高崎 亮 院長の独自取材記事
豊島長崎クリニック
(豊島区/東長崎駅)
最終更新日:2025/06/09

西武池袋線の東長崎駅から徒歩で約5分の住宅街に位置する「豊島長崎クリニック」。高崎亮院長は、2010年の開業以来、内科・心療内科・精神科・整形外科の外来診療とともに、訪問診療にも力を注いできた。患者が住み慣れた自宅で安心して治療を受けられるよう、24時間365日の相談・診療体制を整えている。行政や地域との連携、訪問リハビリテーション、在宅医療相談などにも尽力。認知症の診療にも力を入れ、患者同士が集う場をつくることにも積極的に取り組んでいる。「患者さんのポジティブな面を引き出しながら、元気な笑顔を増やしていければと思います」と優しく語る高崎院長に、同クリニックの特色や患者への思いについて聞いた。
(取材日2021年6月18日/2023年4月11日)
専門家たちによるこまやかな外来診療と訪問診療を提供
まずはこちらのクリニックの特色についてご紹介いただけますか。

当クリニックは、精神科と内科を中心とした外来診療と訪問診療を行っています。精神科では認知症の治療に力を入れており、外来診療のうち7割くらいの患者さんが認知症鑑別のために来院されています。内科では風邪のほかに、糖尿病や高血圧などの生活習慣病の患者さんが多いですね。精神科には常勤の日本精神神経学会精神科専門医がおり、内科には日本神経学会神経内科専門医、日本内科学会総合内科専門医の資格を持つ医師が在籍。専門性の高いこまやかな診療を提供できることが強みです。医師だけでなく、看護師、精神保健福祉士、管理栄養士などのスタッフがチーム一丸となって、患者さんそれぞれに生じた問題を一緒に解決していくことをめざしています。スタッフは院内連携だけでなく、地域における多職種との連携も意識しながら動いてくれています。
認知症治療について詳しくお聞かせください。
認知症の治療では、症状はもちろんのこと、患者さんの家庭環境や内科的な体調の変化にも気を配る必要があります。そのため診察前に必ず精神保健福祉士や看護師が相談に応じ、診断前支援を行っています。その後、診察、心理検査、画像検査、血液検査などを経て鑑別診断を行った後、その方に合わせた治療や支援を計画し、多職種と協働で診断後支援を行っています。また2024年度から、認知症抗体医薬を用いた治療を行っていることも特色の一つです。認知症は、誰でもかかり得る「一般的な疾患」だといえます。生活習慣病が認知症のリスクと結びついていることもあり、まだ認知症の症状が出ていない方に対しても、あらかじめ理解を深めていただくよう、必要に応じてお話しさせていただくこともあります。
「認知症疾患医療センター」としての役割も担っておられるそうですね。

ええ。当クリニックは、2015年に東京都から「認知症疾患医療センター」としての指定を受けました。豊島区における認知症治療の柱的存在をめざし、ご家族や介護者を支援する体制を構築しています。医療と介護の連携を図りながら、認知症に関する情報発信や講習会などにも積極的に取り組んでいます。また、認知症と診断された方がその後も希望を持って暮らせるよう、「豊島長崎オレンジサークル」の活動も行っています。そこでは、当事者の方々に向けた進行予防のためのプログラムやミーテイングなどを、月1回無料で開催しています。
24時間体制で患者と家族を支える訪問診療
訪問診療について教えていただけますか。

訪問診療では、通院や入院が困難な方、自宅療養を希望する患者さんに向け、住み慣れたご自宅での診療を提供しています。地域の支援者とこまやかに連携を図り、必要に応じて訪問薬剤や訪問看護の手配もしています。訪問診療を受けている患者さんには私たちの緊急連絡先をお伝えしており、24時間体制で緊急の連絡をお受けできる形です。ご連絡をいただいたら、医師または看護師が状況を判断し、必要に応じて速やかに薬の処方や往診、他の医療機関への受診や入院手配を行います。スタッフの負担は少なくありませんが、それぞれが医療に対する強い志を持ち、患者さんの笑顔に接することをエネルギーに、力を合わせて対応させていただいています。
どういった思いで訪問診療に臨んでおられますか。
患者さんとご家族の間に、医療のプロである私たち第三者が入ることは、大いに意味があると考えています。疾患の進行具合を客観的に注視していくことができますし、お薬をきちんと飲んでいるかどうかなどの確認もできます。必要に応じてケアマネジャー、精神保健福祉士を交えてさまざまな相談に応じ、患者さんやご家族にとって何がベストかを探っていきます。その時々の患者さんに必要な医療やサポートを適切に提供することが、何よりも大切であると考えています。また、最近はお一人暮らしの高齢の方も増えてきています。お一人暮らしの方の場合は、症状の進行に気づきにくいことが難点です。けれど私たちが介入することで、入院に至る前に適切なサポートができるのも利点だと思います。
患者さんとの印象的なエピソードがあればお聞かせください。

私は勤務医時代から、さまざまな患者さんの訪問診療に携わってきました。患者さんのご自宅に伺うと、その方がこれまで生きてきた歴史のようなものにふれられることがあります。その方の「核」となるようなものを探し、話題を振るようにしてきました。ある患者さんは、以前折り紙がとても好きだったことがわかり、折り紙の話をしたり、ご家族で折り紙の動画を見たりしているうちにご自身で折り紙を始め、素晴らしい作品を作って送ってくださいました。デザイナーだった患者さんは、ご自身が描いた絵を見せてくださったり、花が好きな患者さんは、道端に咲いていた花を摘んで持ってきてくださったり。その方が好きなものを思い出し、向き合うことで、日々の生活に対するモチベーションが向上し、気持ちも明るくなっていくのではないかと思います。患者さんのそのような姿が見られたらとてもうれしいですし、励みになりますね。
認知症治療、訪問診療の拠点として地域に根差す
患者さんと接する際に心がけているのはどのようなことでしょうか。

高圧的にならず、なるべく相談しやすい雰囲気をつくり、患者さんからの言葉を待つようにしています。患者さんが何をしたいのか、何を望んでいるのか。ネガティブな面よりもポジティブな面に注目してそれを引き出し、治療に前向きに臨んでいただけるようサポートしています。また、精神症状はエビデンスだけでは解決につながらないことも少なくありません。患者さんが語る「病気になった理由」「経緯」「症状」「病気についてどのように考えているか」などをベースに、患者さんが抱える問題を全人的に把握し治療法を考える「Narrative based medicine(対話重視の医療)」の概念を大切に、患者さんとの対話を通して良い関係性をつくっていきたいと思っています。
他に、読者に知っておいてほしいことはありますか。
豊島区では70歳、75歳、80歳の区民に対して認知症検診の受診を推奨しています。該当の方は区から送付された「自分でできる認知症の気づきチェックリスト」を試していただき、気になるような場合、まずはかかりつけ医に診てもらうことができます。当クリニックは、先ほど申し上げたように「認知症疾患医療センター」であり、詳しい鑑別を行う医療機関として機能し、かかりつけ医と連携を図りながら支援に結びつけていきます。高齢化が進む中、認知症はますます身近な疾患となっていくでしょう。早期発見、早期予防のために、当クリニックでも認知症検診を推し進めていきたいと思います。
最後に、地域の方々へメッセージをお願いします。

これまでどおり、患者さんとご家族の希望に沿った医療を提供できるクリニックでありたいです。年齢を重ねると、心身の活力が低下した状態、いわゆるフレイルに陥りやすいとされます。フレイルを予防するためには、適切な食生活や運動のほか、社会参加や趣味活動など周りの人とのコミュニケーションがとても大切だといわれています。つまり、フレイルを予防することが、認知症予防や介護予防につながると言えるでしょう。そのため当クリニックでは、管理栄養士などのスタッフが中心となり、患者さんが集まって工作を行ったり対話を楽しんだりする会を定期的に開催しています。このような場づくりも続けていきたいですね。今後も訪問診療と認知症治療の拠点として地域に根差し、患者さんを治すだけでなく、元気になっていただけるような診療をめざしていきたいです。