、消えていくものもかなりあります。新しいものが正義とは限らない。特に入れ歯においては、昔ながらの手技が有用であることも多々あります。
伊藤院長自らが入れ歯の修理に対応
入れ歯治療が得意とのことですが、患者さんの何割くらいが義歯治療ですか?

8~9割が入れ歯の患者さんでしょうか。入れ歯の修理や調整の大半を、私が自分で対応しています。ほとんどの場合、1時間から半日もあれば患者さんにお戻しできますし、余計なコストがかからないことも喜ばれている理由なのではと思います。入れ歯の修理や調整は歯科技工士が行う場合、1週間程度かかってしまうことが多いんです。1週間も入れ歯がない状態で過ごすのは、患者さんにとって大変な負担です。だからこそ、できる限りその日のうちにお返しできるよう、院内で迅速に対応することを心がけています。
入れ歯の修理や調整の技術を、どのように身につけられたのですか?
先ほど話した大手の歯科医院の後、院内に歯科技工所のあるクリニックに移り、そこで診療時間後に入れ歯の修理や調整、作製の技術を集中して学びました。当院に戻ってからは、実践でたくさん学びましたね。自分で直すということは、100%自分の責任になりますからね。患者さんの不調の原因を見つけるためにトライアンドエラーを繰り返し、今ではノウハウが増えて失敗も少なくなりました。人に任せていると結局原因がどこにあるのかわからない、ということもあるので、自分で対応できて良かったと思います。今は、この技術を全国の歯科医師に伝えるために、セミナーなども開いています。
どのような入れ歯も修理できるのでしょうか?

何でもできるというわけではありませんが、過去に直すことが難しいと言われたような入れ歯や、何度修正しても壊れてしまった入れ歯を修理することもあります。例えば、真っ二つに割れてしまった場合でも、太めの補強を埋め込む補修をすることもできます。ただ、どうしても強度が足りなくなるので、新しく作り直すことも視野に入れたほうがいいのですが……。患者さんが長年愛用してきた入れ歯ですから、丁寧に修理してお渡しすることで、信頼につながると考えています。
インプラントより、入れ歯が向いているのはどのような場合でしょうか?
何事にもメリットとデメリットがあるため一概にはいえませんが、入れ歯の長所として、インプラントに比べて完成までの期間がかなり短いこと、外科手術が必要ないため大きなトラブルが起きづらいこと、費用が抑えられることが挙げられます。入れ歯を作るにしても自由診療で高価なものがありますが、もちろんデメリットはありますので、吟味されたほうがいいでしょう。
口のトラブルの大半は、保険診療で解決をめざす
御院では、保険診療にもこだわっているとお聞きしました。

祖父の時代からこだわってきました。保険が適用される、医療用のプラスチック素材などで入れ歯やかぶせ物を作った場合、調子が悪ければいくらでも削って調整できます。費用も抑えられますので、思ったより治療が長持ちしなければ、別の方法を考えることもできます。一方、自由診療には高い費用がかかりますから、そう簡単に方針を変えることはできません。残せる歯を抜いたり、たくさん削ったりすることもあり、不可逆的なリスクも伴います。ですから、特に初めて来院される方には、保険で必要最低限の治療を行い、まず患者さんの困り事の解決を図るようにしています。自由診療のすべてを否定しているわけではありませんが、何回かにわたって保険診療で治療を行い、患者さんとの信頼関係を築き、高価でもそれを上回る満足をしていただけると思えるようになってから導入すべき、と考えています。
患者さんの目線に立った診療方針なのですね。
地元で長く続けていくには、患者さんとの信頼関係が大事ですから。治療そのものだけでなく、「ここなら安心して相談できる」と思っていただけることが、地域の歯科医院として一番大切なことだと考えています。
ところで、お休みの日はどのように過ごしていますか?

長いこと太極拳を続けています。あとは、子育てを一生懸命していますよ。高校生の娘がいるんですが、週末は一緒に吉祥寺で買い物をしてご飯を食べたりしています。私は絵葉書が趣味で、一時は教室を開くほど熱中していました。娘も物作りが好きなんです。庭の池に住むカメをモチーフにした娘の作品を、院内にいくつか飾っています。中でもウミガメの時計は、美術展に選ばれて美術館に展示されたこともあるんですよ。ぜひご覧ください。
最後に、読者へのメッセージをお願いいたします。
熱が出て医療機関にかかったとき、検査をしたり、薬をもらったりするのに保険が適用されるのは当たり前のことです。歯科医院も同じで、保険診療で幅広い治療ができるように設計されています。当院では、保険診療をモットーとしていますので、歯の困り事、特に入れ歯の困り事があれば、ぜひご相談ください。

