赤枝 恒雄 先生の独自取材記事
むすび葉クリニック渋谷
(渋谷区/渋谷駅)
最終更新日:2026/02/13
渋谷駅・恵比寿駅から徒歩約10分の場所にある「むすび葉クリニック渋谷」は、2015年5月開院の地域密着型クリニック。「住み慣れた場所で自分らしく」をコンセプトに、内科・脳神経内科・皮膚科を標榜。訪問診療や通所リハビリテーションにも注力し、本人と家族の生活背景を踏まえた医療を実践している。2025年7月からは、新たに婦人科外来を開設。診療を担当する赤枝恒雄先生は、産婦人科の医師として50年以上のキャリアを持つ。医療機関での診療のほか、望まない妊娠や性感染症から女性を守る「ガールズガード運動」などのボランティア活動を展開するなど、女性の健康と人生に向き合い続けてきた赤枝先生に、これまでの取り組みと診療への思いを聞いた。
(取材日2026年1月30日)
半世紀にわたり、女性の健康と人生に寄り添う
2025年7月から婦人科の診療を開始されたそうですね。

はい。毎週金曜の9時半から18時まで診療しています。私は1977年に港区・六本木で「赤枝六本木診療所」を開設し、長く産婦人科医療に携わってきましたが、近年の医療保険制度の複雑化に対応しきれず2025年1月に閉院いたしました。そんな折、当院の司馬清輝理事長から「うちで診療しませんか」と声をかけていただいたのです。司馬理事長は大学の後輩でもあり、先進の内診台を取り寄せるからと言ってくれましたので(笑)、お引き受けすることにしました。かつての診療所に近い麻布十番バス停から、当院最寄りの渋谷車庫前バス停まで乗り換えなしで来られますから、六本木で診ていた患者さんも通いやすい立地で、引き続き診療できることをうれしく思っています。
こちらではどのような患者さんを診察されていますか?
生理の悩みや不正出血、外陰部のかゆみや痛み、不妊症の相談など、婦人科診療全般に対応しています。特に多いのは、おりものの異常から性感染症を心配される患者さんですね。おりものの異常というと性感染症を疑われがちですが、必ずしもそれだけが原因ではありません。寝不足や過労、お酒の飲みすぎなどで体調が崩れると、腟内の環境にも影響が出ます。腟の中にはさまざまな細菌が存在し、健康な状態ではデーデルライン桿菌(かんきん)と呼ばれる乳酸菌が優位で、腟内は弱酸性に保たれています。この環境が、ほかの雑菌の侵入や増殖を防いでいます。しかし、疲労などでこのバランスが崩れると、おりものの異常といった症状が出やすくなります。生活習慣が背景にあるケースも少なくなく、その場でおりものを顕微鏡で検査をすることは、体調変化やトリコモナスやカンジダは即刻発見することにも有用です。気になる変化があれば早めに相談してほしいと思います。
おりものの異常で受診した場合の診察内容を教えてください。

まずは採取したおりものを検査しますが、私は外注に出す前に診察室で顕微鏡をのぞいて自分の目で確認します。顕微鏡で見れば、カンジダ症やトリコモナス腟炎、細菌性腟症などはその場で診断でき、すぐに治療を始められます。一方で、雑菌が見つかっても乳酸菌が多く腟内環境が保たれていれば、次の生理で自然に改善することもあるため、経過を見る選択をする場合もあります。クラミジアなど顕微鏡では確定できない感染症はPCR検査が必要ですが、まず顕微鏡で確認することで不要な検査を避けられ、結果もすぐに伝えられます。患者さんの不安を減らし、その人に合った対応ができる点が顕微鏡診断の意義であり、患者さん一人ひとりに寄り添った診療につながると考えています。
診療やボランティアで性感染症予防に取り組む
先生はこれまで、クリニックでの診療とは別に、ボランティア活動にも取り組んでこられたそうですね。

クリニックに来られる患者さん以外の方たちにもアプローチが必要だと感じ、始めたのがボランティア活動です。六本木の診療所で診察していると、性感染症で受診する10~20代の若い女性が非常に多く、しかも重症化してから来院するケースが目立っていました。知識不足だけでなく、親や学校の先生には相談できない事情もあるのだろうと感じ、1999年から六本木のハンバーガー店で、若者の性の悩みに答える「街角女性相談室」を始めました。性感染症や望まない妊娠を防ぐには、コンドームを正しく使うことが大切です。低用量ピルを服用しても、コンドームを使わなければ性感染症のリスクは防げません。ですので、コンドームの使い方を何度も繰り返し伝えてきました。
HIVの検査啓発にも力を入れていらっしゃるとか。
現在も私が代表理事を務めている団体のボランティア活動「ガールズガード」の一環として、若年層や日本に滞在する外国人の方を主な対象に、HIVと梅毒の検査を推奨する啓発活動を2002年から行っています。HIVはヒト免疫不全ウイルスのことで、感染すると、将来的にエイズという病気を発症することがあります。HIVに感染しても長い間自覚症状が出ないことがあり、気づかないまま他人に感染させてしまう可能性があります。少しでも不安があれば、早めに検査を受けてほしいですね。梅毒も近年増加している性感染症ですが、早期に発見し治療すれば完治が見込めます。正しい知識と検査が、予防と早期対応につながると考えています。
性感染症について若い人たちにアドバイスをお願いします。

以前は「パートナーは一人に決めて、婚約するまではコンドーム」と伝えてきましたが、今はそれが現実的でないケースも多いと感じています。だからこそ、コンドームを正しく使うこと、そして早期発見のために検査を受けることが大切です。「私は彼一人だから大丈夫」と言う女の子もいますが、相手には複数のパートナーがいるかもしれません。ですから私は、パートナーと初めて関係を持つ前と、別れた後に、お互いが少なくともエイズ・梅毒・淋病・クラミジアの検査を受けることを「けじめ検診」と呼び、勧めています。性感染症から体を守ること、そして、いつ・どこで・誰と性関係を持つのかを自分で決める「性的自己決定権」を守るためにも、ぜひ意識してほしいと思っています。
患者の顔をきちんと見て話を聞く。丁寧な診察を大切に
診療で心がけていることは何ですか?

まず患者さんの話をよく聞くこと、そして必ず患者さんの顔を見てお話しすることです。それから、脈を取ることも大切にしています。手で触れて脈を確認すると、脈の強さやリズムだけでなく、血圧の状態や体が冷えているかどうかなど、さまざまなサインが見えてきます。最近はパソコンの画面に目が向きがちですが、医療はデータだけではありません。顔色や表情を見て、声の調子を聞き、必要なときは手で触れて確かめる。そうした基本を丁寧に積み重ねることが、患者さんの安心につながると思っています。受診先を選ぶときも、きちんと顔を見て話を聞いてくれる医師かどうかを見極めてほしいですね。
ところで、先生の元気の源は?
私の父はとても厳しい人で、小学校低学年の頃から書道、弓道、バイオリンを強制的に習わされました。当時は本当に嫌で、親の気持ちなどまったく理解できませんでした。ただ今になって振り返ると、80歳を過ぎた今も元気に診療を続け、さまざまな活動に取り組めているのは、弓道で身につけた体力や、書道で養われた集中力の賜物かもしれません。そう思うと、今の私があるのは厳しかった父のおかげなのだと、この年になってようやく実感し、感謝する気持ちが芽生えてきました。バイオリンは語学上達のため耳を鍛えることが目的だったのですが、大人になって小唄を嗜むようになり、2024年には師範試験に合格しました。最近は講談にも挑戦しているんですよ。
今後取り組んでいきたいことや、読者へのメッセージをお願いします。

今後は子育て支援にも力を入れていきたいと考えています。子育ては大変なものではなく、楽しくてかっこいいものだということを伝えていきたいですね。個人活動としては、子育てを「ファッション」として捉え直し、著名人が楽しそうに育児をする姿を発信するなど、新しい取り組みも構想しています。一方で、これまでどおり性教育の啓発も、動画配信などを通じて積極的に行っていきたいです。インターネット上には誤った情報も多く見られますが、たった1枚のコンドームが性感染症から自分を守り、望まない妊娠を防ぐために重要な方法であることを、すべての女の子に知ってほしい。また、大切な人を守るためにコンドームを使うことが思いやりだという、男の子の意識改革も重要です。迷ったとき、困ったときは一人で抱え込まず、ぜひ相談してください。

