久保田 芳明 副院長の独自取材記事
久保田クリニック
(豊島区/西巣鴨駅)
最終更新日:2022/09/22
都営三田線西巣鴨駅から徒歩6分。昔ながらの商店が立ち並ぶ庚申塚商店街沿いに「久保田クリニック」がある。久保田芳明副院長は、80年にわたりこの地域の健康を支え続けている同院の4代目。大学病院に勤務する傍ら、父である久保田一輝院長の片腕として診療にあたってきた。クリニックの一番の強みは「地域医療連携」。近隣の大学病院や総合病院と手を携え、新鋭の設備と診療をもって患者の日々の健康を守っている。今回は、一輝院長と二人三脚で診療を行い、大学病院で先進の医療を学んできた芳明副院長に、クリニックの今後の展望について聞いた。
(取材日2014年2月27日/情報更新日2022年9月5日)
80年、4世代にわたって地域医療を支えるクリニック
貴院の成り立ちや特徴について教えてください。
1943年に曾祖父がこの地に久保田医院を開業、その後1953年に久保田病院、そして2010年4月に久保田クリニックと、時代によって規模を変えながら、約80年間4代にわたって地域の方の健康に関わってきました。父である院長は、今も久保田病院時代からの患者さんを継続して診ていますよ。また、「地域医療連携」を推奨し、役割に応じて大学病院、総合病院と連携しているのも当院の特徴です。慢性期の治療はこちらで、ここでできない検査や治療は連携先の病院にお願いしています。私の勤務先である日本医科大学付属病院の循環器内科の外来の患者さんを、当院で継続して診ることもありますね。院内で超音波や24時間心電図などの検査は行えるので、当院に日曜日に来院された方でも必要があればすぐに病院に入院していただけます。
クリニックのある西巣鴨はどんな土地柄なのでしょう?
当院は庚申塚商店街という昔ながらの商店街沿いにあるのですが、野菜や果物が必要なときは電話一つで配達してもらえる、そんな間柄です(笑)。久保田病院時代からこの地で過ごしている院長や受付を担当している母は、地域に住む方ほとんどと顔見知りですよ。この商店街一帯は、当院の往診範囲でもあり、院長は皆さんの健康状態もほぼ把握しています。3世代、4世代と長く通ってくださっているご家族も少なくありませんね。医療と聞くと敷居が高く感じがちですが、普段のお付き合いの中でのちょっとしたコミュニケーションから、いわゆる家庭医療、それぞれの方の健康の悩みにトータルに介入していけるようになるといいなと思っています。
地域の方だけでなく、大正大学とも連携されているそうですね。
大正大学とは地続きですからね。院長が校医として学生さんの健康面のサポートをしています。実は当院の2階は大正大学の保健室になっているんですよ。保健室に来室された方に医療介入が必要かどうかは、院長が判断しています。大学がセンター試験の会場にもなっていますので、試験中に具合が悪くなって保健室を利用される方もいらっしゃいますね。学生さんの健康サポートだけでなく、健康に関する講演会なども開いて、ますます関係を深めていけたらと考えています。
循環器疾患に潜む糖尿病、睡眠時無呼吸症候群を注視
どんな患者さんが多いのでしょうか?
風邪などの一般疾患や血圧、糖尿病、コレステロールなどの生活習慣病、花粉症などのアレルギーなど、さまざまな疾患のある方がいらっしゃいますね。私は日本循環器学会循環器専門医ですので、「胸が痛い」「動悸がする」とおっしゃって来院される方も対応しています。最近は循環器疾患の患者さんが実は糖尿病にかかっていたり、予備軍だったりするケースがあることもわかってきたので、糖尿病の治療も併せて行っています。
循環器疾患と糖尿病が関係しているということですか?
心筋梗塞の患者さんのおよそ半分は、糖尿病や糖尿病予備軍といわれています。ですから疑いがあれば検査をして、糖尿病と診断された場合、きちんと治療をする必要があります。そうしないと再び心筋梗塞を引き起こす可能性が高くなりますから。心筋梗塞と糖尿病を別々に診るのではなく、知識を持った医師がトータルに患者さんを診ていくことで、リスクも軽減できるはずです。私自身が大学病院の外来でそういった患者さんを多く診ていることもあって、当院にも同じようなケースの方が多いですね。二度と心筋梗塞を起こさずに済むよう、糖尿病の治療を行いながら病状をコントロールしています。
近年、睡眠時無呼吸症候群(SAS)が増えているようですね。
睡眠時無呼吸症候群は呼吸器内科や耳鼻科の領域とされていましたが、最近は循環器疾患のそもそもの原因ではないかと考えられているんです。例えば、高血圧や糖尿病、脂質異常症の治療中にも関わらず、心臓の病気で入退院を繰り返す方を検査すると、かなりの割合で睡眠時無呼吸症候群であることがわかっています。また、心筋梗塞や心不全の裏にも、睡眠時無呼吸症候群が隠れているケースは少なくないでしょう。当院には入院施設がありませんので、ご自宅で簡単なスクリーニング検査をしていただき、その結果によっては総合病院に連携し、より詳しい検査を受けていただきます。もし病気が見つかったら、それぞれの状態に合わせた治療が必要です。いびきが大きい、睡眠中に呼吸が止まる、日中眠いなどの症状があっても、「いつものことだから」と病気に気づかれない場合が多いですね。
禁煙治療にも力を入れていらっしゃるとか。
禁煙のための新しい内服薬が出たのを機に、近年は広く内科の医師も禁煙に介入すべきだと言われるようになりました。喫煙そのものは病気ではありませんが、将来、心筋梗塞や脳梗塞、肺がん、肺気腫などのリスクにつながります。また、タバコを止めて平均8年たつと、心臓への影響が減ることも最近わかってきました。禁煙の治療薬にはさまざまな副作用があるので、専門的な医療機関の受診をお勧めします。ほとんどの場合は保険診療ですから、費用面でも喫煙を継続するより負担は少ないと思います。余談ですが、日本循環器学会循環器専門医や日本呼吸器学会呼吸器専門医の資格条件には、喫煙しないことが挙げられています。自分でタバコを吸っていたら、患者さんに「禁煙しなさい」とは言えませんからね。
複数の病気の関連性に着目し、「全人的医療」をめざす
理想の医師像と、今後の展望について教えてください。
「全人的医療」という言葉のとおり、一つの病気に留まらず、一人の患者さんをトータルに診ることのできる医師になりたいですね。大学病院では入院の患者さんを担当していますが、休日関係なく毎日少なくとも1回は顔を合わせたいというのが、医師として大切にしている想いの一つです。患者さんとの距離を縮めれば、ふだん医師に対して言いにくいことも話しやすいでしょうし、治療に必要な情報も見つけやすいのではないでしょうか。また、患者さんの慢性期を担う地域のクリニックであっても、大学病院レベルの治療が受けられるよう努力していきたいです。もちろん当院ではできない検査や治療は、大学病院などと連携し、一人ひとりが必要なタイミングで検査、治療を受けられるよう配慮しています。今後は、地域の方が医療を身近に感じたり、予防について学んだりできる勉強会も開いていけたら。
「全人的医療」の充実が、病気の予防につながるのですね。
心筋梗塞の患者さんが実は糖尿病だったり、高血圧の方が睡眠時無呼吸症候群であったり、喫煙が将来の心不全につながったりと、いくつか原因が組み合わさって状態を悪化させることもあります。ホームドクターとして、何が大きな病気の原因となるのか、病気をどう予防すべきか、患者さんにそれをどう理解していただけるかを常に考えていなくてはなりません。そのためには最新の知識を得る努力も怠れませんね。
副院長にとって、お父さまはどのような存在ですか?
忙しく医師の仕事をこなす父を見ていて、とてもやりがいがある仕事だと子どもの頃から感じていました。小学校の卒業文集を読み返すと、「将来、父の後を継ぎたい」と書いてあります。何だか恥ずかしいですけれど(笑)。時々、「最近のお医者さんは冷たい」と耳にしますが、父は昔から患者さん第一の優しい医師だと思います。久保田病院時代には、父が診察している方を別の診療科におぶって行ったこともあるそうです。今でも、患者さんの具合が悪くなればすぐ往診に出かけたり、薬を忘れたらご自宅まで届けたり、何しろフットワークが軽いんです。また肺炎で毎日の点滴が必要な患者さんがいれば、休診日とは関係なく治療にあたります。父の生活の一部が、患者さんであり、診療なんですね。面と向かって口にはしませんが、医師として父をとても尊敬しています。