井田 隆 所長の独自取材記事
桃井診療所
(杉並区/荻窪駅)
最終更新日:2024/04/18

荻窪駅西口からすずらん通りを歩いて4分、環八通り手前を左折した路地にある「桃井診療所」。明るいピンクの看板が目印の、透析を特色とするクリニックだ。腎臓内科を専門とする井田隆所長は、患者の話に注意深く耳を傾けることを重んじ、押しつけない診療を心がけている。誠実かつ、やわらかく相手を包み込むような雰囲気の持ち主で「これまで勤務先が変わるたびについてきてくれた患者さんもいるんですよ」というのも大いに納得できた。穏やかな井田所長を慕うスタッフも多く、院内は明るく居心地の良い雰囲気が漂う。外来、訪問診療なども合わせ地域医療に貢献するクリニックで、具体的にどのような治療を行っているのかなど詳しく話を聞いた。
(取材日2024年3月21日)
透析治療に注力し、訪問診療も行う町のクリニック
まず、こちらのクリニックの概要を教えていただけますか?

当院は1951年に設立された杉並第一診療所をルーツとする歴史あるクリニックです。外国人も含めたすべての近隣住民への医療提供をミッションとしてきましたが、診療所の顔ともなっている透析治療は1991年に代々木病院の透析部門の分院というかたちでスタートしました。透析の他に外来診療も行っており、腎臓を専門とする私の他、呼吸器、循環器、消化器、糖尿病、膠原病などの高い専門性を持つ医師たちが日替わりで診療にあたっています。どの医師も専門分野だけにこだわらず、風邪、腹痛、生活習慣病など幅広く診ているので、どんな小さなお悩みでも気軽にお立ち寄りください。自治体健診や各種ワクチン接種なども行っています。その他、訪問診療にも力を入れているのも当院の特色の一つといえるでしょう。
強みとしている透析治療について詳しくお聞かせください。
1階の外来とは分離して2階に透析専門のフロアを設け24床の透析ベッドを配置して血液透析を行っています。透析治療では患者さんに食事をはじめとした正しい生活習慣を身につけていただくことも欠かせません。当院では管理栄養士にベッドサイドを巡回してもらい「お困りはないですか?」とお声かけをしながら相談に応じるサービスを月に2回ほど実施しています。透析患者さんは慢性腎臓病の他にも持病をお持ちの方も多いのですが、もし悪化したとしても同一法人の中野共立病院へ入院しながら透析を受けることも可能です。また、車いす対応の無料送迎も行っており、施設から通われている患者さんもいらっしゃいます。
もう一つの特徴である訪問診療はどのように行っていますか?

訪問診療は週に3日、私を含めた3人のドクターで近隣を車で回っています。訪問診療を必要としているのは「通院は難しいが入院するほどではない」という方々ですが、年々増えていますね。当院は荻窪エリアでも早くから訪問診療に取り組んでいますが、今は訪問診療を専門とするクリニックも増え患者さんの選択肢も増えました。それでも「これまでなじんできた先生、慣れた薬がいい」と言ってくださる患者さんのために、できる限り要望に応えたいと思っています。同年代の患者さんを訪問することもありますが「先生が元気で働いている姿を見るのは励みになる」と、笑顔で迎えてくれる方もいらっしゃいますからね。また、急を要する往診にも同一法人の診療所と連携して365日24時間体制で対応しています。
患者と寄り添って病気と戦い小さな喜びも分かち合う
次に先生が医師になったきっかけやご経歴を教えていただけますか?

内科医師だった父をはじめ周りに医師が多い環境で、自然とこの道を選んでいました。東京医科歯科大学を卒業後、腎臓内科を専門に選んだのは、さまざまな病気のターミナルである腎臓が興味深かったからです。透析に至る理由は高血圧症、糖尿病、膠原病など多種多様で、すべてに精通していなくてはいけません。だからこそ勉強のしがいがあると思いましたし、当時は日本の透析治療の黎明期だったというのにも背中を押されました。大学病院を基盤に各地の病院に派遣され、へき地診療や単身赴任も経験。定年は新渡戸記念中野総合病院で迎え、教授職にというお誘いもありましたが、代々木病院の手伝いをしていた縁をたどり中野共立診療所のドアを私からたたきました。今まで診ていた患者さんも通いやすいだろうと考えたのですが、その後、同一法人の当院に常勤となりあっという間の約10年でしたね。
これまでの医師人生で忘れられない思い出はありますか?
大学6年生の頃、医師になる直前の臨床実習で出会った小さな女の子がいました。読書がとても好きな子で、いつも私と話すのを楽しみにしていてくれたんです。進級を控えていたので次の学年の本をプレゼントするなど仲良くなったのですが、私が群馬に帰省している間に亡くなってしまったと友達から連絡が来て……。最期まで私に会いたがっていたと聞きましたが、かなえてあげられなかったのが心残りで、忘れたことはありません。今でも彼女がそばで見守ってくれているような気がすることもあるんですよ。もしかしたら、これまでの医師人生をともに歩んでくれていたのかもしれません。
診療にあたって大切にしてきたことは何ですか?

私はいつも患者さんと一緒に病気と戦っていると思っています。患者さんの上に立つような振る舞いは、私は嫌いなんです。「明日はわが身」と自分事として考え、ともに悩んできたと自負しています。もちろん、医師として最善と思える治療法を提案しますが押しつけるようなことはしません。緊急の場合は別ですが、患者さんが心から同意していただけるまで辛抱強く待ち続け、一人ひとりに合わせた治療を心がけています。
やりがいを感じるのはどのような時でしょう。
患者さんの笑顔を見た瞬間ですね。病気が良くなった時だけでなく、食事制限していたものが食べられるようになったなど、小さな出来事でもともに喜び合いたいと思っています。家族と同じような感覚かもしれませんね。
心の距離が近いと感じる「居場所」を提供したい
今後の展望についてお聞かせください。

これまでどおり、透析治療を特色としながら訪問診療も含めて地域医療に貢献したいと思っています。同一法人の診療所が杉並区内に3つあり、それぞれ専門性が高い医師が勤務しているのですが、今後とも連携を深めていきたいですね。各診療所の患者さんたちが一堂に参加できる季節の行事、作品展、災害時の服薬に関する勉強会などを開催してきましたが、今後とも続けていく予定です。透析治療はどうしても週に3日、1回あたり4〜5時間はかかるので、おのずと当院で過ごす時間も長くなります。患者さんが安心して過ごせる「居場所」となることが何よりの願いです。4月からは女性医師も増え、外来は毎日、透析は火・水・金と診療していますが、女性の患者さんも多いので、よりストレスなく通院できるように整えていきたいと思っています。
お忙しい毎日ですが、休日はどうお過ごしですか?
読書が趣味で、昔は文学も好きだったのですが、最近は読む本も医学書ばかりになってしまいました(笑)。休日は妻に連れられてお店巡りを楽しんだり、散歩がてら近くの神田川のほとりを歩いたりしています。その日の天気や気分でサイクリングをすることもありますね。これといって何のスポーツもしてきませんでしたが、生活習慣病の患者さんに「同じウォーキングでも若い頃と年齢を重ねてからでは価値が違う。使う筋肉も別」などと運動を勧めている手前、自分もできるだけ動き回るようにはしています。健康のために肉と魚を交互に食べ、お酒は食後の楽しみとして土日だけコップ半分ほどの晩酌と決めているんですよ。
最後に、読者へのメッセージをお願いします。

当院では健診にも力を入れているので、働き盛り世代の方もぜひ足を運んでいただければと思っています。もし、何かの数値が引っかかっても、さまざまな分野を専門とする医師たちが控えているので当院での治療も可能です。おかげさまで、近隣の方々はもちろん、私が大学病院などで診ていた患者さんたちも足を運んでくれるのはとてもありがたく思っています。他県から通院している患者さんも結構いるのですが、物理的な距離をものともせず、つながりを感じてくださるのはやはりうれしいですね。これからも「心の距離」が近いクリニックをめざしていきたいです。