司馬 清輝 理事長の独自取材記事
むすび葉クリニック渋谷
(渋谷区/渋谷駅)
最終更新日:2025/12/29
JR山手線渋谷駅・恵比寿駅から徒歩約10分。2015年5月に開院した「むすび葉クリニック渋谷」は、六本木にある「むすび葉クリニック」の分院として開設された。同院では訪問診療に力を入れており、外来の患者が訪問診療へ移行するケースも多く、外来から在宅まで、切れ目なく対応できる点が特徴だ。理事長の司馬清輝(しま・きよてる)先生は東京医科大学卒業後、呼吸器外科を専門に研鑽を積んだ後「むすび葉クリニック」を開設。温かく親しみやすい地域で医療に携われること自体が幸せだと語り、いつまでも安心を届けられる存在でありたいと話す。てきぱきとした語り口の中にも、やわらかな温かさがにじみ出る司馬理事長。これまでの歩みや、診療で大切にしていることを聞いた。
(取材日2025年12月6日)
“非常勤を渡り歩く医師”から訪問診療の道へ
先生が訪問診療を志した経緯を教えてください。

医師としては呼吸器外科を専門に、霞ヶ浦医療センターなど複数の医療機関で研鑽を積んできましたが、治療方針を自ら決められない環境に違和感を覚え、医局を離れることにしました。その後は、病院から有料老人ホーム、美容クリニックなど、求められるままにさまざまな現場へ出向き、いわば“フリーター医師”のように働いていました。縁あって開業した最初のクリニックはオフィス街にあり、患者さんはビジネスパーソンが多かったのですが、時折、社会的弱者といわれる方々を診る機会もありました。通院が難しい方ほど医療を必要としている現実を目の当たりにして「医療機関に来られない人にも医療を届けたい」と思ったことが、訪問診療を志すきっかけになりました。
どのような患者さんが多いですか?
疾患を限定せず、どんなご相談でもお受けしています。もともと呼吸器外科が専門ですが、皮膚科や循環器科、眼科、認知症など領域を問わず幅広く対応しています。認知症の方は体が元気なケースも多く「動けるのに訪問診療を利用していいのか」と迷うこともあるようです。しかし、認知症は治療方針だけでなく、ご家族がどう支え、生活をどう整えていくかという視点が重要で、その意味で訪問診療の価値は大きいと感じています。ご自宅でも胃ろう管理や末梢静脈栄養の点滴を含む多くの処置に対応できるため、医療機関に行くこと自体が大きな負担となってきた方や、家族だけでは不安がある方など、どんなケースでもまずは気軽にご相談いただきたいです。
在宅医療と外来診療、どちらも利用できるのですか?

もちろんです。当院以外の医療機関に通院している方でも問題ありません。ご家族が苦労して医療機関へ連れて行って長い待ち時間の末に受診しても、医師が忙しそうで聞きたいことが聞けず、モヤモヤしたまま帰宅する方も多いのではないでしょうか。そうした思いや疑問も含めて、まずは私たちに話していただければ、必要に応じて情報提供をお願いし、外来の主治医の考えも踏まえながら、わかりやすく整理してお伝えします。当院に通院している方の場合は、外来診療と病診連携、訪問診療を同じ医師が一貫して担当するため、ご本人もご家族も安心して医療を受けられるのではと思っています。「今、外来で診ている方が将来的に通院できなくなったときは、すべて私が伺う」くらいの気持ちでいます。
家族の一員のように、なんでも話してほしい
医療機関で「先生の説明が理解できなかった」という話はよく聞きますね。

そういった声はよく耳にしますし、理解できなくても「もう少しわかりやすく説明してほしい」と言いづらい雰囲気があるのも現実です。過去に勤務していたクリニックで、ご本人もご家族も悪性腫瘍であることを理解しないまま帰宅されたことがありました。外来の医師が「悪性腫瘍です」と説明していないはずはなく、専門用語が多く難しい説明になりがちな医療従事者側の事情と、良くない病気だと認めたくない患者さん側の無意識が重なり合い、行き違いが生まれたのだと思います。このケースでは一時期ほぼ毎日ご自宅に伺い、画像について詳しく説明したり、日々の状態の変化を丁寧に共有し続けたりしました。最終的には看取りについても話し合うことができました。諦めず、毎日訪問して良かったと強く感じた経験です。
クリニックとして大切にしていることはありますか?
ハードルを低くすることですかね。医師と患者さんという垣根を感じさせないよう、フレンドリーに話すようにしています。それが絶対的な正解だとか、医師はこうあるべきだとは思っていませんし、お客さまのように丁寧に接してほしいという方がいることも理解しています。ただ、私はできるだけ自然体で向き合いたいと考えているので、緊張を和らげるために雑談のような会話も大切にしています。同時に、こちらも家族の一員のような立場で、伝えるべきことはしっかり伝えます。その上で、今後どうしていくか一緒に考えるのが、地域医療の本質です。単に病気を治療するだけでなく、生活背景や状況を踏まえた支援が重要です。“正しい治療”を押しつけるのではなく、本人やご家族の人生にとって何が最善か考えることを大切にしています。
同じ視点で向き合ってもらえると、医療を受ける側も安心できると思います。

その方やご家族の事情をきちんと考えることが本当に大事だと、改めて感じたケースがあります。過去の勤務先で診ていた患者さんに、膵臓がんで手術を勧められた方がいました。手術すれば回復の見込みがあると説明されていたにもかかわらず、どうしても首を縦に振られませんでした。その理由が見えないまま手術が有用であることを伝えても前に進まなかったのですが、時間をかけてお話を伺ううちに、自分が入院中に奥さまが1人で生活できないのではという心配と、手術で自分に何かあったとき奥さまの行き場がなくなるのではという不安を抱えていることがわかりました。ただの拒否ではなく、家族を思う気持ちが根底にあったのですね。治療の提供だけでなく、その人の気持ちを受けとめることの重要性を、深く感じた出来事でした。
ここで地域医療に携われていることが幸せ
クリニックの内装からも、親しみやすい雰囲気が伝わってきます。

当院はスタイリッシュさ・かっこよさではなく、どこか懐かしい昔ながらの診療所の雰囲気を大切にしています。デイケアなどで使うリハビリテーション室の機材も色とりどりです。見た目が明るいでなく「では次は赤いマシンにしましょう」といった具合に、利用者さんへ説明もしやすいのが特徴です。院内づくりはスタッフが主体となって動いてくれており、明るいスタッフが多いため、自然と親しみやすい空気が生まれています。また、当院ではダンス講座も行っています。普段は外出を渋る方が、ダンス講座のために「ここなら行く」と言ってくれるそうです。ご家族から感謝の言葉をいただく場面もあります。
お忙しい中、どのように気持ちをリフレッシュしているのですか?
家で子どもと笑い合ったり、軽く晩酌したりするくらいですね。臆病なところがあり、自分が休んでいる時に何かあったらどうしようという気持ちがどこかにあって、実際には土日も含めて休みらしい休みはほとんどありません。在宅医療を始めてからの5年ほどは東京からも出なかったほどです。以前、夕食後にコールがあり、タクシーで駆けつけたことがありました。申し訳ない気持ちでいっぱいでしたが、患者さんから「来てくれてありがとう。休むときは休んでくださいね」と言っていただき、その理解が何よりの励みになりました。最近は引き際や今後のことも考え、複数の医師での体制も考えていますが、それでもファーストコールは絶対に自分が受けたいと考えています。まず私が話を聞き、状況を把握した上で、必要に応じて院内の医師に行ってもらう形にしたいですね。
最後に、読者へのメッセージをお願いします。

この地域は古くからの住民が多く、高齢の方同士が「小学校の同級生なんだよ」と話していたり、子ども同士も自然につながっていたりと、とてもアットホームな土地柄だと感じています。そんな温かい場所で医師として地域医療に携われていること自体がうれしく、頼りにしていただける度に「医師になって良かった」と思います。医学部に進学させてくれた両親にも感謝が湧いてくるほど、今の環境をありがたく思っています。3~4歳から当院に来ていた子が成長して「医学部に行きたい」と相談してくれることもあり、まるで家族の一員に迎え入れてもらえたように感じますね。聞いてはいけないことなど何もないので、どんなことも気軽に相談していただければと思います。

